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第15話 穢れ

魔獣の死体は、祠の前に転がっていた。


血の臭い。

焦げた毛。


村人達は誰も近づかない。

ただ怯えた顔で見ている。


「……終わった?」


つめが息を整えながら言う。


「一応ね」


ガルドは短剣の血を拭った。

ルカは周囲を警戒している。

ミリは祠をじっと見ていた。


「……まだ、変」


「え?」


つめが振り向く。

ミリは小さく祠を指差した。


「……中」


その瞬間。


ぞわっ。

冷たい風が吹いた。


祠の奥。

暗闇。


そこから、何かの気配がした。


「……嘘でしょ」


つめの顔が引きつる。

もう嫌だった。

帰りたい。

風呂入りたい。

布団で寝たい。


老人が震える声で呟く。


「怒らせてしまった……」


「だから何を!?」


つめが苛立った声を上げる。


「これ、何なのよ!」


老人は祠を見たまま言う。


「穢れ喰らい様だ」


「ネーミング終わってる」


「昔より、この村の穢れを喰らってくださっていた」


「魔獣が?」


「捧げ物をすることで、災いを抑えていたのだ……」


つめは頭を抱えたくなった。


「いや、完全に生贄じゃん」


「必要なことだった!」


「子供使って!?」


老人が怒鳴る。


「お前に何が分かる!!」


「分かるわ!!嫌がってたじゃん!!」


空気が張り詰める。

村人達が俯く。

誰も反論しない。


でも。

肯定もできない顔だった。


「魔獣が増えたのも、お前のせいだ」


「はぁ!?」


「儀式を壊したからだ!」


つめは絶句する。

いや意味分からない。


でも。

周囲の視線が変わり始めていた。


怖がっている。

責任を押し付けられる相手を探している目。

つめは、その空気を知っていた。


(……あー)


これ。

炎上前の空気だ。

誰か一人を悪者にしたい時の。

胃が少し冷える。


ガルドが前へ出た。


「落ち着きなさい」


「だが事実だ!」


「証拠は?」


「昔からそう決まっている!」


「それ、証拠じゃないのよ」


老人が言葉に詰まる。


でも。

村人達の不安は消えない。


その時。

祠の奥から、ぐちゃり、と音がした。

全員が凍りつく。


「……なに」


暗闇が蠢く。

何かいる。

しかもさっきよりデカい。

つめの背筋が冷える。


「……嘘」


ゆっくりと。

巨大な影が這い出してきた。


赤黒い肉。

異様に長い腕。

無数の目。

腐った獣みたいな臭い。


「っ……!」


村人達が悲鳴を上げた。

老人は崩れ落ちる。


「穢れ喰らい様……」


「いや全然神様じゃないでしょアレ!!」


化け物だった。

完全に。

怪物はゆっくり周囲を見る。


そして。

つめを見た。


「……なんで私!?」


次の瞬間。

怪物が咆哮した。

びりびり空気が震える。

つめは思わず耳を塞いだ。


怖い。

本能的に怖い。


その時。

頭の奥で、妙な感覚が走った。


ざわざわ。


ざわざわ。


村人達の視線。


恐怖。

嫌悪。

敵意。


全部が、自分へ集まってくる感覚。


「……え」


一瞬だけ。

身体が軽くなった。


ほんの少し。

本当に少しだけ。


でも。

つめはその違和感に気づく前に――


怪物が突っ込んできた。

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