エルドライ城の仕掛け
翌日、俺は大礼服に身を包んでエルドライ城に向かった。ちなみに服はラリアら女官たちが着せてくれた。ブライアルからはいくつかの勲章を持ってきていたが、俺は必要ないと言ったが、ラリアはせっかくですから、と言って勲章を佩かせてくれた。
用意された馬車に、シェイスとオジキと三人で乗る。二人とも見慣れない豪華な衣装に身を包んでいる。特に、オジキは剣を携えて、軍人の格好をしている。違和感しかない。事前に、帝都でしゃべった内容はすべて相手方に聞かれていると聞いていたので、三人ともに無口だ。と、目の前に座るオジキが一枚の紙を渡してきた。そこには、即答するな、すべての提案はいったん持ち帰れ、と書かれてあった。
これはシェイスの差し金だなと直感する。彼が渡すよりもオジキから渡した方が効果があると考えたらしい。その紙をオジキに返す。
ほどなくして、馬車は大手門の前についた。ここで従者は馬車から降りねばならず、そこから先は国王だけが馬車に乗って通ることを許されている。扉が開いて、軍服を着た男たちが出迎えている。二人は唯々諾々として、馬車を降りた。
しばらく進むと、車寄せが見えてきた。これが大きい。エルドライ城は万事に大きく、広く作られていた。そうすることで、己の力を誇示しようとしているように思える。
いくつか馬車が並んでいたが、俺のは入り口付近に停まった。音もたてずに扉が開き、礼服に身を包んだ、見目麗しい美青年が深々とお辞儀をして俺を迎えた。
「ブライアル王さま、お待ちしておりました。ご機嫌も麗しく、恐悦申し上げます」
そう言って彼は、にっこりと笑う。心の中で思わず男前だなぁ、と呟く。
「誠に恐れ入りますが、お腰のものをお預かりいたします」
彼は両手の上に紫の袱紗をかけた状態で手を出してきた。これも事前に聞いていたので、腰に差した剣を袱紗の上に置く。彼は恭しく一礼し、頭を下げた状態のまま静々と下がっていった。
「それでは、ご案内申し上げます」
また別の、ちょっといかつめの白髪の老人が手を伸ばして俺を案内する。案内といっても、入り口までで、そこで彼は、
「このまま廊下伝いにお進みいただければ、大聖堂に着きます」
とだけ言って、頭を下げた。
エルドライでは、招待した王たちに一人で謁見の間に行くことを求めるというのは、これも事前のレクチャーで知っていたので、俺は鷹揚に頷いて廊下を進んだ。
だが、この廊下がやけに長い。右へ左へと曲がって、方向感覚がおかしくなりそうになる。そういえば、ブライアルの王宮もそんな造りだ。ただしこちらは、本当の迷路のようになっていて、熟達した者でなければ迷う仕組みになっている。この城は、さすがに王を迎えるための施設ということもあり、そんなに迷うような仕掛けはない。
だが、行くほどに廊下が広くなり、天井が高くなる。途中からエルドライの歴代の王が描かれた巨大な肖像画が展示されていて、これがなかなかの迫力だ。そこを抜けると、やけに広い、しかし、薄暗い部屋に出た。石でできているのだろうか、歩くとコツコツを音がする。床には絨毯が敷かれているために、迷うことはないが、何となく、気味が悪い。こうやって恐怖感を植え付けようという仕掛けなのだろうが、さすがに子供だましだなと思っていると、突然声がして思わず体が震える。
「そち、そち、そこの者!」
なんだと思っていると、薄暗い中から大礼服に身を包んだ子供が駆け出してきた。見ると、十二歳くらいだろうか、すでに顔が泣きそうになっている。
「どうなさいました」
「こっ、ここからの出口がわからぬ。余を出口まで案内せよ」
「はぁぁ」
察するに、この部屋に入ったはいいが、出口がわからないらしい。そんなことはないだろうと思いつつ、その子供に話しかける。
「では、一緒に参りましょうか」
「うむ。余はホリネシア王国国王、ホリネシア・フィア・ジンチである」
「ああ、国王様であらあせられますか、それはそれは。ご難儀でしたでしょう」
「うむ。この城は、余は初めてじゃ程に、よくわからぬ。案内もつけずに一人で参れ、とは、無礼も甚だしい。打ち首にしてやりたいわ」
えらい物騒な言葉を吐くガキだなと思いつつ、歩を進める。ホリネシア王は俺の後ろからついてくる。と、目の前に大きな壁が現れた。
「この壁が余の行く手を阻むのじゃ。無礼者! そなた、何をしておる! 余を案内するのではなかったか!」
「少しお待ちくださいね」
床を見ると、確かにそこで絨毯は途切れているが、左にそれは伸びている。子供は何やらグズグズ言っているが、無視してその上を歩いていくと、大きな扉があった。
「ホリネシア王様、扉がありますよ」
「なに、まことか!」
彼はそう言って駆け寄ってきた。ほっとした表情を浮かべてすぐに俺を見て、
「扉を開けい!」
と命令してきた。へいへいと扉を開ける。その先には、二枚のバカでかい肖像画が飾られていた。おそらく皇帝と先帝だろう。思わずウッ、という声が出そうな迫力だ。後ろの子供はアワアワと声を出していた。その絵の間に扉があり、そこを開けると、一人の男が立っていた。
「これはブライアル王様、ようこそお越しいただきました。お待ち申し上げておりました」
彼はそう言って恭しく一礼した。
「ぶ、ブライアル王?」
突然後ろから頓狂な声が聞こえた。見ると、先ほどの子供が目を丸くして驚いている。何だ、どうした、親戚か?




