第21話 帰還
「いったぁぁぁ……」
つめは荷車の上で死んでいた。
全身痛い。
揺れるたびに痛い。
呼吸しても痛い。
「なんで誰も“翌日ヤバい”って教えてくれなかったの……」
「普通そこまで動けないから」
ガルドが呆れた顔で言う。
「……つめ、昨日ずっと変」
ミリがぽつりと呟いた。
「またそれ?」
「……うん」
つめは顔をしかめる。
自分でも変だった自覚はある。
身体が勝手に動いた。
嫌な感情が流れ込んできた。
思い出すだけで気持ち悪い。
でも。
「知らないし……」
認めたくなかった。
街へ戻る頃には、もう夕方になっていた。
ギルド前はいつも通り騒がしい。
酒臭い。
うるさい。
なんか安心する。
「帰ったぁ……」
つめは荷車から降りようとして、
「ぎゃっ」
脚が崩れた。
「うわ重っ」
ガルドが慌てて支える。
「筋肉なさすぎでしょ」
「うるさい……」
その時だった。
「……あれ」
誰かがこちらを見る。
「例の奴じゃない?」
「祠壊したっていう……」
「黒髪の」
つめはぴたりと止まった。
視線。
ひそひそ声。
なんか嫌な感じ。
「……もう広まってる」
ルカが苦笑する。
「早いねぇ」
「なんで!?」
「酒場」
ガルドが即答した。
「冒険者の噂なんて一日で広がるよ」
最悪だった。
しかも。
「思ったより普通だな」
「もっと化け物みたいなのかと」
聞こえてる。
普通に。
つめは眉をひそめた。
「……感じ悪」
「有名税じゃない?」
「払いたくないんだけど」
ギルドへ入る。
その瞬間。
空気が少し止まった。
「あ」
受付嬢だ。
前よりちょっと引いてる。
「お、お帰りなさい……」
「その反応なに?」
「いえ別に」
絶対ある。
周囲の冒険者達もちらちら見てくる。
『祠壊した』
『呪われてる』
『怪物倒した』
断片だけ聞こえる。
つめは居心地悪そうに肩を縮めた。
でも。
どこかで少しだけ、 懐かしかった。
昔もこうだった。
イベント後。
炎上後。
SNSを開いた時。
みんなが自分を見ている感じ。
嫌なのに。
少しだけ落ち着く感覚。
「……最悪」
自分で呟く。
その時。
受付嬢が咳払いした。
「えーと、依頼報酬ですが」
机に置かれる小袋。
ちゃり。
軽い。
つめは嫌な予感がした。
「……少なくない?」
「村の規模的に最低保証額ですね」
「命懸けだったんだけど!?」
「追加報酬は……その……」
受付嬢が目を逸らす。
「祠の件で、村長側と揉めてまして」
「はぁ!?」
ガルドが頭を押さえた。
「あー……そうなるか」
「助けたじゃん!?」
「でも村壊したとも言えるからねぇ」
ルカが困った顔をする。
意味分からない。
つめは本気で腹が立った。
「いやおかしいでしょ!!」
その瞬間。
周囲の視線が集まる。
しん。
ギルドが少し静かになった。
また見られる。
つめは息を止めた。
でも。
どくん。
身体の奥が、ほんの少しだけ熱を持った。




