第2話 耳
「古代耳族だ!!」
「本当に存在したのか……!」
「王族様をお迎えしろ!!」
「えっ?」
鷹乃つめは、木々に囲まれた広場の真ん中で固まっていた。
目の前には、美形。
横を見ても美形。
後ろも美形。
全員耳が長い。
(うわ、ガチエルフじゃん……)
しかも服装までファンタジーしている。
白いローブ。 銀細工。 薄緑色のマント。
コスプレイベントで見たら「金かかってるな〜」って思うタイプのやつだ。
その集団が、なぜか自分に向かって跪いている。
「……え?」
「ようこそお戻りくださいました、王族様」
「えっ」
「長き放浪、お辛かったでしょう」
「あの」
「神樹がお待ちです」
「何が」
なぜか言葉はわかる。
そして勝手に会話が進む。
怖い。
でも。
(……いや、待って)
つめは自分の耳を触った。
尖った耳。
エルフ耳。
(あ〜~~~~~……なるほどね)
勘違いしてるんだ。
でもまあ、分からなくもない。
今日の完成度かなり高かったし。
写真もめちゃくちゃ撮られたし。
ウィッグも奮発した。
耳なんか、接着剤でガチガチに固定してる。
(ていうか異世界人、コスプレ文化ないんだ……)
ちょっと面白かった。
「さ、お乗りください」
「へ?」
巨大な白い鹿が連れてこられる。
「王族様に歩かせるわけにはいきません」
(うわ、待遇やば)
つめは少し迷ってから乗った。
ふかふかだった。
(え、なにこれ。ディ○ニー超えてない?)
森を進む。
その間もエルフ達は、ずっと敬意の目を向けてくる。
なんだかむず痒い。
でも悪い気はしなかった。
むしろかなり気持ちいい。
最近はずっと、「またこいつか」みたいな目ばっかり向けられていたから。
だから。
「王族様はどちらの集落から?」
と聞かれた時も。
「あ〜、まあ、遠いところです」
つめは否定しなかった。
だって向こうが勘違いしてるだけだし。
というか今さら、「それ付け耳です」とか言ったら空気終わるし。
(いや普通確認するでしょ……)
半分くらい相手が悪い。
たぶん。
エルフの国は、とにかく綺麗だった。
巨大樹の内部をくり抜いた建物。
空中回廊。
淡く光る花。
透き通る水路。
(うわぁ……)
つめは素直に感動した。
ファンタジーだ。
本当に異世界なんだ。
スマホもない。 電車もない。 炎上もない。
……いや、あるかもしれないけど。
「こちらがお部屋になります」
「広っ」
案内された部屋はホテルのスイートルームみたいだった。
ベッドがでかい。
果物が置いてある。
窓から森が見える。
(え、死んだら勝ち組ルート入った?)
ちょっとテンションが上がる。
いやかなり上がる。
正直、現代でもこういう扱いをされたかった。
つめはベッドへ飛び込んだ。
「ふわっ……」
やばい。
文明。
「お召し物も素晴らしいですね」
「あ、分かります?」
「はい。古代様式そのものです」
(いやこれ通販と手作りだけど)
つめは思わず笑いそうになった。
でも。
同時に少し気分が良かった。
“分かる人には分かる”。
その感覚。
好きだった。
しばらくすると、豪華な料理まで運ばれてきた。
木の実。スープ。見たことない肉。
つめは一口食べて、目を見開いた。
「えっ、美味っ」
「王族様のお口に合って何よりです」
「日本帰りたくないかも……」
「にほん?」
「あっ、えっと、遠い国!」
危ない。
でもエルフ達は特に気にしていないようだった。
むしろ。
「やはり外界を巡られていたのですね……」
とか勝手に解釈して感動している。
(楽だな、この人達)
つめはスープを飲みながら思った。
なんというか、 “設定”を信じる力が強い。
SNSでもいる。
肩書きだけで全部信じる人。
逆に、一回悪人認定したら何しても叩く人。
あれに少し似ている。
でも今は、自分が“持ち上げられる側”だった。
だから居心地がいい。
夜。
つめは大浴場みたいな場所へ案内されていた。
「ごゆっくりお寛ぎください」
「どうも〜」
エルフ達が去る。
一人になる。
「……ふぃ〜」
つめは衣装を脱ぎ始めた。
疲れた。
死んだし。 転移したし。 なんか王族扱いされてるし。
情報量が多すぎる。
「ていうか神様なんか言ってたな……」
ぼんやり思い出す。
なんか能力とか。
魂とか。
観測なんとか。
でも正直、死んだ直後で全然頭に入ってなかった。
「まあいっか……」
今のところ快適だし。
それより風呂だ風呂。
つめは耳の接着部分へ手を伸ばした。
さすがに外さないと。
「いたた……」
ぺり。
次の瞬間。
背後で。
「……え?」
声がした。
つめの動きが止まる。
ゆっくり振り返る。
そこには。
銀髪の神官服を着た少女が立っていた。
床に落ちた“耳”を見ている。
その顔から、血の気が引いていた。
「……に、人間?」
沈黙。
まずい。
かなりまずい。
つめは反射的に言った。
「あっ、これ、その、コス――」
「衛兵ッ!!!!!!」
「早っっっ!?」




