第十三話 行雲流水
校庭は、ゆっくりと音を取り戻していった。
窓ではまだガラスが震えていた。ひび割れたアスファルトから、灰色の欠片がこぼれている。校舎の扉の向こうで、短いすすり泣きが漏れ、すぐに途切れた。
轟音と光、そして一瞬だけ空間を震わせた力のあとでは、ありふれた物音さえ細く、近すぎるものに聞こえた。
最後のガラスの震えが薄れると、壊れた校庭には短い硬直だけが残った。埃がアスファルトに降りていく。ついさっきまで壁の陰に隠れていた者たちは、誰も最初に動き出そうとしなかった。
マルクスの足元で、偽善の残滓が震えていた。
普通の人間には、アスファルトの上に揺らぐ陽炎のようなものしか見えなかっただろう。生徒たちにとって、その場所は空白だった。直前の閃光と恐怖に歪められた、何もない場所。
だが、マルクスには違って見えていた。
かつての姿は、ほとんど残っていなかった。嘲りも、圧も、思い上がった確信も、名前そのものさえも、崩れかけた薄い殻にまで削り取られていた。隣ではニクラスが黙っていた。
いつもの皮肉な表情は暗く沈み、苛立ちは以前のような鋭さを失って、慎重なものへ変わっていた。
「下がっていろ、ニクラス」
マルクスは、昔からの呼び名で弟を制した。
片膝をつき、マルクスは震える残滓に指先で触れた。
殻は薄い層となって彼の手にまとわりつき、崩れはじめた。閃光も、勝利の気配もなかった。輪郭が一つずつ剥がれ落ち、偽善からは弱い痕跡だけが残っていく。
数拍のあいだ、マルクスの内側を、つい先ほどまで力であろうとしていた存在の苦い残滓が通り抜けた。それで十分だった。校庭から切り離すには、それだけでよかった。
やがてマルクスは息を吐き、その残滓を、そうした欠片が流れ着く場所へ放した。
ほとんど消えかけた存在を、ほどなく生徒たちが歩くことになる場所に残しておくわけにはいかなかった。
最後の震えが消えると、アスファルトはただのアスファルトに戻った。壊れ、埃をかぶり、ひびに刻まれた地面だった。
風がリックを撫でた。
白いタンクトップは、ほとんどぼろ布になっていた。色褪せた生地は伸び、穴が開き、ところどころ裂けた端が垂れている。その破れ目から、無駄な肉のない、硬く頑丈な体が見えた。
締まった肩、硬い腕、引き締まった腹。柔らかさも、見せつけるための厚みもない筋肉。
その力は、大きさで圧するものではなかった。姿勢に、乱れない呼吸に、無駄のない手の構えに、振りかぶる必要のない動きへの短い備えにあった。
黒い擦り切れたズボンには、道の埃がついていた。裸足は傷んだアスファルトの上に静かに立っている。足元にあるのが、戦いのあとの学校ではなく、ただの道であるかのように。
リックには血も、火傷も、乱れた息もなかった。
その無傷さこそが、不自然だった。
リックは偽善とともに消え、数瞬ののち、その薄れた残滓を連れて戻ってきた。木々の下にいる兄弟には、その意味が誰よりもはっきり分かっていた。だが生徒たちにとっては、光と轟音と記憶の空白ばかりが残っていた。
そんな中で、リックはひび割れと埃と怯えた顔のあいだに立っていた。兄弟の感覚すら届かなかった場所へ行って戻ってきた者にしては、あまりに静かだった。
校舎から生徒たちが出てきた。
最初に扉のところへ現れたのは上級生だった。顔は青ざめているのに、必死に落ち着いているように見せようとしていた。壁際に寄り、割れた地面を避け、木々のほうを長く見すぎないようにしている。白くなるほど握りしめた指が、表情よりも正直だった。
恐怖は埃と一緒に、まだ空気の中に残っていた。服にまとわりつき、声を細くし、破れた白いタンクトップの男へ視線を向けさせる。もう普通に息をしていいのかどうかさえ、その男にかかっているかのようだった。
生徒たちは、ぎこちなくリックへ近づいた。
一歩。立ち止まる。囁き。上級生への視線。もう一歩。
前列が先に近づき、玄関近くに残っていた者たちも、固まったまま少しずつ後に続いた。
「本当に消えたんですか」
「さっきの光は何だったんですか」
「あれは、もういないの」
「また戻ってくるの」
「クマはあなたと一緒なんですか」
「襲ってこないですよね」
声は上ずり、互いに重なった。問いは早口だった。恐怖はまだ消えていない。それでも言葉で押しつぶそうとしていた。
返事はなかった。
向けられる憧れは、思った以上に重かった。危険は去った。だが突然自分へ向けられた信頼は、正面から向けられる敵意よりも扱いづらかった。
生徒たちの目には、守ってくれた者が立っていた。
リックにとっては、その奥に自分がしたことの痕が残っていた。
そういう目に、どう向き合えばいいのか分からなかった。
木々のほうで別のざわめきが起きた。
濃い影の中に、熊が座っていた。巨大で、黒く、動かない。生徒たちにとって、それは校庭の真ん中に現れた、ありえない獣だった。
しかも誰も傷つけていない。その背後には、人の目に映らない二人の男が立っていた。だが普通の視線には、そこには影と埃を含んだ空気、そして重い獣の静けさしかなかった。
毛は本物だった。
重い前脚も本物だった。
広い頭、低い呼吸、暗い目。それらすべてが、手を伸ばせば届く距離にあり、そのせいで余計に現実離れして見えた。
「クマだ」
「本物?」
「あなたと来たんですか」
「近づいてもいいですか」
「噛みませんか」
重い頭がゆっくりと動いた。
少し前まで、怒りが獣の体を固くまとめ、息を低くし、今にも飛びかからんばかりの目つきにさせていた。今、その前にいるのは、震える手をした生徒たちだった。警戒よりも好奇心が勝っていた。
前列がためらった。やがて上級生の一人が、分厚い毛にそっと触れ、すぐに手を引いた。熱いものに触れたような動きだった。
獣は、それを許した。
低い吐息が、近くにいた者たちの髪を揺らした。前列が後ずさる。後ろから細い、怯えた笑い声が漏れた。すぐにいくつかの声がそれに続いた。短く、ぎこちなく、少し後ろめたい笑いだった。
その笑いは、戦いのあとで初めて聞こえた、生きた音だった。
リックはわずかに顔を向けた。
戻ってきたときにまとっていた鋭さが、少し奥へ沈んだ。内側が優しさに変わったわけではない。それでも、そばの空気はいくらか呼吸しやすくなった。
熊のそばでは、毛が柔らかいのか硬いのかで小さな言い合いが始まっていた。上級生たちは下級生を後ろに置こうとしていたが、自分たちも目を離せずにいる。何本かの手が、さっきより慎重に黒い毛へ伸びた。獣は唸らずにそれを受け入れた。
リックの視線は、その先へ向かった。
マルクスはもう立ち上がっていた。ニクラスは隣に立ち、顔を暗くしていた。生徒たちにとって、木々の下にあるのは熊と影と空気だけだった。だがリックには、兄弟がはっきり見えていた。
二人もそれを理解していた。
ニクラスの嫉妬は消えていなかった。ただ、その中に慎重さが混じっていた。誇りが邪魔をしていた場所に、別のものが入り込んでいる。戦いはあまりにも早く終わった。いちばん重要なところは、彼らの感覚の外で起きていた。
長い間を置いて、前列から声が上がった。
「あなたは、ヒーローなんですか」
その問いは、この場所にはあまりにも単純だった。
リックの視線が落ちた。
ヒーロー。
軽すぎる言葉だった。古い道、手についた汚れ、名のない動き、きれいな説明など許されないままやってきたこと。そのどれも、その言葉には収まらなかった。
重い息が自然に漏れた。
顔には、ぎこちない小さな笑みが浮かんだ。体がその仕草を思い出すのに手間取ったようだった。
「違う」
前列が静まった。
「じゃあ、何なんですか」
手がそっと、近くにいた生徒の頭に置かれた。続けて、隣の生徒の髪にも軽く触れる。優しさは不器用で、慣れていなかった。それでも、誰も離れなかった。
「ただの旅人だ」
数瞬、あたりが静かになった。
それから問いは戻ってきた。さっきより少し大胆で、それでもまだ落ち着きはない。
「光はまた出ますか」
「前からできたんですか」
「魔法ですか」
「教えてくれますか」
「クマ、もう一回触っていいですか」
リックは自分の手を見た。
指には、さっきの動きの記憶がまだ残っていた。正確で、冷たく、遊びのない記憶だった。それを手品に変えることはできない。誰かの憧れに差し出すことも、きれいな言葉で包んで安心させることもできなかった。
説明はなかった。
近くの生徒は、髪に短く触れられただけだった。
「そういうことは、覚えないほうがいい」
ほとんど穏やかな声だった。だが、上級生たちが最初に黙った。
リックは木々のほうへ、さっきとは違う目を向けた。
壊れた校庭は少しずつ生き返っていた。声は強くなり、慎重な足取りも確かなものになっていく。上級生たちは下級生をまとめようとしていたが、影のそばの空白を見るたびに手間取った。
熊は触れられるのをじっと受け入れていた。アスファルトの上には、さっきの裁きの冷たさがまだ残っていた。
破れた白いタンクトップの男と二人の兄弟のあいだには、別の沈黙があった。濃く、人間のためには用意されていない沈黙だった。
「次があるなら」
マルクスは目をそらさなかった。
リックの声は平らだった。怒りも、大げさな脅しもない。だからこそ重かった。
「そこまで持っていくな」
ニクラスはわずかに目を細めたが、何も言わなかった。
熊が影の中から立ち上がった。
生徒たちは後ずさり、それでも見逃すまいとしてまた前へ身を乗り出した。獣は柔らかく、重く、ほとんど音もなくリックへ歩いた。その影が壊れた地面を、埃を、顔を横切ると、話し声は自然に消えていった。
上げられた手が空中で止まった。
指が、弾く形に重なる。
そのあいだから、細く透き通った火花が瞬いた。短く、柔らかい、害のないように抑えられた光。
指が鳴った。
白い波が校庭を滑り、すぐに消えた。
「指、鳴らした」
「光った」
「どこ行ったの」
「クマも消えた」
生徒たちは目をこすり、あたりを見回し、何もない場所を探した。
ついさっきまで人と獣が立っていた場所には、空気だけが残っていた。
埃がゆっくりと戻っていった。
木々の下には、マルクスとニクラスだけが残った。
しばらく兄弟は、普通の世界が場所を取り戻していく音を聞いていた。生徒たちは言い合い、ありえない出来事を語り、数分前にはなかった細部を付け足していく。上級生たちは秩序を戻そうとしながらも、人と獣が消えた場所を見るたびに動きを止めた。
人間にとって、出来事はもう物語になり始めていた。
兄弟にとっては、課題だった。
先に口を開いたのはニクラスだった。
「どう消えたか、分かったのか」
答えはすぐに返らなかった。
「いや」
「まったく?」
「消える前の偽善は感じていた。その後は途切れた。残滓を感じたのは、彼がここへ戻したときだ」
ニクラスは壊れたアスファルトを見た。
「消失と帰還のあいだは、何もないのか」
「掴めるものは何もない」
「通路は?」
「捉えられなかった」
「方向は?」
「ない」
「痕跡は?」
マルクスはゆっくり首を振った。
「断絶した場所だけだ。ここで消えた。ここで戻った。そのあいだは、俺には閉ざされている」
ニクラスの顔が暗くなった。
「つまり、追えない」
「今はな」
「あとなら?」
マルクスの視線は、木々のそばの空白に留まった。
「彼が何かを残すかどうかによる」
ニクラスは笑った。だが、その笑みに楽しさはなかった。
「素晴らしいな。落ちた欠片を待てというわけか」
「違う」
「なら何をする」
マルクスは、さっきまで偽善の残滓が震えていたアスファルトへ視線を落とした。
「断絶した場所を調べる。彼の道ではない。偽善が戻されたあと、ここに残ったものを調べる」
「去ったあとの汚れを調べるのか」
「俺たちがなぜ、彼の移動そのものを感じ取れなかったのかを知りたい」
ニクラスは黙った。
風が頭上の枝を揺らした。校庭は再び騒がしくなっていたが、木々の下だけは別の静けさを保っていた。
「彼は俺たちを見ていた」とニクラスが言った。
「ああ」
「最初からか」
「かなり早い段階でな」
「それでも、生かしておいた」
マルクスはすぐには答えなかった。
「彼は俺たちを狙って来たわけじゃない」
「だが、気づいていた」
「気づいていた」
ニクラスはゆっくり息を吐いた。
「次は、違う判断をするかもしれない」
「だから、次をこちらから作るべきではない」
「退けと言うのか」
「追えない相手を追えるふりをするなと言っている」
ニクラスは、その言葉が気に入らなかった。かつての怒りが顔をよぎったが、今回は声にはならなかった。
「彼がまた介入したら?」
マルクスは生徒たちを、アスファルトのひびを、影のそばの空白を見た。
「そのときは、彼のあとに残ったものを見る」
「また残滓か」
「今の俺たちに触れられるのは、それだけだ」
しばらく、兄弟は黙っていた。
やがてニクラスは校庭から顔を背けた。
「断絶した場所から読めるものは、全部拾え。次にまた盲目のまま立たされるのはごめんだ」
マルクスはうなずいた。
「もう始めている」
亀岡の静かな通りに、リックは音もなく現れた。
学校は遠く離れていた。
低い家々が細い道に沿って並んでいる。屋根の上には電線が垂れ、窓にはもう暖かな夜の光が灯っていた。遠くには斜面が黒く沈んでいる。湿った空気は、ついさっき壊れた校庭の上で震えていたものより柔らかかった。
隣に熊が現れた。
この世界にとって、二人はほとんど存在していなかった。
通行人は足を止めずに通り過ぎた。自転車がすぐ近くを走り抜け、乗っている者は平然とハンドルを保っていた。袋を持った老女が横断歩道で立ち止まり、彼らを見透かすように眺め、青信号になるとそのまま歩き出した。
人と獣は、通りを進んでいった。通行人の注意は、自然とその横を滑っていく。
それでも、ときどき存在が外へ漏れた。
自動販売機の前で、硬貨を持った手がふいに止まった。販売機の周りの夕方が、一瞬だけ冷えた。指が硬貨を強く握り、肩がわずかに上がる。意識が空っぽの通りへ流れた。
一瞬が伸びた。
だが記憶は、その曖昧な感覚を留められなかった。自動販売機の前の人間は、またガラス越しの缶へ注意を戻した。
道はふたたび普通に戻った。
複雑な運命を抱えた人間なら、その通過を一瞬だけ感じることがあった。残るのは姿ではない。名を呼ぶべきではない者が、すぐそばを通ったという冷たい感覚だけだった。
土地の霊たちは、輪郭を見分けられなかった。それでも、通過する重さだけはすぐに感じ取った。
路地で影がひきつり、ゴミ箱の裏へ消えた。古い家の屋根の下で、細い何かが瓦の隙間へ丸まった。小さな道端の祠では、かすかな火が消えた。二つの建物のあいだにいた古い小さなものが、慌てて闇へ引っ込んだ。
熊が静かに鼻を鳴らした。
リックは顔さえ向けなかった。
通りを歩く二人は、人間にはほとんど見えず、世界の隙間に棲むものたちには重すぎた。
学校の騒ぎ、声、向けられた憧れのあとで、その通りは静かに見えた。
だがその静けさの下で、見えないものを感じ取れるすべてが、より深く隙間へ潜っていった。
霊たちは熊から逃げているのではなかった。
その隣を歩く、破れた白いタンクトップの男から逃げていた。
自分をただの旅人と呼ぶ男から。
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