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残された仕事

ゆっくりと別れを告げる間もなく、あわただしくタウマ姫の遺体は運び出されていった。これから、死化粧を施すのだという。


何とも言えぬ喪失感が俺たちを襲っていた。おふくろなどは、椅子に腰かけたままガックリとうなだれている。そんな彼女を介抱する者すらいない。


そんな母が顔を上げたかと思うと、親父に向かって口を開いた。


「あなた、まずは、お休みになって」


そうだ。親父は着の身着のままでユアザライ村の近くまで馬を飛ばして往復してきたのだ。さぞ疲れたことだろう。お父さん、まずはお休みくださいと言ってやるが、彼は静かに首を振った。


「それよりもシェンさん。もう少し、この部屋に居て、いいかい?」


親父の気持ちはわかるくらいにわかった。俺はチラリとフィリアに視線を向けた。彼女は大きく頷いていた。きっと、彼女もまた、タウマの思い出に浸っていたのだろう。何となく、だが、彼女の魂はこの部屋にあるような気がしていた。俺は親父に、好きなだけ、居てあげてくださいと言って、近くにあった椅子を勧めた。


俺は無言のまま部屋の外に出た。そこにはシェイスが控えていた。彼は俺が何も言わないでも、スッと歩き出した。俺には、仕事が残っていた。その足で後宮に向かう。


入り口で大きな鈴を鳴らす。そう言えば、ここに最初に来たときも、シェイスがこうやって鈴を鳴らしてくれたな、などと感傷に浸ってしまう。すぐに扉が開いた。中にはロースマイが控えていた。


「……この度の、お妃さまの薨去。謹んでお悔やみを申し上げます」


彼女はそう言って頭を下げた。何となくだが、やはり、姫が死んだことに対して責任を感じているようだ。それはロースマイと言う女性の責任感がそうさせているのだろう。最初、この婆さんに会ったときは、嫌な人だと思ったし、嫌いにもなった。ただそれは、強い使命感と責任感なればこその姿勢だったのだというのが、最近になってようやくわかってきた。いま、ここでこの女性を失うことは、国にとって大きな損失となる。近いうちに彼女へのフォローも必要になるかもしれないと思いながら、彼女の案内のもと、後宮に入る。


特に用件を伝えてはいないが、俺がここにやって来た理由はロースマイにもわかっているようだ。彼女は何の迷いもなく、俺を別室に案内した。そこには、兵士たちに囲まれて軟禁されているフウミの姿があった。


「牢につながないのか」


「必要ございません」


「どうして」


「すでに、足腰が立たなくなっております。歩けぬ者をわざわざ牢につなぐ必要も、ないかと存じます」


フウミは包帯で顔をぐるぐる巻きにされている。広い部屋の真ん中に、チョコンと坐っている。何だか、奇妙な光景だ。


俺の顔を見ると、フウミは包帯の間から出ている眼を細めた。どうやら笑っているらしい。


「ヒ……メサマを……」


動かぬ口を必死で開いて言葉を絞り出している。そんな彼女に俺は口を開く。


「タウマは死んだ」


「……」


特に取り乱した様子はない。何となく予想ができていたとも、ショックを受けて固まっているとも取れるような態度だ。ヤツが何を考えているのかはわからないが、俺は言葉を続ける。


「姫は死んだ。お前がこのブライアル王国にいる意味はなくなった。これから先は、どうしたい。エルドライに帰るか。それとも別の国にいくか。いずれにせよ、この国にいるのであれば、お前は牢で拘束されることになる」


フウミの目がカッと開かれた。きっと、死罪になると思っていたとろこに、エルドライに帰るか、国外追放と言う条件が出たので驚いたのだろう。だが、フウミはカラカラと笑い声をあげた。


「笑止、笑止……」


「……」


「姫様を、失って、妾の面目が、立とうか。妾は、大帝陛下に、褒めて、いただくのじゃ。褒めて、いただくのじゃ」


「……何を言っている?」


「かぁぁぁ」


うめき声とも叫び声ともつかぬ不気味な声をフウミは出していた。彼女はブツブツと何やら呪文のようなものを唱えている。


「陛下っ!」


突然、ロースマイの声と共に突き飛ばされて倒れ伏した。その瞬間、ドンという音が響き渡り、爆風が俺の頭上を通り過ぎた。


起き上がって見ると、そこは血の海と化していた。何と、屋根が吹き飛んでいた。彼女を守っていた兵士たちも吹っ飛んでいる。フルアーマーの中から、苦しそうなうめき声が聞こえる。その鎧には、血がベットリとついていた。


俺のすぐ横にロースマイが倒れていた。彼女を抱き起して大丈夫かと声をかける。彼女はぐったりとしていて反応がない。大きな音が聞こえたために、後宮のメイドたちが集まってきて、その場は大混乱になった。


「鎮まれぇ!」


俺の声にその場がシンとする。いや、そういうつもりで言ったのではないのだが……。俺はオホンと咳ばらいをすると、声を落ち着かせながら口を開いた。


「俺は大丈夫だ。倒れている者たちを救助せよ。あと、外にいるであろうシェイスを、呼んでくれ」


侍女たちは一斉に頭を下げて、蜘蛛の子を散らしたように駆けだした。

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