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第23話 観測されるという事

「“昔から”なら何やってもいいわけ?」


「嫌がってる子供見ても黙ってる方が正しいの?」


酒場の空気が冷えていく。


でも。

どくん。

身体は逆に軽くなっていった。


「……なんなんだよお前」


誰かが呟く。

笑っていた連中も、 少し引いた顔をしていた。

でも逆に、 面白そうな顔をしてる若い冒険者もいる。


「いやでも言ってることは分かるけどな」


「分かるけど空気悪くしすぎだろ」


「それな」


つめの眉がぴくっと動く。


「……空気ってそんな大事?」


「大事だよ」


中年冒険者が即答した。


「世の中、正しいだけじゃ回んねぇんだ」


「じゃあ間違ってても黙ってろって?」


「そういう話じゃ――」


「そういう話じゃん」


また空気が止まる。


ガルドが頭を抱えた。


「つめ、やめなさい」


「なんで?」


「今あんた完全に喧嘩してるから」


「向こうが絡んできたんだけど」


「でも乗ってるのはあんた」


図星だった。


つめは少し黙る。


でも。

どくん。

また身体が軽い。

熱い。

痛かった脚まで少し楽になっている。


「……っ」


気持ち悪い。

ミリがじっとつめを見ていた。


「……やっぱり」


「なに」


「嫌われると、増える」


「だから意味分かんないって」


その時。


若い冒険者の一人が笑った。


「でもあんた面白いな」


「え?」


「普通あそこまで言わねぇもん」


周囲がくすっと笑う。

馬鹿にした笑いじゃない。

興味の笑い。

つめは少しだけ目を瞬いた。


「……別に」


「祠壊したのもマジなんだろ?」


「怪物殴ったって?」


「だから殴ってないし」


「でも倒したんだろ?」


視線が集まる。

また。

つめは喉が少し熱くなるのを感じた。

昔と似ていた。


イベント後。

囲まれて。

写真撮られて。

知らない人達に話しかけられる感じ。

嫌いだったはずなのに。


「……まあ」


つめは少しだけ口角を上げた。


「最後刺したの私だし」


「うお、言った」


「調子乗ってきた」


周囲が笑う。

ガルドが嫌そうな顔をした。


「つめ」


「なによ」


「今ちょっと気持ちよくなってるでしょ」


「なってないけど?」


即答だった。


でも。

図星だった。

その時。

さっきの中年冒険者が鼻で笑う。


「新人が有名人気取りかよ」


空気が変わる。


「調子乗るとすぐ死ぬぞ」


「……」


つめの眉がぴくっと動いた。


「別に人気者になりたいわけじゃないし」


「でも目立つの好きそうだよなお前」


どくん。

熱。

つめは少し黙った。

否定したかった。


でも。

完全には否定できない。


「例の“祠壊し”だっけ?」


誰かが面白半分で言った。

酒場が少しざわつく。


「うわ、本人いる前で言う?」


「でも実際そうじゃん」


つめは顔をしかめた。


「その呼び方やめてくんない?」


笑いが起きる。

馬鹿にされてる。

面白がられてる。

変な奴だと思われてる。

最悪だった。


でも。

どくん。

また身体が軽くなる。

痛かった脚。

重かった身体。

頭の奥の霞。

全部、少しだけ薄れていく。


「……っ」


つめは息を呑んだ。

見られている。

嫌でも分かる。


視線。

興味。

嘲笑。

ざわざわした感情。


昔と同じだった。

炎上した時。 通知が止まらなかった時。 名前だけが一人歩きしていく時。

嫌だったはずなのに。


「……なんで」


つめは小さく呟く。


その夜。


安宿へ戻った後も、 妙に頭が冴えて眠れなかった。

暗い天井を見ながら、 つめは毛布を被る。

そして誰にも聞こえない声で、 ぽつりと呟いた。


「……なんで気持ちいいんだろ」

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