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かわいらしい声

「拒否されたぁ?」


シェンは思わず大きな声を上げた。シェイスの報告では、差し向けた医師が部屋に入ろうとするとフウミが出てきて、無用だと断ったのだと言う。さすがに医師としてもこのままおめおめと引き下がるわけにはいかないために、とりあえず、お顔だけでも、と言って通ろうとすると、侍女たちが剣を抜いて威嚇したのだそうだ。そのときのフウミの口上が振るっている。


「私どもの大切な姫様です。どこの馬の骨も知らぬ者にお診せするわけにはまいりません。どうしても、と言われるのであれば、御典医さまでなくてはそれは叶いませぬ」


確かに、フウミ殿の言われることも一理あります、と珍しくシェイスが納得している。タウマはこの国の皇后なのだ。御典医でなければ、という彼女の話も筋が通っていると言えば筋が通っている。だが、剣を抜いてまで医師の入室を止めるほどのものだろうか。派遣した医師は、御典医ではないが、名医の誉れ高い男だ。にもかかわらず頑なにそれを拒否するというのは、シェンもシェイスも、何とも腑に落ちない対応であった。


彼はすぐに後宮に向かった。前触れを出していなかったので、ロースマイをはじめ、後宮は上を下への大騒ぎになっていたが、彼は俺を迎える準備は無用だ、と言って中に入り、ロースマイに姫の許に案内せよと命じた。


だが、彼女は行くだけ無駄でございますと言って、じっと彼の目を見た。しかし彼は、それでも案内しろと厳しい表情で命じた。


タウマ姫の部屋は、後宮の一番奥の部屋にあった。自身が寝泊まりする部屋までは、結構な距離がある。確かに、寝室にはもう一つの部屋が付いていて、そこで着替えなどすることは可能だが、もし、そうでないとしたら、姫は下着も付けずに寝室まで歩いて来たことになる。さぞ、寒かったことだろうと、今更ながらに彼は姫のことが哀れに感じられた。


部屋の手前まで来ると、三人の侍女が控えていて、道をふさいでいた。ロースマイが、国王陛下のお渡りですと言ったが、彼女らは道を開けなかった。


「その方ら、無礼でありますぞ! 国王陛下のお渡りです。道を開けるのです」


ロースマイの言葉にも侍女たちは聞く耳を持たず、ただ、その場に立ち尽くしていた。その佇まいから、シェンには、彼女らが相当の武芸の修練を積んだ者に思えた。


ややあって、フウミが姿を現した。彼女はいつもの通りの、のっぺりとした笑顔を浮かべながらこちらに向かってやって来た。二人の前まで来ると、彼女は恭しく一礼した。


「これはこれは、国王陛下にあらせられましては、何用あってこちらまで?」


「姫の容体が気になる。見舞に来た」


「ご無用に存じます」


「何だと?」


「国王陛下が見舞われたとて、姫様の熱が下がるわけではございませんでしょう。徒に姫様の体力を奪うだけでございますので、今夜のところはどうぞ、お引き取り下さいませ」


「いま、姫は何をしている。熱は下がらないのか」


「陛下がご心配することではございません」


「熱が下がらないのだろう。誰だって心配するだろう」


「お優しいお言葉……そのお言葉だけで十分でございます。姫様には、妾がお伝え申し上げます。どうぞ、今宵のところは、お引き取り下さいませ」


「いいや。姫の様子を一目見なければ俺は帰らぬ。どけ」


「姫様は順調に回復して遊ばしますので、ご心配なく」


「だったらなおのこと見舞う。どけ」


「今宵のところは、お引き取りを」


「おかしいではないか。私が差し向けた医師の診察もうけず、熱は下がらない。一体貴様たちは何をしているのだ。一刻も早く姫の熱を下げてやらねばならないのではないのか」


「そのように取り計らっております」


「しかし……」


「すでに、」


フウミはシェンの言葉を遮った。顔は相変わらずのっぺりとした笑みを浮かべている。彼女はまるで諭すように、そして、自信満々に言い切った。


「すでに、帝国に使いをやって、御典医・サルバルさまをブライアルに差し向けてもらうように要請しておりますので、心配はご無用でございます」


「バカな! エルドライからここまで何日かかると思っているのだ。そんなことをしている間に、姫の体力は消耗してしまう」


「サルバルさまがおいでになるのは、すぐでございます。何の問題もございません。どうぞ、ご安心して、お引き取り下さいませ」


「そんなつまらぬことをするな。すぐに医師を……」


「聞こえませぬ」


「なに?」


「国王陛下の、あの、かわいらしいお声が聞こえませぬ」


バカにした対応だった。お前ごときが姫様に会うなど片腹痛いと言わんばかりの態度だった。シェンは思わず叫びだしそうになったが、その瞬間、ロースマイが口を開いていた。


「国王陛下に対して、不敬でありましょう!」


まるでいたずらをした子供を叱るかのようにピシャリとした物言いだった。フウミは一瞬虚を突かれた表情を浮かべたが、やがて、いつもの通りののっぺりとした笑みを浮かべると、侍女たちを伴って部屋に入っていった……。

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