迎賓館にて
ホリネシア王はオロオロとしている。そんな彼に柔らかな笑みを向けた男は、すぐに俺に向き直り、ご案内しますと言って先導した。案内されたのは、何と最前列だった。
隣には豪華な椅子がずらりと並び、後ろにも椅子が二列に渡って設えられていた。俺が着席して程なくして、後ろの席にシェイスとオジキが坐った。なるほど、後ろは従者の席なのねと、妙に納得する。
向かって左手の方向に階段状のステージが組まれており、一番高いところに二つの玉座があった。きっとここに皇帝と大帝が坐るのだろう。目の前には豪華な絨毯が敷かれていて、先ほど歩いたが、フカフカで足が取られそうになった。どうしてこう、お城の絨毯というのは歩きにくい仕様にするのだろうか。これも要は、敵の襲撃に備えてのことだろうか。足を取られるほどの柔らかさを出して、敵の進行速度を遅らせる、と。確かブライアルの王宮ではそうなっていたはずだ。そのおかげで、メイルはロウロの襲撃を回避したのだ。
話を元に戻す。
その絨毯の先には、これまた椅子がずらりと並べられている。そこには、誰も座っていない。一体だれが坐るのかと思いながら周囲を見回してみると、一番端っこの席にホリネシア王を見つけた。居心地が悪そうに縮こまっている。その後ろに控えている老人が何やら耳元でささやいている。
後ろにいるシェイスに、あの王はと尋ねてみる。
「ホリネシア王さまです。つい三月前に即位されたばかりのお方です。この席次は、エルドライ帝国に従う国々の序列を表しています。すなわち、我が国が最も広大な領土を保有し、帝国にとって最も大切な国であると言えます」
シェイスはそう言って頷いたが、そんなことをする意味がわからない。他の国々には、もっと帝国に貢献して席次を上げろと言いたいのだろうか。くだらない。そんなことをしていては、裏切る国も出てくるのではないかとさえ思ってしまう。
そんなことを考えていると、次々と王が到着して席についている。中には顔なじみになっている者もいて、気やすく声を掛け合ったり、握手をしたりしている。すぐにその場が王たちとその従者のサロンのような雰囲気になった。俺は特に興味がないので、ぼんやりと椅子に座って控えていた。と、ひとりの王が俺の目の前に立った。
「ブライアル王国のユアザライ殿でございますかな」
ああ、俺のことだと立ち上がり、左様ですと答える。
「我は、イシスロフ王国国王、ダオロスと申す者。以後、お見知りおきを願います」
「左様ですが、お目にかかれて光栄です。以後、よしなに願います」
事前にレクチャーされた通りの答えを返す。ダオロスと名乗る王は満足げに頷くと、俺の二つ隣に腰を下ろした。
……どうやら、他の王は遠巻きに俺の様子を見ているらしい。新しく即位した王のことが気になるのか。あまりいい気持ちはしない。そのとき、ホリネシア王と目が合った。彼はすぐに目を逸らせて俯いてしまった。彼に声をかける王は一人もいない。彼だけが子供だった。
「陛下」
俺は立ち上がり、シェイスを手で制して彼の許に向かう。そこにいた全員の視線が俺に注がれている。そんなことは気にせずに、ホリネシア王の目の前に立った。後ろからシェイスが慌てて付いてきている。
「あ、う、ぶ、ブライアル王様……」
ホリネシア王の後ろに控えていた男たちが立ち上がり、目を丸くして驚いている。二人とも白髪だ。そのうちの一人が、陛下、陛下と声をかけているが、王は相変わらず俯いたままだ。俺は腰を折り、片膝をついて彼と視線を合わせる。
「先ほどは、失礼しました。ブライアル王国国王、ユアザライと申します。以後、お見知りおきをください」
そう言って俺は右手を差し出す。彼は驚いて顔を上げ、俺を眺めていたが、やがて恥ずかしそうに手を握った。
そうしておいて俺は自席に戻った。シェイスは何か言いたげだったが、場所が場所だけに何も言わなかった。オジキはニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「皆さまお揃いでございますので、はじめさせていただきます」
男の声が響き渡る。その声が合図であったかのように、部屋の奥の扉が開き、礼服に身を包んだ男たちがしずしずと入室してきた。絨毯を隔てた向こうに設えられてある椅子に座った。
「まずは、各王様に置かれましては、我が帝国にご足労を賜り、感謝の念に堪えません。まずは、帝国宰相、ドーイからご挨拶申し上げます」
俺の目の前に座る男が立ち上がり、口を開く。
「宰相のドーイでございます。今年もこうして、皆さまと新しい年を寿ぐことができますのも、日々のご協力のおかげでございます。まずは、僭越ながら、帝国を代表しまして、厚く厚く御礼申し上げます」
彼はそう言って深々と腰を折った。俺はその話を聞きながら、不思議な感覚を覚えていた。それは、隣の席に誰も座っていなかったことだ……。




