離宮での休息生活
俺たちが離宮に来て三日が経った。今、俺はフィリアと共にベッドに入っている。俺たちの間には、タウマ姫が静かな寝息を立てている。
休暇のために訪れたのは、レイフェルの離宮だ。以前俺がシェイスをまいてユアザライ村に向かった、あの離宮だ。
この離宮の特徴は、庭に自然の川が流れていることにある。その川の水を使って池や庭が作られていて、とても落ち着いた雰囲気を醸し出している。
俺に従っているのは、フィリアはもちろん、タウマ姫に加えて親父とおふくろ、そして、ロウロ、シェイスとクレスト兄弟だ。俺たちが到着したすぐ後で、メイルもやって来た。まあ、言ってみれば、身内ばかりの家族旅行であると言える。
一番懸念したのは、やはりタウマ姫だ。いきなり乳母のフウミから引き離されたので、戸惑ったりパニックになったりしないかとやきもきしたが、さすがに離宮に到着したときはオロオロしていたが、ロウロの顔を知っていたので、すぐに落ち着いた。彼女はこの離宮の庭を気に入り、しばらくの間、芝生の上を走り回っていた。彼女曰く、エルドライのお城の庭でよく遊んだとのことで、ここの芝生はそのときの記憶を思い起こさせたらしい。
食事は、もちろん料理人がいるが、昼食は俺たちで用意した。川が流れているので、そこで釣りをして、釣った魚を焼いて食べたのだ。さすがにそれをしようとしたときには、シェイスが驚いて止めようとしたが、俺が直々に料理をするのだから問題ないだろうと押し切った。
この時期はサオラという魚が美味しい。なかなか釣るのが難しいのだが、人の手が入っていないためか、驚くほどの数が釣れた。それを火の中に放り込んで丸焼きにする。焼きあがると丸かぶりをするのだが、親父はこの魚が好きで、頭からかじってしまう。タウマ姫はさすがにそれではいけないということで、魚をほぐして食べさせたところ、すぐに気に入ってしまい。何度もお代わりをした。同時にシェイスも、表情は一切変わらないが、淡々と魚を食べていて、俺の食べるものがなくなってしまった。さすがに大謝りしていたが、程なく数匹釣って事なきを得た。
二日目は、サンドイッチなどを作ってピクニックを楽しんだ。森の中には野イチゴなども獲れ、さすがにお腹を壊してしまうかなと思いきや、それもタウマ姫は気に入ってしまった。たくさん獲れたので、そのまま離宮に帰ってそれでフィリアと共にジャムを作っていた。
そして今日は、親父がなぜかタウマ姫に剣の稽古をつけると言い出したので、落ちている木で剣の稽古をした。何ということはない、タウマに木の棒を持たせて斬りかかって来るように促して、それを親父が全て受け止めるというものだ。さすがは剣聖というべきか、親父もよく心得ていて、時おり斬られて大げさに転がっていた。子供の手ほどきをする際によく使う手で、俺も小さいころはこうやって稽古をつけてもらった。二人の様子を見ながら何とも懐かしい思いが込み上げてきて、少し泣きそうになったのはナイショの話だ。
タウマ姫とフィリアはすぐに打ち解けて、二人は「お姉さま」と「タウマ姫」と呼び合う仲になった。俺よりもフィリアに懐いてしまい、夜などはお姉さまと一緒に寝たいと言い出す有様で、今夜のように、俺たちの間で寝るようになったのだった。
あまり喋らないために、大人しい姫だと思っていたが、彼女の本質は活発さにあるようで、この三日間は外で遊ぶのが楽しくて仕方がないというのがよく伝わってくる。明日はまた釣りに行きたいということで、川に行くことが決定している。機会があれば、川に入って水遊びをするというのも悪くはないなと思っている。
彼女は毎日外で大いに遊び、大いに食べ、大いに笑って、大いに眠っている。そのおかげか少し肌が日焼けしてきているし、ふっくらしたような気持ちさえする。子供というのはこうでなければならないなと思う反面、後宮で、フウミらにどれほど窮屈な生活を強いられているのかが察せられて、改めてこの姫がかわいそうになった。
いま、彼女は静かな寝息を立てている。つい数分前まで喋っていたが、黙ったなと思うともう、寝ていた。
「……可愛らしい寝顔ですこと」
フィリアがタウマ姫の寝顔を見ながら、誰に言うともなく呟いた。俺は黙って頷く。
「きっと、この方はきれいな女性になられることでしょう。陛下のよき皇后さまとおなりになります」
「……どうだろうね。全然想像がつかないよ。どちらかと言えば、今は自分の妹のような感覚だ。男と女の関係になるなど、考えられないよ」
「今はそれでよろしいかもしれませんが、いずれ成長なされると、そうも言っていられなくなるでしょう」
「やっぱり、不安かい?」
「いいえ。私はあなた様のお側に参ると決意してから、そうなることは覚悟しております」
「……俺は、フィリアにはずっとそばにいて欲しい。それに、このタウマ姫の傍にもいてやって欲しい。フィリアと一緒に遊んでいる姿は、本当に楽しそうだ。これから先のことはわからないけれど、仲良くしてやって欲しい」
「そうですね。私も何だか、妹ができたような感覚を覚えるのです」
「しばらくは、それでいいんじゃないかな」
俺はそう言いながら、タウマ姫の頭を撫でた……。




