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最高のプレゼント

秋も深まってきた頃、シェンは相変わらず三日に一度のペースで後宮に通い、その度ごとにタウマ姫と共に夜を共にしていた。当然、二人には男と女の関係はない。だが、すでに二人は打ち解けていて、まるで、年の離れた兄弟のような関係になろうとしていた。


シェンは国王として忙しい日々の中で、姫が喜びそうなものを見つけると、それを彼女の許に持って行った。また、妃であるフィリアも、そう度々に会うことは叶わないが、それでも彼女は毎回のように手紙を書き、彼女の体調や環境を気遣った。タウマもお姉さまお姉さまと言ってフィリアを慕い、この二人もまた、まるで姉妹のような関係性を作っていた。


心配された乳母・フウミは沈黙を貫いていた。当初こそ、タウマ姫を伴って寝所に現れたが、今ではロースマイが姫を連れてくるようになった。と同時に、これまでは素肌の上に薄いパジャマ一枚を纏っていたタウマは、今ではきちんと下着をつけてベッドに入ってくるようになった。もちろんそれはシェンの厳命があったればこそで、それもまた、姫がシェンに懐くようになった一因でもあった。


今では彼女はフウミに内緒で、シェンと共に過ごすときは、一緒に夕食を食べ、起きてから朝食を食べるようになった。ここ最近では、彼女のたっての頼みで、朝食は、わざわざフィリアが後宮までやって来て、三人で食事を摂るようにまでなっていた。そのおかげもあってか、彼女は見るからに元気な様子になっていた。体にある程度の肉が付いたのも、その一因であると言えた。


ロウロの話とタウマ姫の話を総合すると、彼女はフウミの許では、ほとんど食事を摂らない生活を送っていたらしい。彼女は数多く並べられた料理には一口だけ食べる、ということを強いられていたようで、とりわけ、ブライアルに嫁いできてからは、食事の品数はそう多くないために、満腹になる前に食事を終えていたというのだ。


そもそもタウマ姫には、食に関する興味がほとんどなかった。他の王族同様、毒見を繰り返した食事を与えられていたため、その大半は冷めた料理であり、何かを食べて美味しいと感じることはほとんどなかったのだという。彼女にとって食べる、とは生きるために最低限に行う作業でしかなかった。


ところが、彼女はブライアルに来て、食事の美味しさに目覚めてしまった。剣聖・ジサが折に触れて作ってくれるはちみつ入りの餅は、大好物になり、一週間に一度は食べねば承知しないようになった。また、焼いた魚も肉も、好物の一つになった。シェンがあらかじめ自分で焼いた魚や肉を食べるのが、彼女にとって、何よりの楽しみとなっていたのだった。寝室から出るときは決まって彼女は、次に持ってくる料理をリクエストして行くようになっていた。


この日も、シェンはタウマがリクエストした餅を持って後宮に入った。部屋で待っていると、待ちかねたようにタウマ姫が部屋に小走りで入って来る。もう、それが日常であるかのように、ロースマイは何も言わずに一礼して扉を閉めた。


「お待たせ。姫の希望したお餅を持ってきましたよ」


相変わらずシェンの対応は丁寧だった。本来は妻である彼女を姫と呼び、敬語で話をすること貫いていた。その姿勢は、タウマ姫にとっては、子ども扱いをせずに、ひとりの女性として接してくれると感じられるもので、彼女が彼を慕う大きな理由の一つでもあった。


タウマは嬉しそうに彼から餅の入った箱を受け取る。中は温かい。そのぬくもりを手に感じながら箱を開ける。美味しそうな餅の香りが鼻をくすぐる。思わずごくりと喉を鳴らす。


もう勝手知ったる料理だ。傍に置いてあるガラスの容器にははちみつが入っている。それをたっぷりと餅上にかけていく。フォークを手に取り、上品に切り分けながらそれを食べていく。


「その餅は姫のお餅だから、全部食べてください。今日はね、もう一ついい知らせがあります」


「いい知らせ?」


「はい。今日、エルドライの皇帝陛下から、新年の祝いに招待されました」


新年の祝い、と聞いて、タウマ姫は大きく頷いた。エルドライにおける最大の祭りと言っていいイベントだ。皆、正装をして大帝と皇帝の前に控えて、新年を祝う宴が催される。決して皆ではしゃぐものではなく、荘厳な雰囲気の中、粛々と行われる会だ。タウマ自身も幼少のころから、美々しい衣装を着せられて参加していた祭りだ。彼女にとっては退屈この上ないイベントで、決して好きではなかったが、それでも、エルドライに行くことができる彼を、彼女は正直に羨ましいと思った。だが、その彼の口からは、思いもかけない言葉が話された。


「姫、あなたも、俺と一緒に、帝国に行きませんか」


「え……帰れ、るの……?」


「ええ。シェイスに聞きましたら、正妃を伴って行くのは問題ないそうです。姫、嫌じゃなければ、御父上とお母上に元気な姿を見せに行きませんか」


「行く! 行きます! 行く!」


タウマは無意識のうちに涙を流していた。それは、彼女にとって最高のプレゼントだった……。

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