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タウマ姫、後宮の外へ

それから程なくして、王太子・シェンの戴冠式が行われた。彼はこの日をもって、ブライアル王国の国王となり、ユアザライ一世を名乗ることになった。


それは豪華の一言に尽きる宴だった。美々しい衣装に身を包んだユアザライ一世が大司教の祝福を受け、国王の証である王冠を頭にいただく姿は、まさしく神に愛されているのではないかと錯覚するほどの荘厳さであった。


彼のすぐ傍には、美々しく飾り立てられたタウマ姫の姿があった。ただ、いくら美しく飾り立てようとも、その体の幼さは隠しようもなく、二人が並ぶと、何とも言えぬ違和感を与えた。一方で、彼から遠く離れた場所に控えているフィリアは、美々しい宝石などは身に付けてはいないが、その気品は辺りを払うもので、人々の目から見ると、どちらが正妃としてふさわしいかは一目瞭然であった。


貴族の中には、ブライアル王国の妃が他国から嫁いできたということに拒否反応を示す者も多かった。そんな中、下級貴族とはいえ、ブライアル出身の女性が国王の傍に侍っているという事実は、少なからずそんな彼らの留飲を下げる役割を果たしていた。


戴冠式自体は、王太子就任時と同じように、時間にして約一時間程度で済んだ。ただ、前回と異なるのは、新国王と王妃が馬車に乗って王都に向かい、パレードが行われるというものだった。むろん、王都に住む人々は新国王の即位を歓迎し、王都は大混乱となった。だが、心配された騒動の類は起こらず、宰相以下、主だった者たちは胸を撫で下ろしたのだった。


それから数日間は、この王都はお祭り騒ぎとなった。皆、一様に新国王の即位を祝っていたが、ただ一人、それを喜ばない者がいた。フウミだ。


普段はのっぺりとした笑顔を見せるだけで、あまり表情を変化させない彼女だが、この日ばかりは違った。明らかに不満の表情を顔に出していた。その彼女の前に控えているのは、後宮総取締役である、ロースマイだった。彼女はまるで、見下すような表情でフウミに相対していた。


「姫様をどうするつもりじゃ」


「お控えなさい」


「……」


「誰に口をきいているのですか」


「私は、エルドライ皇帝陛下から勅命を受けてまいっておるのです」


「ここはブライアル王国です」


「姫様を、どうするつもりじゃ。答えよ」


「そのような無礼な輩に話をする言葉を私は持ちません」


そう言って彼女は踵を返してその場を離れようとする。そのとき、扉の前に控えていた二人の侍女たちが彼女の行く手を遮った。ロースマイはその二人を静かに睨みつけた。


「あの、ロースマイ様。あれをお見せになってはいかがでしょうか」


彼女の傍に控えていたメイドがそう言って頭を下げる。それはメイルだった。彼女は周囲にわからないようにロースマイにウインクをした。


彼女はさも、仕方がないと言わんばかりの表情を浮かべると踵を返して、再びフウミの前に立った。そうしておいて、懐から一通の書簡を取り出して、フウミの前に突き付ける。


「これは、何でしょう?」


「エルドライ皇帝陛下から、国王陛下に宛てられた書簡です」


予想もしていなかった事柄に、フウミは狼狽えた様子を見せた。あたふたと彼女は書簡を受け取ると、まるで、宝物を受け取ったかのように押しいただいて、それを広げた。


そこには、国王シェンの即位への祝いの言葉と、娘・タウマをよろしく頼む。ついては、外で伸び伸びと遊ばせてやって欲しいという文言が書かれてあった。


フウミは不思議そうな表情を浮かべた。そんな彼女にロースマイは、


「国王陛下にあらせられては、即位式が終わった後は、離宮でご休息なさることは以前にも伝えてあるはずです。もちろん、そこに皇后陛下が共に参られるのも不自然なことではなく、当然のことでございます。さらには、その書状にもある通り、皇后陛下のお父上様からも、外に連れて行ってくれとのお願いの文言がございます。何を怒っているのかは知りませんが、私に無礼を働くというのは、エルドライ皇帝陛下はもちろん、我が国王様に対して無礼な振る舞いをしているのも同じ。これ以上、無礼を働くのであれば、国王陛下に対する不敬罪でその身を拘束します」


彼女はきっぱりとそう言うと、踵を返して部屋を出て行こうとした。その背中越しにフウミが、


「姫様はいつお戻りになるのですか!」


と叫んだが、彼女は一顧だにせずに、そのまま部屋を後にした。


「……さすがはロースマイさん、格好がよかったですよ」


メイルがそう言ってウインクをした。


「ああでも言わねば、あの者は黙りますまい。それにしても、フィリアさまはずいぶん知恵の廻るお方ですね。戴冠式の後で離宮で休息するというのはない話ではありませんが、まさか、エルドライに使者を遣わして、あのような文を持ってこさせるとは……。殿下、いや、国王陛下はよき女性を傍に置かれました」


「私もそう思います。あのお方は、兄にとって最高の相棒です」


メイルはそう言うとうう~んと背伸びをした。


「さて、私もこれから、離宮へと参ります。何かあったら、お知らせしますね」


その言葉に、ロースマイはゆっくりと頭を下げた。

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