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タウマ姫の体調

それからタウマ姫はさらに活発になった。もはや、ブライアルに嫁いできた彼女とは全く別人のようになり、日々を楽しく送っているのは、誰の目を見ても明らかだった。


その中で彼女は、才能の一端を開花させようとしていた。それは、絵を描く才能であった。


タウマは来るべき両親との再会に備えて、自分でその衣装のデザインを行った。他愛もない、少女が絵具でコツコツと描いたものだが、シェンにはそれが子供が描いた絵には到底見えなかった。粗削りではあるが、しっかりと服のデザインが描かれていたのである。彼はその出来栄えを褒め、すぐにシェイスにそのラフがを渡した。それを見た彼は、


「これは……新たに拾ってこられたデザイナーに描かせたのでございますか? どの者でしょうか」


と聞いてきた。むろん、お世辞などではない。彼はそう言う点は冷酷なほどに現実的に判断する。その彼をして、タウマの目には、駆け出しと映ったとしても、デザインをする資格のある者が描いたと見えるクォリティーを備えていたのだ。


シェイスは早速、城の衣装方の部屋に行き、このデザイン画の服を作らせるように指示をした。むろん、贅を尽くした衣装であることは言うまでもない。服のあちこちに宝石を縫い込んだ、まさにブライアル王国の威信をかけてのプロジェクトとなった。


そんなことは露知らぬタウマ姫は、それからというもの、気の向くままに絵を描いた。それは風景画を描くこともあり、部屋の調度品を描くこともあった。乳母のフウミは何も言わなかった。ただ、姫様がなさることをなさればよいと言ってそのままにしておいた。それまでは、王妃としてのしきたりなどの勉強や様々なお稽古事をしていた彼女だったが、フウミの計らいによって、束の間の自由を満喫していた。むろんそれは、夫であるシェンが、姫は伸び伸びと遊ばせろという命令を下していたからに他ならないのだが、本来のフウミの性格では一笑に付してもおかしくはない命令であった。だが、彼女は唯々諾々としてそれを受け入れた、シェンらはその様子を不気味に感じたが、姫の様子は全く変わることがなかったために、特に何も言及はしなかった。


しかし、それからひと月後、タウマ姫は熱を出して寝込んだ。その日はシェンと一緒に時間を過ごす予定であったが、彼女は寝室には現れなかった。彼はその日も、彼女の好物である餅を持参して来ていたが、熱があるために今夜は大事を取って部屋で休ませるというフウミの言葉をロースマイが伝えてきた。彼は仕方がなく、自分で持ってきた餅を一人で食べてその夜は休んだ。


さらに三日後、部屋を訪れたシェンに、やはりフウミからロースマイにまだ熱が下がらないために、今夜も部屋で休ませるとの伝言があった。さすがに三日間も熱が続くとなると、彼自身も心配になり、医師を差し向けようと伝えると、フウミからはクスリを持参して来ているので問題ないと返答があった。彼はその言葉を信じて、その日も一人で夜を明かした。


さらに三日後、部屋に訪れると、まだ姫の熱は下がらないのだという。少し体力がついたとはいえ、元々体の弱かった彼女だ。まだ、子供の体に一週間も熱が下がらないというのは、かなりの負担となる。さすがに心配した彼は、姫の部屋に見舞に行こうとしたが、部屋の前でフウミたちに遮られてしまった。彼女は、姫様はお眠りになっています、本復まであと少しなのでございますと繰り返すばかりで、埒が明かなかった。眠っている彼女を起こすのはさすがにかわいそうと感じたシェンは、その日もすごすごと部屋に戻ったのだった。


翌朝、後宮を出ると彼は真っ先に父・ジュサの部屋に向かった。姫の容体を聞いていた彼は、顔を見るなり、タウマちゃんの様子はどうだいと聞いてきた。やはり熱が下がらないようですと答えるシェンに彼は、


「それは、もしかすると、デウカリ熱かもしれないね」


と言った。デウカリ熱というのは、大体十歳から十二歳くらいの子供が罹患する熱病で、かなり長期間に及ぶ病だ。国内では、その熱のために命を落とす子供も少なくなかった。熱が下がったかと思いきや、また高熱になるというのを繰り返すため、看病をしている者が倒れてしまうことすらある病だ。熱が下がって一安心しているところに、また熱が上がって子供が苦しみだす。病と闘う子供も苦しいが、それを看病する親も苦しむという厄介な病であった。


この熱病はシェンも、妹のメイルも罹患したが、父・ジサは薬草に通じている。村はずれの山で採れるカンサ草と呼ばれる薬草を細かくすりつぶして服用すると、すぐに熱は下がる。この薬のおかげで彼らはあまり苦しまずにこの病を克服している。そういえば、妃のフィリアも罹患し、ジサが作った薬草で本復している。もちろん、その薬を届けたのはシェンであったのは言うまでもない。


ジサは馬を駆ってその草を獲りに行くと言って、すぐに準備を始めた。シェンは念のため、医師にタウマの様子を見に行かせるようにシェイスに命令しようと、手を二回鳴らした……。

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