第17話 空気
どくん。
身体の奥で、黒い何かが脈打った。
「……っ」
つめは地面へ手をつく。
息が少し熱い。
怖い。
痛い。
なのに。
妙に身体が軽かった。
「つめ!!」
ガルドが叫ぶ。
「立てる!?」
「……なんとか」
その時。
穢れ喰らい様と呼ばれた怪物が、ゆっくり腕を持ち上げた。
まずい。
本能で分かる。
「全員散って!!」
ガルドが怒鳴る。
次の瞬間。
どごぉっ!!
地面が砕けた。
土と石が吹き飛ぶ。
つめは咄嗟に転がった。
「ぎゃっ!!」
痛い。
でも避けられた。
前より動ける。
なんでか分からない。
でも。
『穢れだ』
『外様だ』
『余計なことを』
村人達の感情が、 肌に触れるみたいに流れ込んでくる。
気持ち悪い。
なのに。
身体は熱を持っていく。
「……なにこれ」
ミリが小さく目を見開いていた。
「……魔力、増えてる」
「え?」
「つめから」
つめは固まる。
自分が?
魔力?
でも考える暇はなかった。
狼型魔獣が再び飛びかかる。
「うわっ!!」
今度は避ける。
速い。
自分でも怖いくらい自然に。
「つめ、左!」
ルカの声。
矢が横を抜ける。
狼型の喉へ突き刺さった。
ガルドが怪物を睨む。
「最悪ね……」
汗が滲んでいた。
勝てるか分からない顔だった。
その時。
「やっぱり祟りだ……!」
村人の声。
「外様が来たから……!」
「儀式を壊した罰だ!」
つめは思わず振り向く。
「……は?」
助けてるのに。
命懸けなのに。
なのに、こっちを見る目は化け物を見るみたいだった。
その空気を、つめは知っていた。
誰か一人を悪者にしたい時の空気。
『あいつのせい』
『関わるな』
『空気を壊す』
現代で何度も浴びた目。
胃の奥が冷える。
でも。
どくん。
また身体が熱を持つ。
「……なんなの」
怖い。
でも同時に。
妙に身体が動く。
怪物が、ぎょろり、と大量の目を向けてきた。
つめを見る。
まるで、 品定めするみたいに。
「……っ」
嫌な感じがした。
その時。
「お姉ちゃん!」
昼間の女の子だった。
「逃げて!!」
つめが叫ぶ。
でも女の子は泣きながら首を振る。
「お母さんがまだ……!」
見る。
倒れた母親。
足を引きずっている。
でも周囲の村人達は、誰も近づかない。
空気が止まっていた。
誰かがやるだろう。
巻き込まれたくない。
そんな顔。
つめの中で、苛立ちが膨らむ。
「……っ」
まただ。
また、空気を読んで見捨てる。
その時。
ガルドが低く言った。
「つめ」
「……なに」
「顔」
「は?」
「今、すごい嫌な顔してる」
つめは少し固まる。
でも。
否定できなかった。
たぶん今、自分はかなり怒っていた。




