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無限の影  作者: Nick Occam


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第八章 彼の名の栞

永遠の吹雪が吹き荒れる山々。


その最も高い頂で、ひとりの男が雪の上に座っていた。


服装は、どう見ても天候に合っていなかった。


まるで浮浪者のようだった。


古びて擦り切れた白い肌着は、血の跡で黄ばんでいる。


黒いズボンも、同じように古く、ところどころ破れていた。


それ以上に奇妙だったのは、彼が靴を履いていなかったことだ。


雪に濡れた髪が、風に揺れている。


寒さなど、まるで意味を持たないかのようだった。


肩も、頭も、背中も、すでに雪に覆われかけていた。


彼は、どこか遠くを見つめていた。


何もない場所を。


虚ろな彼方を。


濃い無精ひげを伝う涙は、吹雪の中ではかすかにしか見えなかった。


『リチャード。なぜ、この場所を選んだ』


男の頭の中に声が響いた。


答えはなかった。


頭の中を巡る思いが、その声さえ遮っていた。


『父さん……彼女が、僕を呼んでいた……あれほど時が経ったのに、僕だと分かったんだ……』


小さな嗚咽は、吹きつける風に呑まれて消えた。


もう戻らないものを思うたび、心も魂も削られていく。


リックの涙は、あまりにも苦く、あまりにも熱く、凍てつく寒さの中でも凍らなかった。


静寂が、内側から彼を引き裂いていた。


運命は、息子の孤独な苦しみをそれ以上見ていられなかった。


彼はリックの隣に現れ、雪の上に腰を下ろし、そっと息子の肩を抱いた。


しばらく、二人は何も言わなかった。


やがてリックが、小さく口を開いた。


「ねえ……僕がほとんど殺されかけた時でさえ、こんなに痛くはなかった」


それはもう、泣き声ではなかった。


呻きですらなかった。


逃げ場のない絶望が、声の形を失って漏れ出したようだった。


運命は息子の肩を軽く叩き、立ち上がった。


不思議なことに、雪の上には彼の身体の跡さえ残っていなかった。


「もういい」


彼は言った。


「少し、落ち着け」


老人が軽く手を振ると、リックに積もっていた雪が一息に払われた。


その風は、ただでさえ激しい吹雪をさらに強めた。


リックは深く息を吸った。


「……そうだね」


父の言葉で、少しだけ我に返った。


彼は立ち上がり、軽く両手を打った。


吹雪は、少しずつ元の調子へ戻っていく。


「父さんが言っていた通りだ。すべてのものには運命がある。なら、僕たちも慎重でいよう」


二人は雪の中をゆっくりと歩き出した。


まるで、ただ散歩に出ただけのように。


風も、寒さも、深い雪も、二人の歩みを妨げることはなかった。


足は雪に沈まない。


一ミリも。


「この山で隠者のように暮らすのは、そろそろ終わりにしてもいいとは思わないのか」


運命が尋ねた。


沈黙は長く続かなかった。


リック自身、そのことを何度も考えていた。


「正直に言うと、ここにいるほうが落ち着くんだ」


運命の顔に浮かんだ笑みは、多くを語っていた。


息子がどれほど隠そうとしても、彼には手に取るように分かった。


「好きにしろ。だが、少し話しておきたいことがある」


リックは父のほうへわずかに顔を向けた。


「もちろん。話して」


息子の顔には、聞く覚悟がはっきりと浮かんでいた。


運命は、年齢ゆえか、何をするにもゆっくりだった。


今も、吹雪の中を歩く姿は、まるで漂っているように見えた。


そこには、かつて最強と呼ばれた者の面影など、表面上は少しも残っていなかった。


「私は回りくどい言い方が得意ではない」


彼は言った。


「私とお前の母さんには、少々厄介な問題がある」


リックは言葉を失った。


運命からそんな言葉を聞くのは、奇妙だった。


ほとんど、あり得ないことに思えた。


「お前の兄弟たちが、果たすべき役目を果たしていない」


驚きのあまり、リックは一瞬、息を詰まらせた。


軽く咳払いをする。


「兄弟?」


父は同じ穏やかな声で続けた。


「どうやら、ニクラウスのことをまだ話していなかったらしい」


彼は鼻眼鏡をかけ直し、リックに一冊の手帳を渡した。


そして、変わらぬ平然とした顔で、その表紙を指で軽く叩いた。


「そこに、すべて書いてある」


リックは手帳を受け取った。


胸の内に、二つの感情が同時に浮かび上がった。


一つは、父のあまりに落ち着いた声への不安。


もう一つは、自分に兄弟がいるという事実への、奇妙で、どこか子どもじみた高揚だった。


老人は、何かを思い出したように眉をわずかに上げた。


「この件は、訓練だと思え」


リックは黙って聞き、うなずいた。


だが、すでに分かっていた。


静かな生活は、ここで終わる。


彼は重く息を吐き、わずかに肩をすくめた。


運命には、それがあまりにも分かりやすかったらしい。


彼は一瞬だけ笑った。


成長している。


「それと、もう一つ」


老人は言った。


「忠告しておきたい」


彼はどこからともなく、服によく似合う帽子を取り出し、それを被った。


そして、髪についた雪を払いながら、小さくぼやいた。


「まったく、面倒なものだ」


リックは温かな目で父を見た。


こんなふうに気を抜いた運命を見る機会など、そう多くはなかった。


「人間の営みに、よほどのことがない限り干渉するな」


老人は言った。


リックは軽くうなずいた。


それで十分だった。


「距離を置いて観察する力を磨け」


リックは足を止めることもなく、歩きながら手帳を開いた。


ページをめくり、すぐに小さく呟く。


「かなり年上だね……それに、経験も浅くない」


さらにページをめくる。


やがて、彼の手が止まった。


顔つきが変わる。


「すみません、父さん」


彼は言った。


「もしこれが、父さんの言っていたことなら……僕は、会うのが楽しみです」


運命は息子を信じていた。


彼の責任感も、義務を背負う心も知っている。


リチャードに疑いを抱く必要はなかった。


「では、ここで別れよう」


肩を軽く叩くその仕草は、いつの間にか二人の間の儀式のようになっていた。


それぞれの行き先を決め、二人は空間を越えて別々の方向へ踏み出した。


老人は妻のもとへ戻った。


そしてリックは、イギリスのどこかにある広い野原の真ん中に立っていた。


これから訪れる出会いへの期待が、静かに胸を騒がせていた。


「家族と一緒にいるなら、急ぐ必要はないか」


彼は深く息を吸った。


「山も悪くないけど……ここの空気は、なんて甘いんだ」


リックは肩を開き、両腕を広げた。


そして、鋭く息を吐く。


強い風が前方の草を伏せ、近くの木々を揺らした。


「こんな良い日だ。散歩しないのはもったいない」


彼はゆっくりと歩き出した。


裸足に触れる大地の感触を楽しみながら。


周囲の動物。


草むらの虫。


木々の葉擦れ。


鳥の声。


この二十年、心の安らぎを求めて山にこもっていた者にとって、それらは耳に届く音楽のようだった。


色が多すぎる。


その鮮やかさに、目が痛むほどだった。


自然を味わいながら、リックはもう一度手帳を取り出し、文字を追い始めた。


やがて、新しい記述に目が止まる。


『明日は孫の誕生日。アモンも、もう十八歳。孫たちは全員集まる。妻と一緒に、必ず見守ることにしよう』


リックは動きを止めた。


それから、笑った。


「へえ。僕には甥や姪がいるんだ。いい知らせだね」


リチャードにとって、それは本当に嬉しい発見だった。


自分が思っていたよりも、ずっと多くの家族がいる。


ページの端に、小さな字で書き込まれた一行が目に入った。


『また一人、子どもが消えた。痕跡は、どこにもない』


リックの笑みが、一瞬だけ止まった。


ページをめくる指が、わずかに遅くなる。


彼はさらに下へ視線を移し、追記を見つけた。


『記憶がずいぶん怪しくなってきた。リックにマーカスを見張ってもらわなければ。何をしでかすか分かったものではない』


リックは小さく笑った。


「承知しました。ついでに、誕生日の祝いのあとで話もしてこよう」


彼は手帳を空間の襞へしまい、気持ちよく背伸びをした。


そして、満足げな笑みを浮かべたまま草の上に倒れ込む。


「面白い手帳をくれたね、父さん」


リックは目を閉じた。


そして眠った。


その頃、小さな異空間の中で、手帳に新しい栞が現れていた。


その名が記された、新しい栞が。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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次回もよろしくお願いいたします。

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