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第20話 因習村はここにあった

翌朝。

村は妙に静かだった。


「……」


つめは家の前の木箱へ座り込みながら、小さく顔をしかめる。


痛い。

全身が。

特に脚。

笑えるくらい動かない。


「っ、いた……」


立ち上がろうとして失敗した。

ガルドが呆れた顔をする。


「だから無茶しすぎなのよ」


「聞いてないし……」


「普通あんな動きしたら壊れるわ」


つめは不満そうに唇を尖らせた。


でも実際、昨日の記憶が少し曖昧だった。

身体が勝手に動いていた感覚だけ残っている。


「……つめ」


ミリが小さく言う。


「……昨日、変だった」


「え?」


「……魔力」


またそれだ。


つめは嫌そうな顔をした。


「だから知らないって」


ミリは少し黙る。


「……嫌な感じだった」


その言葉に、つめはなぜか少し引っかかった。


その時。

家の外がざわつき始める。

村人達だった。


遠巻き。

誰も近づかない。


でも。

全員こちらを見ている。


ひそひそ声。


「あいつだ……」


「祠を壊した……」


「災いを呼ぶ……」


つめは目を細めた。

助けたはずなのに。

怪物を倒したはずなのに。

返ってくるのは感謝じゃなかった。


「……感じ悪」


小さく呟く。


でも。

どこかで予想していた気もした。

ガルドが肩をすくめる。


「まあ、そうなると思ってた」


「なんで」


「人って、自分達が信じてたもの壊されると怖いのよ」


ルカが苦笑する。


「しかも、つめかなり派手にやったしね」


「知らないし……」


つめは膝を抱えた。


その時。

とたとた、と小さな足音。


「あ」


昨日の女の子だった。

その後ろには母親もいる。

周囲の村人達がざわつく。

女の子は少し怯えながら、それでもつめの前まで来た。


「……これ」


小さな袋を差し出す。

中には焼き芋が入っていた。

つめは少し目を丸くする。


「……くれるの?」


女の子が頷く。


「ありがとう」


母親も頭を下げた。


「助けてくださって……ありがとうございました」


周囲の空気がまたざわつく。

嫌な視線。


『余計なことを』

『空気を乱すな』


そんな顔。

母親は少し震えながら、それでも続けた。


「もう、子供達を怖がらせたくないんです」


沈黙。


誰も何も言わない。


でも。

老人だけが、祠の跡を見つめながら呆然としていた。


「終わりだ……」


小さな声。


「村の加護が……」


つめはそれを聞いて、なんだか急に疲れた。


救った。

壊した。

嫌われた。


どれも本当だった。


「……帰ろ」


ぽつりと呟く。

ガルドが頷いた。


「そうね」


出発の準備が始まる。

村人達は遠巻きに見ているだけだった。


感謝する者。

怯える者。

睨む者。

全部いる。


その中で。

子供達だけが、 小さく手を振っていた。


つめは少しだけ迷ってから、 軽く振り返す。


でも。

村を出る時、背中へ刺さる視線は最後まで消えなかった。


そして。

つめ自身もまだ知らない。


昨日、自分が纏っていた黒い靄を。

嫌悪と敵意で強くなる、異常な力を。

挿絵(By みてみん)

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