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タウマ姫、奪還

少しずつ目が慣れてきた。フウミはこれまでにないほどに怒りの表情をたたえながら俺を睨みつけている。


「お下がりなさい! これ以上は一歩も通しませぬ!」


「……なんと不敬な」


フウミの言葉に、ロースマイが思わず口を開く。俺はフウミを見つめながら静かに口を開く。


「姫の様子を見に来た」


「……姫様は、お休みになっておられます。お引き取りください」


「……邪魔だ。どけ」


そういって俺は前に進み出る。フウミが俺の腰にまとわりついてきて、行かせまいとしているが、俺は腕を振るい、軽々と彼女を投げ飛ばす。


ドン、という音が聞こえたが、俺は一顧だにせずにタウマ姫のもとに向かう。


……ハア、ハアと苦しい息遣いの中、彼女はベッドに横になっていた。


まだ熱があるのだろう。額にはタオルが載せられている。首筋に手を当ててみると、熱い。相当に熱が高い状態だ。よく見れば、以前の面影は全くなく、げっそりとやつれている。誰の目から見ても、これは危険な状態であることがわかった。


……怒りが込み上げてきていた。薬さえ飲めば、熱は下がるのだ。なのに、こんな年端もいかない少女に病の苦しみを与え続けるフウミという女性が、俺にはよくわからなかった。


「おい、薬はどうした! ロウロが持ってきただろう。あれはどうした」


フウミは体を起こしてこちらを見ていた。その顔にニヤリと下卑た笑みが浮かんだ。コイツは……。


無言のまま彼女を抱き上げる。体全体が熱い。そして、驚くほどに軽かった。


「陛……下……」


まるで消えりそうな声でタウマがつぶやく。


「ご……めんな……さい……。ごめんな……さい……」


「何を謝ることがある! よく頑張った。よく頑張りました。すぐに熱を下げますから。もう大丈夫ですよ。辛かったね。苦しかったね。もう大丈夫ですから」


タウマは泣いていた。心の底から、この女性はかわいそうだと思った。何とかしてやらねばならない。俺は心の中でそう呟いて、出口に向かう。


「……待ちなさい」


まるで這うようにしてフウミが扉の前にやって来た。手には小さな剣が握られている。彼女はその切っ先を俺に向けながら口を開く。


「姫様は、渡さぬ。貴様らごときに、姫様は、渡しませぬ。姫様は、妾のものじゃ。妾が、命を懸けてお育て申し上げた、お方じゃ。離せ。姫様から離れよ。姫様から離れるのじゃぁぁ!!」


ハアハアと荒い息遣いが聞こえてくる。いつものあの、のっぺりとした笑顔を浮かべた女性はどこにもいない。そこには、まるで悪魔のような形相を浮かべた、醜悪な女性が佇んでいた。


「がはっ!」


俺は無言のままフウミの顔を右足で蹴り抜いていた。おそらく彼女には見えなかったのだろう。体をしたたかに壁に打ち付けて、そのままゆっくりと床に倒れ伏した。俺はその体を一顧だにせずに、そのまま部屋を出た。俺を襲ってきた侍女たちが体を起こしていたが、その者たちも無視して部屋を出た。後ろからロースマイが追いかけてきていたが、その彼女にも振り向かずに、姫を抱えたまま後宮の外にある、俺の部屋に向かって走る。


いつもは鍵がかかっている後宮の扉は、いとも簡単に開けることができた。部屋に帰ると、フィリアがいた。俺の尋常ではない様子を察したのだろう。すぐにベッドのシーツをまくって、姫を寝かせる準備を整えた。


「熱が高い。危険な状態だ」


「わかりました」


フィリアの言葉ですべてを察した。後のことは彼女が何とかしてくれるはずだ。俺はその足で両親の部屋に向かう。


「……」


部屋にやってきた親父は、姫の様子を見るなり絶句した。妹のメイルも一緒に来たが、彼女もまた、目を丸くして驚いていた。そのメイルはすぐに部屋の外に走り、医者を呼んでくるようにメイドたちに伝えていた。


親父は無言のまま踵を返して部屋を出て行った。その背中からは怒りの感情がありありと見て取れた。彼はもう一度、薬草を取りに行くのだろう。何としても、姫を救いたいという強い思いがにじみ出ていた。


「陛下……」


シェイスがやってきた。彼はタウマ姫の様子を一目見て状況を察した。開口一番、本日の予定はすべてキャンセルとしましょうと言った。その言葉を受けて俺とフィリアは姫の看病に入った。


頭に濡れたタオルを置くと同時に、脇の下に濡れたタオルを挟む。きっと、水分が足りないだろうと考えた俺は、メイドたちに氷を持ってくるように命じ、水を冷たく冷やした。それを彼女に含ませようとしたが、一口飲むと体を震わせて飲むことをやめてしまった。そうだ、この熱は、口の中に発疹ができるので、食べることも飲むこともできないのだ。ただ、ハチミツは含ませられるはずだと思い出して、少量のハチミツをスプーンで口に含ませる。彼女はそれを口に含むと、しばらくの間モゴモゴと口を動かしていたが、やがて、ゆっくりと、それを飲み込んだ。一瞬だが、安心したような表情を浮かべたが、それが限界だった。彼女はそれ以降、意識を失ってしまった。


医師がやって来た。その夜は、俺たち全員で姫を寝ずの看病を行った……。

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