第五章 身体に刻まれたもの
砂煙が晴れた時、リックは巨大なクレーターの底に横たわっていた。
自分の血だまりの中で。
手応えのない相手が続いたあと、ハイパーマンに、意識が飛ぶほど叩きのめされたのだ。
リチャードは、やっとの思いで上体を起こし、自分の身体を見下ろした。
すべてが壊れていた。
いや――身体のうち、まだ残っている部分が、と言うべきだろう。
両脚は潰れ、左腕はなかった。
右腕の骨は粉々に砕け、皮膚と筋肉は生気なく垂れ下がっている。
胸は、内側へ陥没していた。
敵が飛んできて、彼の真上で静止した。
その両目から散る火花が、溜め込まれたエネルギーで色を変えていく。
二条の鮮やかな青い光線が、リックの頭へ放たれた。
「燃えろ!」
身体は激しい炎に包まれ、燃え上がった。
そして、誰もが予想しなかったことが起きた。
炎に呑まれたその身体が、潰れた脚で立ち上がったのだ。
焼き尽くす一撃のあとで、胸から上は何も残っていなかった。
鎖骨の一部だけが、熾った炭のように赤く光っている。
その場の誰もが、言葉を失った。
炎の色が、少しずつ藤色へ変わり始めた。
立ち上がった身体の、胸の奥のどこかから、くぐもった、落ち着いた声がした。
「……今のは、けっこう痛かったよ」
しばしの沈黙。
それを破ったのは、静かな、狂気じみた笑いだった。
「待って……この瞬間を、味わわせて。今なら分かる――この身体は、僕のものだ。命とエネルギーが、全身を巡ってる」
敵たちは、ゆっくりと近づいてきた。
これまでになく動揺したアンチ・バイザーが、声を絞り出す。
「だが……どうやって……」
喘ぎの混じった獰猛な叫びが、彼らを我に返らせた。
全員が、その場で足を止める。
「動くな! もう少しだけ待て……ふん」
リチャードは、残った腕を広げた。
「見ろ。お前たちのおかげで、身体の記憶から『これ』を覚えた」
炎は少しずつ濃さを増し、首のあたりへ流れ込んでいった。
空気が張り詰める。
喘ぎと咳の合間から、立ち尽くす身体が、かろうじて聞き取れる言葉を漏らした。
「秘伝忍術……」
粘りつくような炎が集まった場所で、皮膚が焼き固められ、首が再生し始める。
口が戻った瞬間、リチャードはその名を告げた。
「……カグツチ」
誰もが、ただ立ち尽くして見ていた。
自分の目が信じられなかった。
不死の者を滅ぼすために、あれほどのことをしたのに。
足りなかった。
リックの奇跡に呆然としたハイパーマンが、尋ねた。
「お前は、その身体の持ち主じゃないな? なら、どうやって生き延びた」
リックは答えを急がなかった。
目が再生するのを待ち、それから顎を上げた。
相手を、上から見下ろすように。
そこにいたのは、かつて自分の世界で憧れた男だった。
だが、目の前に立っているのは、彼がなりたいと夢見たヒーローとは似ても似つかない者だった。
巨大な力が、その魂を曇らせていた。
何が起きているのかを悟った時、リチャードの目に残ったのは、氷のような無関心と、揺るがない決意だけだった。
「教えない」
リチャードは瞬きもせず、ゆっくりと言った。
頭が元に戻ると、カグツチの炎は全身へ広がった。
再生しかけの手で、敵の全員をなぞるように示し、彼は怒りを込めて言った。
「お前たち一人一人から、一撃ずつ受けた。その一撃を通して、お前たちの力と感情を感じてみたかった。でも、もういい。戦おうが逃げようが――全員、消す」
その言葉が、ついに敵の怒りに火をつけた。
逆上した彼らは、一斉に襲いかかった。
四方から、でたらめな攻撃が降り注ぐ。
だが、ひとつとして届かなかった。
リチャードは稲妻のように動き、身体が完全に戻るまで、敵の攻撃をかわし続けた。
この反応速度なら、自分へ向けられるすべての突きも、すべての技も見えた。
かわし、受け流すうちに、老人の記憶が頭の中に浮かび始めた。
避ければ避けるほど、記憶は増えていく。
目の前で起きていることのすべてを、身体は『知っている』と告げていた。
――この身体はかつて、似た技を使う敵と戦ったことがある。
記憶によれば、老人は戦いのたびに、海綿のように敵の動きと技を吸い取り、勝利の鍵を見つけていた。
記憶を読み解いたリックは、二つの結論に辿り着いた。
――この記憶こそ、この身体の力を理解する鍵だ。全部、しっかり吸収しないと。
――おじいちゃんは、身につけた技を一度も使わなかった。一度も。その後の敵は、誰もがそれを使ってきたのに。
敵をかわしながら、彼は記憶のさらに奥へ潜っていった。
――おじいちゃんが生み出した技は、どれも本質的には忍術だ。使ったのは、奥さんを守るためと……できるだけ早く、大勢の敵を片づけるためだけ。
記憶の連鎖が、リチャードの頭に焼きついていく。
一対一の決闘は、ほとんどなくなっていた。
力の差を悟った敵たちは、群れで襲いかかるようになったのだ。
老人が移動の術を磨き始めたのは、まさにそうした戦いの中でだった。
記憶は、ある瞬間へ辿り着いた。
戦いですでにかなり傷ついた老人が、地平線の遥か彼方まで広がる軍勢の前に立っている。
数え切れない戦いを見てきた『運命』の顔には、疲れがあった。
戦えば戦うほど、彼と他のすべての者との力の差は開いていく。
彼は、ただ退屈していた。
弱い敵を倒すことに、面白みなどなかったからだ。
老人はひとりだった。
それでも、軍勢の兵は誰ひとり、指一本動かせずにいた。
全員が、逃れようのない恐怖に呑まれていた。
ただ、彼のわずかな動きにも応じられるよう、全身をこわばらせていた。
目の前で起きていることなど、孤独な戦士にとってはどうでもよかった。
その視線は、敵のさらに向こうに据えられていた。
敵の軍勢をどう片づけるか考えているうちに、彼はうたた寝さえしていた。
死んだような静寂。
響くのは、鼓動の音だけだった。
不意に浮かんだ考えが、老人を目覚めさせた。
――そうか。互いに戦わせればいい。こんなに簡単なことだったとは。
彼が一歩踏み出すと、敵は身構えた。
だが、何をする暇もなかった。
その足が地に触れた瞬間、得体の知れない何かが、全員を地面へ這いつくばらせた。
ほとんど一瞬の出来事だった。
雷鳴のように、老人の低く重い声が轟き、すべての耳に届いた。
「私たちの差が、分かるか」
倒れ伏した戦士たちのあいだをゆっくりと歩くうちに、その口調は次第に静かになっていった。
「放ったのは意志だけだ。力は一切使っていない。分かっているようだな。私がその気になれば、お前たちは一人残らず、もうここにはいない」
一人一人に一瞥をくれて、彼は続けた。
「お前たちを見ていても、分からん。どうやって今日まで生き延びた? 前の戦いから、まだ一年も経っていない。臆病者がこれほどの数、どこに隠れていた」
長い経験のおかげで、彼には全員の腹の内が透けて見えた。
「私と同じように生き延び、強くなった勇敢な者たちと私が戦っている間、お前たちの一部は選別から隠れていたわけだ」
老人は立ち止まった。
一瞬だけ、その顔にかすかな笑みが浮かぶ。
「ちなみに、私の最後の相手は、自分がはるかに弱いと知っていた。それでも、私の前に立つことを恐れなかった。敬意の証として、私は彼に、持てる技をすべて出し切らせてやった。その勇敢な魂を、私の記憶に刻むために。……それで、分かるか」
短い間。
「お前たちの誰ひとり、その栄誉に値しない」
重苦しい独白を、思いがけず、落ち着いた女の声が遮った。
「あなた、もう出てきてもいいかしら」
影の中から、天使のような姿の少女が、ゆっくりと形を成した。
ほとんど白に近い、淡い金色の長い髪。
ひどく幼く見える、愛らしい顔立ち。
華奢で、夫の隣に立つと、まるで陶器の人形のように小さく見えた。
雪のように白い、木綿のサンドレスを着ている。
その姿を見た瞬間、倒れ伏した敵たちの背筋に寒気が走った。
少女は氷のように冷たく、射抜くような眼差しで彼らを見渡した。
天使のような姿と、人生を見てきた女の厳しい目。
その不協和。
最初は、少女に助けを求めようとした者もいた。
だが、その眼差しが、すぐにその考えを捨てさせた。
「黙っていたのは、正しい選択よ」
女神はそう言った。
夫の後ろを歩きながら、彼女は倒れている男たちを一人ずつ、わざと足で蹴っていった。
ここに長くいるほど、その顔は憎しみに歪んでいく。
「夫は、この世界での私たちの目的になんて興味がないの。永遠の戦いのためだけに生きている。……あら、ごめんなさい、あなた。邪魔してしまったわね」
その顔は、一瞬で輝きを取り戻した。
夫の手を取り、小走りにその後を追う。
「続けて」
老人にとって、これはいつものことだった。
だから彼は、妻が言いたいことを言い終えるのを、ただ待った。
「お前たちは、自分たちが何のために創られたのかを忘れている。避けられないことを、先延ばしにしているだけだ。二十四時間やる。最初の選別を終わらせろ。でなければ、今この場で全員を消す」
死の脅しを前に、彼らは藁にもすがった。
迷うことなく、老人の提案を受け入れた。
誰もが、生き残って勝つのは自分だけだと信じていた。
老人は、その決断に満足した。
邪魔をしないよう、彼は妻とともに、一瞬で戦場から姿を消した。
遠くへは行かなかった。
二人が現れたのは、選別が行われる平原の近く、森の外れだった。
妻は小さな石の家を造り、二人はそこで勝者を待った。
待つ時間は、語らううちに、気づかぬまま過ぎていった。
穏やかな一瞬一瞬を、二人はこれからの世界について語ることに使った。
約束の刻限が、ゆっくりと近づいてくる。
老人は寝台で眠っていた。
頭を、妻の膝に預けて。
彼女はその頭を、そっと撫でていた。
そして耳元へ注意深く身を屈め、囁いた。
「あなた、起きて」
「ああ。思った通りだ。刻限の一時間前には、すべて終わった」
老人は目を開け、急ぐことなく寝台から起き上がった。
「時間だ」
二人は手を取り合い、勝者のもとへ移動した。
あたりのどこにも、敗れた者たちの屍はなかった。
記憶は、そこで途切れた……。
どうやら、全員を倒したあとでさえ、勝者は老人の相手にすらならなかったらしい。
すべては、一瞬で終わった。
身体は完全に元に戻っていた。
もう、かわす必要はない。
「お前たちを片づける方法なら、もう十分見た。今の僕に使える技で、片づける」
リックは一瞬で軍勢の真ん中へ飛び込み、祈るように両手を合わせ、目を閉じた。
身体が光を帯び、眩い閃光が走った。
「効いた――全員、方向が分からなくなってる。もちろん、おじいちゃんのほうがかっこよかったけど。じゃあ、次は……」
技が遮られることなく全員に届く高さまで跳び上がり、彼は渾身の力で両手を打ち合わせた。
その音はあまりにも大きく、敵は一人残らず、内側から破裂し始めた。
みぞおちにあるエネルギーの中枢さえ、致命的な損傷を受けていた。
まさしく、不死の者を大量に殲滅するための技だった。
フレックスにしたのと同じことが起きた。
すべての現実における一人一人の運命と存在が、消し去られた。
着地したリックは顔を上げ、木の梢へ視線を据えた。
「片づいた。次はお前だ――操り手」
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