対エルドライ作戦、完遂
「エルドライを強請る? 何をする気です」
俺は驚きながら口を開いた。オジキは相変わらずカラカラと笑っている。
「そりゃ、暗殺王が捕らわれたんだ。奴らは焦るだろう。そこへこっちから挨拶に出かけるンだ。この度、手前どもにコハタリアと名乗るお方がお見えになりましたンですが、あろうことか、病を得て倒れられております。つきましては、どなたかお迎えを寄こしちゃくれませんか、とこう言いねぇ。相手はどう出ると思う? そりゃ返してくれというに決まってンじゃねぇか。そこが狙い目だ」
「いや、待って伯父さん。そんな奴は知りませんと言われてしまえば、それまでですよ……」
「わからねぇ野郎だなお前わぁ。コイツは暗殺王という二つ名の看板を背負っている男だぞ。殺した王や王族は一人や二人じゃあんめぇがな。そんな奴を敵の手に渡しちまえば、エルドライの土台が揺らぐってぇもんだ」
「いや、しかし……」
「しかしもお菓子もねぇんだ。それだけの大物を、俺たちは釣り上げたってぇことだ。誇っていいぞ」
「いや、俺が心配しているのは、このコハタリアや、その部下たちが、白状しますかね」
「まあ、吐きはすめぇよ。見ろい」
オジキはそう言うと、呻いているコハタリアのシャツを破った。中からは筋骨隆々とした体が現れた。しかもそこには無数の傷跡があった。
「これはな。いわゆる拷問試しの傷跡だ」
「拷問試し……」
「そうさぁ。コイツはな、ありとあらゆる拷問に耐える訓練を積んでいる。それだけじゃねぇ。自分でも拷問を考えだしているが、そのときは自分でその拷問を経験して、どこまでが限界かを把握しやがるんだ。まあ、言ってみりゃ、生粋の変態野郎さぁ」
「……」
「おっと。おしゃべりが過ぎちまったな。うっかりしていると、こいつらが目を覚ましちまう。サッサとかたづけちまおうぜ」
そう言ってオジキはウインクをした。
◆ ◆ ◆
エルドライの刺客を全員生きたまま捕らえたという事実は、宰相以下、ブライアル王国の重臣たちが腰を抜かすほどに驚愕した。しかも、それを捕らえたのがたったの二名ということもあって、俺とオジキの名声は一気に高まったようだ。ようだ、というのは、その情報はシェイスからのものであり、別段俺の周囲には変化が感じられないからだ。宰相らとも毎日顔を合わせているが、特に態度に変化はない。シェイスが話を誇張しているのではないかと思ったりもするが、そういう嘘をつく男ではないので、まあ、そうなのだなと受け止めておくことにとどめている。
捕らえたコハタリアらは、軟禁状態に置かれている。俺も知らなかったが、この城には地下にそう言った施設がある。分厚い石をくりぬいて作った牢が設えられてあり、そこに収容されているのだそうだ。その中でもコハタリアの怪我が最も重く、医師に言わせるとよく生きていたなと思わせるほどの重症らしい。
宰相以下、この生きて捕らえたエルドライの者たちの扱いが実に面倒くさいらしい。死なせてはならず、かと言って、死んでもらっても困る。その中で、コハタリアは歯のほとんどを折られているので、柔らかいものしか食べることができずに、そのメニューを考えるのも大変らしい。
もちろんこの七人は一言も口を割らない。全員完全にだんまりを決め込んでいる。拷問して、という意見も出されたようだが、オジキがやるだけ無駄だと言って退けたらしい。そのオジキはいつの間にか、国王の親衛隊長になっていた。同情はどうするのだと聞いてみたが、弟子たちが何とかするだろうという、驚く答えが返ってきた。まあ、この人は照れ屋だ。俺のことを心配して側にいてくれるのだろう。そう思うことにした。
一応、襲撃の類はカタが付いたので、避難させていたフィリアらを城に呼び戻すことにした。けがを負ったロースマイも軽症で、今は職場復帰を果たしている。
ロウロに関しては、俺のお妃という身分をはく奪した。そうしろとシェイスに言われたからだ。彼女としても、エルドライの襲撃があったことで、立場的に苦しいものになりつつあった。俺に彼女に対する興味や愛情がないのであれば、妃という面倒くさい立場に縛られずに、自由にしてやる方がいいと思ったのだ。
彼女はそのまま旅に出るつもりだったが、何とオジキが国王親衛隊にスカウトした。相当に見込みがあり、ちょっと修行すれば、ノジア流の中でも相当の地位に行けると説得したのか、恫喝したのか、それは定かではないが、ともあれ彼女は、オジキの下で働いている。ついでに言うと、彼女の部下で地下牢に捕らえられていた女斥候たちも、彼女の下で働いている。どうやらロウロは、部下からかなり慕われていたらしい。姉さんがそうするなら、私たちもそうしますと言って、喜んで部下になったらしい。まあ、これは、よしとしよう。
「おいぼち公。もうすぐ嬢ちゃんと兄貴が返って来るなぁ」
二人きりになると、相変わらず砕けた調子になる。俺はそうですねと返答する。
「帰ってきたら、今度はお前の作戦を立てなきゃな」
「俺の作戦、ですか」
「そうさ。もう少ししたら、エルドライに行くんだろう? 招待されていたじゃねぇか」
俺は、そうですねと返答したが、心は晴れずにいた……。




