第22話 噂
「絶対おかしいって……」
つめは机へ突っ伏していた。
因習村の報酬は、四人で山分けすると驚くほど少なかった。
でも、他に行く場所もない。
この世界に身寄りなんてないし、ギルドの安宿は新人冒険者なら格安で泊まれた。
正直、文句を言える立場でもなかった。
狭い。
硬い。
うるさい。
しかも隣の部屋から笑い声が聞こえる。
「“祠壊した女”だってよ」
「やべーな」
聞こえてる。
普通に。
「うっざ……」
つめは毛布へ顔を埋めた。
でも
眠れない。
視線を思い出す。
ギルドで見られた感じ。
ひそひそ声。
噂。
嫌だった。
……嫌だったはずなのに。
「……」
なんか少し、頭が冴えている。
変な感じだった。
その時。
ばんっ!!
勢いよく扉が開いた。
「つめ!!」
「ぎゃっ!?」
ガルドだった。
「うるさ……」
「酒場来なさい」
「やだ」
即答。
「筋肉痛で死ぬ」
「いいから」
ガルドが腕を引っ張る。
「痛い痛い痛い!!」
数分後。
つめは半死半生で酒場へ連行されていた。
うるさい。
酒臭い。
最悪。
でも。
「あ」
空気が変わる。
酒場の視線が、一斉につめへ向いた。
「例の」
「黒髪」
「祠の」
「炎上の……」
聞こえてる。
全部。
つめは顔をしかめた。
「……帰りたい」
「もう遅い」
ガルドが笑う。
その時。
「おいおい本物かよ」
大柄な冒険者達が近づいてきた。
嫌な予感しかしない。
「村一個ぶっ壊したって?」
「壊してないけど」
「怪物殴ったらしいな」
「殴ってないし」
「でも祠は壊れたんだろ?」
つめはむっとした。
「勝手に壊れたの」
「ははっ、言うねぇ」
周囲が笑う。
馬鹿にされてるのか、面白がられてるのか分からない。
でも。
全員、自分を見ていた。
「なあ」
「その変な服、呪術師かなんか?」
「違うけど」
「じゃあなんなんだよ」
つめは少し黙る。
なんなんだろう。
コスプレイヤー。
とも違う。
冒険者でもない。
でも。
「……好きな格好してるだけ」
酒場が少し静かになる。
次の瞬間。
ぶはっ、と誰かが吹き出した。
「変な奴!」
笑い声が広がる。
つめは眉をひそめた。
普通なら腹が立つ。
でも。
どくん。
また身体の奥が熱くなる。
「……っ」
嫌な感じ。
でも同時に、妙に頭が冴える。
ミリが少し目を細めた。
「……また」
「え?」
「増えてる」
つめは聞こえないふりをした。
その時。
酒場の奥で誰かが言った。
「でもさぁ」
酔った男だった。
「正しいこと言ったからって、村壊していいわけじゃねぇだろ」
空気が少し変わる。
「あー」
「まあな」
「分かる」
つめの眉がぴくっと動いた。
「……壊してないけど」
「でも揉め事起こしたんだろ?」
「最初から空気悪くしたって聞いたぞ」
「子供泣かせたとか」
「それ向こうでしょ!?」
つめは思わず声を上げた。
しん。
また静かになる。
全員がこっちを見る。
どくん。
熱。
「……は?」
つめは少し笑った。
なんか。
懐かしい。
“説明するほど悪化する空気”。
昔、何回も見た。
「いやだからさぁ」
つめは立ち上がる。
「子供生贄にしてたんだけどあいつら」
ざわっ。
「それ止めただけなんだけど」
「でも昔からの儀式なんだろ?」
「だから何?」
空気が張る。
ガルドが小さく頭を押さえた。
「あーあ……」
つめは止まらない。
「“昔から”なら何やってもいいわけ?」
「嫌がってる子供見ても黙ってる方が正しいの?」
酒場の空気が冷えていく。
でも。
どくん。
身体は逆に軽くなっていった。




