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剣舞③

振りはすっかり覚えている。あの日以来、折に触れて時間を見つけては秘かに稽古を重ねてきた。


あのときの舞が親父の気に入らなかった理由はわかっていた。まさに、親父が言っていた通り、腰だった。今ならその意味がわかる。


俺は腕で剣を振るっていた。それではいけない。剣を振るうのは腕ではない。腰で振るうのだ。腰が決まっていなければ、剣を振るうことはできないのだ。


腕で剣を振るうと、体の中心がブレる。それがほんのわずかでも、中心が崩れてはいけない。それを見逃す親父ではない。体の中心が微妙にブレる踊りを親父が気に入るはずもないのだ。


稽古は必要ないねと言った親父の言葉は、ある程度剣が振るえるようになっていると言っているのと同じだと俺は解釈した。こうしてある程度のことがわかってくると、親父は実に丁寧に、優しく俺に教えてくれていたことがわかる。当時の俺はそれを理解することなく、ただ滅法に剣を振り回していただけだった。俺だったら、いい加減にしろと張り倒すところだが、父は我慢強く、出来るまで見守っていた。その父の愛情に応えられなかった自分を、今では恥じている。


それを雪ぐためには、親父の気に入る踊りを見せねばならない。俺は胸に期するものをもって、本番に臨んだ。


前回は子爵と数名しかいなかったが、今回は百人を超える見物がいた。そんな中でも俺は不思議に緊張はしなかった。


親父が動き出す。同時に俺も動き出す。もう、隣を見なくても、親父がどう踊っているのかがはっきりと感じ取れた。ただ、気配を感じているだけだが、踊りがピタリと合っているのが手に取るようにわかる。


親父は踊っていながらも、立ち位置はほとんど変わらない。動かない。おそらく周囲三十センチも動いていないのではないか。足を広げる振りもあるが、中心が動かないので、足は元の位置に戻ってくる。それは俺も同じだった。


振りが後半になると、親父はほぼ、息をしていない。俺も自然とそうなっている。まさに二人が一体となって踊っている。


踊りが終わった。二人同時に息をフーっと吐き出す。誰も声を上げる者はいない。静寂が訪れていた。


一瞬の間をおいて、観客が一斉に息を吐きだす。その直後に万雷の拍手が起こった。その拍手を浴びながら俺と親父は一礼して、控室に戻った。


「お父さん」


思わず父に話しかける。親父は満面の笑みを浮かべている。


「シェンさん、できたじゃないか。そうだ、それでいいんだ」


「お父さん、やっぱり、腰ですね」


「そうだよ、腰だ」


そう言って俺たちは二人で笑いあった。


しばらくすると、デルビッツ子爵が現れた。彼は拍手をしながらやって来て、俺と親父の手を両手で握った。


「いや、素晴らしかった。あんな剣舞を見たのは初めてだ。いや、よくやってくれた。礼を言う、礼を言う」


そう言って彼はものすごい勢いで拍手をした。でっぷりと太った子爵が拍手をすると、顔や顎の肉が揺れて何とも可笑しかった。


「素晴らしかったです。感動しました」


子爵の後ろから女性が現れた。子爵令嬢のフィリアだ。彼女は目を真っ赤に腫らしている。整った顔立ちの彼女の顔に赤みがさしている。俺にはその様子が女神のように思えてならなかった……。

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