自爆のわけ
……凄惨な現場だった。普段冷静沈着なシェイスの顔がゆがんでいる。それほど、部屋の中は地獄絵図と化していた。
「フウミがどうやら自爆したようだ。一体何なのだ」
俺の言葉に、シェイスは反応せずに、何かを考え続けている。ふと、俺に視線が向いた。彼は恭しく一礼して、失礼しました、と言った。
「確か、あの女官は兵士たちに拘束されておりました。爆発物を持っていたとは考えられません。どうやって、このような被害が出るほどの爆発を起こすことができたのか……私にもわかりません」
そのとき、彼は何かを思いついたような表情を浮かべた。
「ロウロ。あの者はフウミの傍近くに仕えておりました。あの者ならば、何かを知っているかもしれません」
「フウミに仕えていた女官たちは他にもいるだろう。どこにやった?」
「地下の牢に繋いでございます」
「ならば、そこで話を聞いた方が早いのではないか」
「陛下。恐れながら地下牢などに陛下が足を踏み入れてはなりません。ここは、ロウロにお尋ねなさいませ。そうなさいませ」
そう言って彼は一礼した。そこまでして俺を地下牢に行かせたくないというのであれば、何とかして行ってみたいと思うが、さすがにこの状況で遊んでもいられない。俺は頷いて彼の言葉に従った。
ロースマイの状況が気になる。シェイスに手厚く介抱しろと命じながら後宮を出る。その足でロウロの部屋に向かう。
「……」
フウミが自爆したと聞いて、彼女は顔をしかめた。
「まさか……」
「一体どうしたというのだ」
「フウミ様は、デルアイロスの術を使われたのでございます」
「デルアイロスの術?」
「はい。エルドライ帝国に伝わる秘伝の術です。魔力を爆発的に増加させて自爆する術です。その際、凄まじい爆発音がしますが、その振動と音は、数千キロメートルまで伝わると言われています」
「何のためにそんなことを……」
「エルドライにいる、コハタリア様に、自らの責務の失敗を伝えたかったのでしょう」
「コハタリア?」
「フウミ様の夫です」
「夫……」
「エルドライの斥候を束ねる長です。通常は国内、諸外国を問わず情報を収集し、分析することを仕事としていますが、時によっては、暗殺などの仕事を行うこともあります」
「なるほど。汚れ仕事の、専門家か」
「はい」
「その専門家にフウミは役目が失敗に終わった、伝えた。この先は、どうなるかな?」
「私にもわかりません。ただ、」
「ただ、何だろう」
「フウミ様は、何よりも大帝陛下に心酔しておられました。陛下に褒めていただくことが、あのお方の至上の喜びでございました。そのためならば、手段を選ばぬこともございました。それは、夫であるコハタリア様も同じでございます」
「タウマ姫が死去したことで、大帝から叱責を受ける可能性がある。それを避けるために、手を打ってくる、ということか」
「それもありましょうが、まず、お考えになるのが、どうすれば陛下に褒めていただけるか、という点です。姫様が薨去遊ばした今、エルドライにとって最も有益になることは何か……」
「……俺を殺しに来るか」
「恐れながら今、陛下がお隠れ遊ばせば、国内は混乱しましょう。それに乗じて軍を差し向ければ、あるいは……」
「ブライアルを併呑できる、か」
俺は目を閉じて天を仰いだ。何となく、だが、そんなことはしないんじゃいかなという直感がするが、黙っておくことにする。シェイスはロウロの言葉に頷いている。
「その可能性は高い。ここは、何としても陛下をお守りせねば。失礼いたします」
シェイスはそう言って部屋を出て行ってしまった。それを見送ったロウロは、ゆっくりと俺に向き直る。
「恐れながら陛下、私は、お暇を賜りたく存じます」
「どうした」
「エルドライから参った者たちが陛下に刃を向けたと聞きました。私もエルドライの者でございます。そういうものがお側に侍りましては、色々と差しさわりがあるかと存じます」
「そうか。考えておこう。それにしても……」
俺はそこまで言って首を左右に振る。
「あのフウミという女性……。エルドライの大帝に褒められることが至上であったとはな。それで合点がいったよ。あんな年端もいかない姫に閨を強要したり、ロウロ、お前を送り込んできたり……。すべては大帝に褒められたいという欲望のためであって、姫やお前のことなど微塵も考えていなかったわけだ。特に姫は……。大帝に誉められたいがために世話をしたのだろう。果たして彼女は、フウミと心のつながりが持てていたのだろうか。もし、持てていないのであったなら、それはそれで、相当に寂しかったことだろう。もっと察してやればよかったな。いや、もっと早くに助けに行ってやればよかった。悔いても遅いことだけれど、悔やんでも悔やみきれないな……」
そんなことを言っていると、自然と涙が出てくる。ロウロはそんな俺の姿を見るまいとしているのか、ゆっくりと頭を下げた……。




