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控えの間にて②

俺の感情をよそに、ダオロスは言葉を続ける。


「すなわち、この鳳凰の間を使うことを許されているのは、エルドライの王族、しかもそれは、先帝陛下と皇帝陛下の許可を得たものと、貴国、そして、我が国と、あともう一つの国だけである」


「もう一つの国?」


「つまり、トリデリア王国ということです」


言うまでもなくブライアル王国と国境を接している国だ。確か、エルドライとの関係は緊迫していて、一触即発、というより、エルドライはトリデリアに攻め込むつもりであると聞いている。そんな国から使者を送ってくるはずはないのに、わざわざ席を用意し、この部屋を使う許可を与えている。よくわからない。あ、その昔は仲よくしていたので、その名残だろうか。


「大帝陛下もお人が悪い」


ダオロスはそう言ってクスクスと笑う。離れているとはいえ、エルドライの者がそこに立っているのだ。ここでの会話は筒抜けと見ていい。であるにもかかわらず、これだけペラペラと好き勝手にしゃべるというのは、この王自身の頭のネジが飛んでいるのか、エルドライに相当の貸しがあり、間違っても侵攻してくることはないという安心感があるのか、そのどちらかだろうが、おそらく、後者だろう。そう信じたい。


「来ることがないのをわかっていて席を用意なさるとは。……そう。貴殿の横が空席であったであろう。あそこが、トリデリアの席である」


「トリデリアは、我が国よりも広大な領土を有していると思いますが……」


「そう。そこなのだ。孫婿、娘婿の貴殿に最もよい席次を与えておいて、本来そこに座るべきトリデリアを次席に据えた。これをかの国が聞いたならば、間違いなく気分を害す。いや、それが狙いであると言っていい。そうやって、トリデリアから攻撃させようと目論んでいるのだ」


思わず控えているエルドライの男に視線を向ける。彼は我関せずと言わんばかりに澄ましている。こちらに視線すら向けていない。


彼は立ち上がると、テーブルに向かう。そこには料理の他に、大きな氷が置かれていて、そこにいくつかの瓶が刺さっていた。その中の一本を手に取り、グラスを取ってそこに注ぎ入れる。もう一つグラスを取って、同じようにして入れる。そうしてそれを俺の許に持ってきた。


「酒は……お飲みになるかな? デアイロウサだ。香りが実にいい。お飲みになってみるとよい」


そう言って彼はグイっとグラスを煽った。俺も同じようにしてグラスを煽るが、めちゃくちゃアルコール度数が高い。必死で平静を装ったが、まず口の中が焼け、喉が焼け、最後に胃が焼けるような感覚を覚えた。何という酒だ。


「ほう、さすがはブライアル王だ。並の王であれば、一口の飲めぬ者もいると聞く。それを涼しい顔をして飲むとは……。やはり貴殿は話せる。余の目に狂いはなかった。ハッハッハ!」


冗談だろうという言葉を飲み込む。男はそれを一気に喉に流し込んでいる。どんな体をしているのだろうか。やはり、頭のネジが飛んでいるのだろうか。


そのとき、一人の男が近づいてきて、


「イシスロフ王様、お待たせいたしました。謁見の間においで下さいませ」


と言って、深々と頭を下げた。ダオロスは不満そうな表情を浮かべたが、すぐに平静に戻り、


「では、ユアザライ王、また、後ほど」


と言ってその場を去っていった。俺はゆっくりと息を吐いた。


◆ ◆ ◆


それから待てど暮らせど、案内は来なかった。相変わらず、エルドライの男は立ったまま微動だにしない。やることがないので、ダオロスが入れてくれた酒をチビリチビリと飲んでいると、小腹が減ってきた。仕方がないので、用意された料理をいただこうとテーブルに向かう。チーズなど、多種多様な料理が並んでいて、何とも豪華だ。とはいえ、俺一人では到底全部は食べられない。残った料理はどうするのだろうか、などとつまらぬことを考えてしまう。まあ、きっと、ここに仕えている者たちに下げ渡されるのだろう。だったら、そんなに食べてはいけないな、などとチーズを皿に取り、さらに、美味しそうに見える料理を少しずつ皿に取る。


席に戻って、酒をちびちびやりながら、それらのものを口に運ぶ。これが意外と美味しく、酒にも合う。これから、皇帝と大帝に会うのに、あまり飲みすぎてはいけないと思いつつ、すべての料理を平らげてしまった。


やはり強い酒だけに、酔いが回って来るのも早い。再びテーブルに行き、氷に刺さっている瓶を丁寧に見ていく。……わからない。仕方がないので、立っている男に視線を向ける。


声を出す前に男は俺の許にやって来た。水はどれですかと聞くと、こちらですと言って透明なガラスに入った瓶を渡してくれた。どうやら深い青や赤い瓶は酒が入っているらしい。オレンジ色はオレンジジュースが入っているらしく、考えて見れば、そのままの中身だったというわけだった。


水をグラスに入れてグイっと煽る。美味い水だ。もう一杯煽る。少し酔いが落ち着いてきた。そのとき、別の男が俺の側にやって来た。


「大変お待たせしました。皇帝陛下のお部屋に案内いたします」


……やっと来た。

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