↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
87/136

暗殺王・コハタリア視点

エルドライ帝国帝都……。暗殺王、コハタリアは出立の準備を進めていた。


一見、風采の上がらない男に見える。どこにでもいそうな風貌だ。それだけに、彼は一般庶民に紛れることが上手であった。そんな彼の前には、十人の部下が居並んでいる。どれも彼自身が鍛え抜いた歴戦の男たちだ。百戦錬磨の者たちと言っていい。彼らは次々にブライアル王国の情報を共有していく。


妻・フウミが死んだのは彼にとって予想外であった。油断があったのは否定しない。エルドライの国王一人くらい簡単に篭絡できると踏んだのだ。あれほど油断はするな、といったにもかかわらずに、だ。


国王に即位したシェン――ユアザライ一世――は、剣聖・ジサが手塩にかけて育てたのだ。その能力はジサと変わらないと仮定してかかるべきだ。もし、フウミがその意気で臨んでいたのであれば、自ずと結果は変わっていたはずなのだ。少なくとも、無様な死を遂げることはなかったはずだ。


抜け目のない彼は、作戦は失敗したとはいえ、やはり一度は情を交わした女房だ。悲しさや口惜しさと言った感情を少しは見せているが、内心は氷のように冷徹であった。確かに情を交わし、子供まで授かった仲だが、彼はフウミに対して一片の情も持ってはいなかった。生まれた子供はすぐに亡くなってしまったが、そのために、タウマ姫の乳母となることができ、コハタリア自身も皇帝や大帝に近づくことができたために、その点だけは彼女に感謝をしている程度だった。


その彼の許には、部下から続々と情報が集まって来ていた。


正直言ってここ最近は、ブライアルには出し抜かれてばかりいる気がする。ジサの息子・シェンが大上王の落とし種であることは彼らも掴んでいたが、まさか彼が国王に指名されるとは青天の霹靂だった。てっきり暗愚な弟を王位に就け、宰相たちが補佐していくものと思っていた。ただ、彼が即位したのは幸甚で、彼はすぐさまユアザライ村に部下を派遣して、村に火を放とうとした。むろん、国王・シェンに精神的圧力をかけるためである。だが、その前にブライアルは村ごと消し去るということをやってのけた。さらには、タウマ姫と共に妻・フウミを送り込み、国王の取り込みをはかったが、先の通り失敗に終わっている。いま、ここでブライアルに何らかの楔を打ち込まねば、エルドライはかの国を支配できなくなる。ある意味で今回の作戦は、今後のエルドライの戦略を占うものになると彼は考えていた。


彼らにとって最高の成果は、国王・シェンの命を奪うことであった。だが、それは相当に難しく、高いリスクを伴う。そのため、彼の立てた作戦は、トラマの予想した通り、妃であるフィリアを誘拐するというものであった。国王秘蔵の愛妾と言われる彼女の身柄と引き換えに、エルドライに絶対服従を誓う書面にサインをさせる。承服しなければフィリアの命を奪えばいいが、コハタリアは国王シェンがフィリアを殺せない絶対的な自信があった。


そこに、新しい情報が入った。何とフィリアが、剣聖・ジサとノジア流総帥・トラマと共に、城から出たとのことだった。敵もやはり、こちらの動きを予想していると見てよかった。


ただ、彼には、この警備があまりにも強化されているように映った。ジサとトラマはかの国の最高戦力だ。その二人を惜しげもなく愛妾につぎ込むというのは、いかにも大仰だった。


しばらくすると続報が入る。何とフィリアの向かった先は、実家であるデルビッツ子爵の屋敷であるとのことだった。そこには剣聖・ジサが妻と娘と共に入り、ノジア流総裁・トラマは自宅に戻ったとのことだった。


「ほう。考えたな。まさか実家に匿うとは。確かに、そこであれば、襲うのはなかなか難しいな」


コハタリアは思わず苦笑いを浮かべる。デルビッツ子爵の屋敷はそう大きくはない。あえて狭い場所に匿っておいて、そこに最高戦力を投入するというは理に適っている。しかもこれは、巧妙に仕掛けられた罠だ。もしこの屋敷を襲えば、剣聖・ジサだけを相手にするのではない。そのすぐ隣のヤマドの町に住まうジサの弟子たちも相手にすることになる。子爵の屋敷からは必ずその町を通らねばならない。ジサを制圧できたとしても、数多くの彼の弟子たちの目をかすめて町を出るのは大変な困難と言えた。


ちょうど同じころ、別の斥候から情報が入った。国王・シェンの妃であるロウロがフィリアが住んでいた部屋に入ったという。コスタリアはすぐにその内容を確認せよと命じた。


「確か、このロウロという妃は……」


彼が問いかけると、側に控えていた男が口を開く。


「もとはフウミ様の下で働いていた斥候です。妃として送り込みましたが、なかなか国王の手が付かなかったのですが、フィリア妃が城を出てから、閨の伽を命じられているとのことです」


「……」


彼の頭の中では、シェン殺害の方向に作戦は変更されつつあった。そこにやって来たこの情報……。コハタリアは、これは使えると判断していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。