国王暗殺作戦②
コハタリアは、後ろに控えている六人の部下に手を振って合図をする。一人が素早く前に出て、扉の前で控える。残る五人が、コハタリアのすぐ後ろまでやって来て、団子状態になる。扉の向こうからは、かすかだが、女性の艶めかしい声が聞こえている。どのくらい経っただろうか。実際には十秒かもしくは十五秒の間だが、待っている彼らには相当の時間に思えた。そのとき、女性の声が止んだ。その瞬間、音もなく寝室の扉が開けられた。と同時に、六人の男たちが音もなく動いた。
彼らは、国王のベッドに向かって、まるでダイブするかのように飛び掛かっていった。それぞれの手には鋭く研がれた短剣が握られている。彼らは次々とベッドに向かって剣を突き立てていった。
そこにいた全員が気づいていた。ベッドの上には誰もいないということを。そのとき、部屋の扉が閉まる音が聞こえた。漆黒の闇の中、姿は見えないが、確かにとらえていた。二人の男の気配を。
ただ者ではないことは、そこにいた全員が認知していた。外にいた者はどうしたのだろうか。おそらく斬られたか、気を失っているかのどちらかだろう。外の者も、相当な手練れだ。そうやすやすとやられる男ではない。だが、彼は声一つ上げなかった。にもかかわらず扉が閉められ、二人の男の気配がするということは、外の男を声を上げる間もなく制圧したということになる。恐るべき相手であると言ってよかった。
薄暗い中、侵入してきた男たちは、扉の前に立っていた。ふと、二人の気配が消えた。その一呼吸した後には、四人の男が音もなく倒れ伏していた。コハタリアには見えていた。二人の男たちの動きが。彼らは正確に自分たちの位置を把握していて、一撃で仕留めていた。しかも剣筋が早い。気配を消されたうえ、これほど早くに剣を振るわれては、反応する前に斬られるのが当然であると言えた。その直後、ドサリという音が聞こえて、部屋の中は静かになった。
ややあって、灯りが付けられ、部屋の中が明るくなる。そこには、木刀を携えた二人の男が立ち尽くしていた。
「……ぼち公、やるじゃねぇか」
「伯父さんこそ」
二人の会話が聞こえる。彼らの周囲には五人の男たちが転がっていた。全員が気を失っているようだ。
「それにしても、ここまで伯父さんが絵に描いた通りになるとは……驚きました」
「あたぼうよ。変に小細工をすりゃ、必ず警戒される。この城にだってぇ、エルドライの手の者の一人や二人は入り込んでいるだろうよ。まあ、あの国から嫁を迎えた段階で、この城の内部のことについちゃ、筒抜けになったも同然ってことさぁ。何せ、姫様は知らねぇとしても、それに仕えている女どもぁ、エルドライの斥候だぁな。この城の隅から隅まで調べて、地図の一つや二つも作っているってぇもんだぁな。敵は城の隅から隅まで知り尽くしている。そんな中で小細工をすりゃ必ず目立つ。それを見抜かねぇコハタリアじゃねぇ。なにもしねぇでおくのが、一番の罠ってぇもんだ」
「そ……そうだとしても……」
「何でぇ、ぼち公。俺様の策に、手抜かりはあったかい」
「いえ、恐れ入ったのですよ」
「そうだ。それでいい。お前ぇは、そういう素直なところがいい。カッカッカ」
ややあって男の一人が口を開く。
「おぅい、ロウロ、早く出てきねぇな。まさか、死んだンじゃぁあるめぇがな」
しばらくすると、ベッドの下から女性がはい出してきた。彼女は全身に汗をかいていて、四つん這いになりながら肩で息をしている。
「いっ、生きた、心地が、しませんでした」
「カカカカカ。ちゃんと生きているじゃぁねぇか。お前さんの腕なら、当然だぁな」
「こっ、怖かった……」
「怖ぇ? ガキみたいなことを言ってんな。何が怖いってんだ」
「全く……気配を感じませんでした。これを……触って音を出していて……それを止めてすぐに、言われた通りベッドの下に身を隠すと、その瞬間に剣が突き立てられました。一瞬でも遅れていたら、串刺しにされていました」
彼女の手には、ゴムまりのようなものが握られている。それを握ると、キュッという甲高い音が聞こえる。確かに、女性の喘ぎ声に聞こえなくはなかった。
「そうよ。コハタリアたちにこの部屋でお前らがまぐわっているように見せた。女の声が消えたら、間違いなく奴らは踏み込んでくる。どうでぇ、俺の言った通りだろうがよ」
「でも、伯父さん、どうして、音が消えたら襲ってくるってわかったのです?」
「……察しの悪い男だなぁお前ぇは。考えても見ろ、男が絶頂に達したときは無の状態になるんだ。お前ぇも覚えがあるだろう。そのとき、男は完全に無防備になる。どんな男であっても、だ。だからよく覚えておきねぇ。野郎を殺すのに一番のタイミングは、絶頂になるときと、ションベンをしているときだぁ。コハタリアの野郎は、それを知っているのさ」
「てっ、敵は……」
「見ろい。ご覧の通りだ。ああ、この部屋の外で一人、ブッ倒れている。さすがに手加減してちゃバレちまうから、全力で斬った。まあ、死にゃぁしねぇだろう」
ロウロは倒れている五人の男たちの顔を眺めていると、突然声を上げた。
「コ……コハタリア様の姿が、見当たりません」
そのとき、伯父がニヤリと笑みを見せた……。




