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控えの間にて

宰相・ドーイの話は、割合短い時間で済んだ。その後は、新しく登用された者三人が紹介され、これから先もいろいろとお世話になるだろうから、よろしく頼みますといった内容が喋られた。


ドーイは一礼すると自席に着席した。その直後、ジャーン、ジャーンという大きな音が鳴り、壇上の後ろの扉が開いた。そこには二人の男が立っており、彼らは静々と進むと、玉座に腰かけた。


エルドライ王は、想像していたものとは全く違った人物だった。実に優しそうな、気の弱そうな男だ。少しうつむき加減で、ここに出てくる前に誰かに怒られたのかと思うほどだ。対して、その右隣の玉座に腰かける大帝は、一目見て怪しさを全身から発散させている男だった。


一見すると、ニコニコと機嫌のよさそうな笑顔を浮かべているが、最前列に座る俺からは見えていた。目が全く笑っていない。居並んだ王たちを、まるで値踏みするように眺めている。そしてその視線はゆっくりと俺を捉えた。


目と目が合う。ニコニコと笑っているが、目が忙しく上下に動いている。イヤな視線だ。完全に俺を値踏みしている。そんな大帝に俺は目を逸らせない。


「皆、大儀である」


ややあって大帝は俺から視線を外し、そう言って立ち上がった。小柄な男だ。その声を受けて、俺の向こうに腰かけている宰相らが一様に頭を下げた。ふと見ると、居並んだ王の中にも、胸に手を当てたり、頭を下げたりする者がいた。およそ半分くらいの人数だろうか。つまりは、彼らはエルドライの属国ということになる。


我がブライアル王国は、基本的にはエルドライの属国ではない。あくまで対等な同盟国という位置づけだ。だから、別に敢えて頭を下げる必要はない。後ろに控えているシェイスも何も言ってこないので、このままでいいのだろう。


「皆とともに、新しい年を迎えることができた。礼を言うぞよ礼を」


大帝はそう言って自席に戻った。すぐに皇帝が立ち上がり、何かしゃべり始めたが、声が小さい。俺の距離でよく聞き取れないので、後ろに座っている者たちは何が何だかわからないだろう。ふと、隣を見ると、大帝が苦々しげにその様子を見ている。そんな光景を見ているうちに、皇帝の挨拶は終わってしまったようだ。


宰相のドーイが立ち上がり、この後は、大帝陛下、皇帝陛下が、個別に皆様と新年を寿ぎたいと申しております。恐れ入りますが、一旦、控えの間にお下がりいただきまして、改めてご案内を申し上げます。まずはこの度のご出席、誠にありがとうございました、などと言って、会を終わらせてしまった。時間にして三十分ほどだっただろうか。


すぐに俺の傍に、礼服を着た若い男がやってきて、ご案内をいたしますと言ってきた。後ろに控えるシェイスらにも、別の男がご案内しますと言っている。シェイス、オジキは立ち上がると俺に一礼して、案内役の男とともに部屋を後にしていった。俺も男に続いて部屋を出る。


通されたのは、豪華絢爛な部屋だった。椅子がいくつかあり、部屋の真ん中には酒や料理などが載った皿が並べられており、好きなだけ食べてもよいとのことだった。お時間になりましたら、お呼びしますので、暫時おくつろぎくださいと男は言い、さらには、何かありましたら手を鳴らしてお呼び下さいと言って、部屋の隅まで歩いていき、そこで控えた。


「おお、ユアザライ殿」


声をかけられて振り向くと、先ほど、俺に挨拶をしてきた王がにこやかに立っていた。確か……。ダオロス、とか言う王様だった。彼は椅子にゆっくり座ると、足を組み、くつろいだ様子を見せた。動きが実に洗練されている。さすがは王様、といったところだ。


立っているのも何なので、俺も彼のそばの椅子に座る。


「いや、お目にかかりたかったのです。先王さまや大上王さまの崩御は、誠に残念です。深く哀悼の意を示します」


「ありがとうございます」


「どのような方が王位をお継ぎになったのかと思っておりましたが、なるほど、大上王さまに面差しが似ておられる。これで、ブライアル王国は安泰というものですね」


「そう、願いたいものです」


「こちらのエルドライに来られるのは初めてかな?」


「はい。初めて参りました」


「どう、思われた」


「いや、万事に大きくて気後れしそうになりました」


「ははは。正直なお方だ。その通り。この国は万事にものを大きく作る傾向にある。我らを心理的に圧迫しようという魂胆だ。慣れればそうでもないが、慣れないうちは……。あの、ホリネシア王などは狼狽えておられたな」


「そういえば、あの方の姿が見えませんね」


俺の言葉に、ダオロスは一瞬、キョトンとした表情を浮かべた。


「貴殿は初めてこちらに来られたので、ここの仕来りをご存じないのだな。この城の控えの間は三つある。一つが野菊の間、もう一つが天空の間、そうしてここ、鳳凰の間だ。三つの部屋はそれぞれの王たちの持つ領地の広さによって決められている。貴殿がお話しされたホリネシア王は、最も領土が狭いゆえに、野菊の間で控えておられる」


……なんだ、そのよくわからない仕来りは?

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