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第18話 悪者

どくん。


身体の奥が、また熱を持った。

つめは荒い息を吐きながら立ち上がる。


怖い。

なのに。

身体だけが妙に動く。


「つめ!!」


ガルドが叫ぶ。


「前!!」


「っ!」


狼型魔獣が飛びかかる。


今度は見えた。

つめは咄嗟に身体を捻る。

爪が頬を掠めた。


避けられた。


「え……」


自分でも驚く。

前なら絶対無理だった。


『気味が悪い』

『なんだあの動き』

『やっぱり普通じゃない』


村人達の感情が流れ込んでくる。

頭痛がした。


でも。

身体はさらに軽くなる。


「……最悪」


ミリが小さく呟く。


「……つめ、吸ってる」


「は?」


「周りの魔力……違う」


本人だけが理解できていない。


その時。

怪物が吠えた。

びりびり空気が震える。


次の瞬間。

黒い塊が一斉に地面から這い出た。


「まだ増えるの!?」


ルカが舌打ちする。


「数が多すぎる!」


ガルドが前へ出る。


「ミリ! 本体焼ける!?」


「……時間、いる」


「もう!」


狼型が襲いかかる。

つめは反射的に木枝を掴んだ。

意味なんかない。


でも。


「来んなぁっ!!」


振った瞬間。


ぶわっ。

黒い靄みたいなものが枝へ纏わりついた。

次の瞬間。


ばんっ!!


狼型魔獣が吹き飛んだ。


沈黙。


つめ自身が一番固まっていた。


「……え」


木枝が砕けている。

狼型は地面を転がっていた。

ガルドが目を見開く。


「今、何したの」


「知らない!!」


本当に知らない。

心臓がうるさい。

怖い。

その時。


「やっぱりあいつだ……!」


村人の声。


「災いを呼んだんだ!」


「普通じゃない!」


つめが振り向く。

村人達は、怪物じゃなく、つめを見ていた。


その目を見た瞬間。


どくん。

また身体が熱を持つ。


「……っ」


気持ち悪い。

なのに。

力が入る。


穢れ喰らい様と呼ばれた怪物が、 ゆっくりつめへ顔を向けた。

大量の目。

その全部が、つめだけを見ている。


ぞわっ。

嫌な感覚。


でも。

怪物の身体が、少しだけ揺らいでいた。


ミリが小さく呟く。


「……怒ってる」


「え?」


「つめに」


その瞬間。

つめの中で、何かが繋がった。


負の感情。

敵意。

嫌悪。

注目。


それが全部、自分へ集まっている。


そして。

怪物もまた、自分を見ている。


「……あー」


つめは乾いた笑いを漏らした。


「私、また悪者なんだ」


次の瞬間。

怪物が突っ込んできた。

地面が砕ける。


「つめぇ!!」


ガルドが叫ぶ。


でも。

今度は、見えた。


つめは横へ飛ぶ。

ありえない速度で。

怪物の腕が空を切った。


「……は?」


自分でも意味が分からない。


でも。

身体が勝手に動く。

周囲の感情が流れ込むたび、熱が増していく。


怖い。

気持ち悪い。

なのに。


「っらぁ!!」


つめは折れた木枝を振り抜いた。

黒い靄が爆ぜる。


ばんっ!!

怪物の顔面が大きく揺れた。


「うそでしょ……」


ルカが目を見開く。

ガルドすら固まっていた。


怪物が怒り狂ったように咆哮する。

大量の目がぎょろぎょろ動く。


その時。

ミリが叫んだ。


「……目!」


「え?」


「真ん中!」


見る。

怪物の胸。

大量の肉の中に、赤黒く光る目が一つだけあった。


他より大きい。

脈打っている。


「核か!」


ルカが矢を番える。


放つ。

だが、 黒い腕が弾いた。


「硬っ!?」


怪物が腕を振り上げる。


まずい。

その瞬間。


「つめ!!」


ガルドが叫ぶ。


「今のあんたなら届く!!」


つめは固まる。


「はぁ!?」


「やれ!!」


無茶苦茶だった。


でも。

怪物の目が、また自分を見た。


『気持ち悪い』

『怖い』

『災いだ』


村人達の感情が流れ込む。


どくん。

熱が爆ぜた。

つめは地面を蹴った。


「うわあああああッ!!」


身体が吹き飛ぶみたいに前へ出る。


速い。

怖い。

でも止まれない。


怪物が腕を振る。


避ける。


地面を蹴る。

視界の中心。 赤黒い目。


つめは砕けた木枝を握り締めた。


「嫌われるのは!!」


叫ぶ。


「もう慣れてんだよッ!!」


黒い靄が、一気に膨れ上がる。

次の瞬間。


どんっ!!!


木枝が、 怪物の核へ突き刺さった。

赤黒い目が見開く。


沈黙。


そして。


ばき、ばきばきっ――


怪物の身体に亀裂が走った。


「下がって!!」


ガルドが叫ぶ。


次の瞬間。

怪物が、 黒い泥みたいに崩れ落ちた。

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