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よく眠れた朝は……

目を覚ますと、タウマ姫はまだ眠っていた。よほど疲れていたのか、それとも満腹になって満足したのか、その辺のところはよくわからないが、何しろよく眠っている。すでに外は白み始めている。まあ、かく言う俺もよく寝たのだが。


この姫を起こしては悪いと思い、静かにベッドから出て、手洗いに向かう。実はそこに行きたくて目が覚めたのだ。澄まして部屋に戻り、近くに置いてあったポットを取ってコップに水を注ぎ、ぐいっと煽る。冷たい水がのどを通り抜けていく。美味しい水だ。


このまま起きていようか、もうひと眠りしようかと悩む時間だ。ベッドを見ると、タウマ姫がまだ静かな寝息を立てている。こうして見ると、やはり幼い。あどけないという言葉がぴったりの佇まいだ。きっと、エルドライの皇帝は、この姫を泣く泣く嫁に出したのだろうなと考えると、皇帝がかわいそうになってきた。その一方で、こんな幼い少女に閨を努めろと強要したフウミに、改めて怒りが湧いてきた。


「ん……」


姫が大きく息を吸い込んだかと思うと、ゆっくりと吐き出した。と同時に、彼女の目がゆっくりと開かれた。


「おはよう」


声をかけてみるが、目はうつろだ。ぼんやりと天井を眺めている。まだ、目が覚め切っていないらしい。


「朝まで時間があります。もう少し眠れますよ」


そう声をかけてやるが、反応はない。目を閉じたり開けたりしている。


「……お水」


小さな声が聞こえた。ああ、お水ねとコップに水を入れてやる。彼女の前の前に差し出すと、ゆっくりと起き上がり、それを受け取ると、コクコクと喉を鳴らしながら一気に水を飲み干す。


「ふぅ……」


「もう一杯飲む?」


俺の声に彼女は無言で頷き、コップを差し出した。それを受け取り、再び水を入れて彼女に渡す。今度はゆっくりと、味わうようにして水を飲んでいる。


「大丈夫かい? よく眠れたかい?」


グラスを俺に返すときに目が合った。そのとき、目が覚めたのだろう。驚いたように体を震わせる。


「お……おはよう……」


「おはようございます。よく眠っていましたね」


「……」


ベッドに体を起こした状態で、まるで後ろの枕に体を預けるようにして彼女は深呼吸をしている。おそらくこれほど熟睡したのは初めての経験なのではないか。ちょっと信じられないと言った表情を浮かべている。


「……ちょっと、体が」


小さな声で呟く。


「ハハハ。よく寝ると、寝すぎるとそうなりますね。俺も経験があるのでわかります。少しすれば戻ります。きっと今日は絶好調ですよ」


俺の声を聴きながら、彼女は再び深呼吸をした。


「……あ、フウミの」


何かを思い出したらしい。ゆっくりと彼女は俺を見た。それはきっと、あの得体のしれない粉薬のことだろう。


「あの粉薬のことかな? 覚えていませんか?」


目が泳いでいる。昨日の記憶を呼び起こしているのだろう。そんな彼女に俺は声をかける。


「残った餅にかけて食べましたよ。とても美味しかったです」


「あ……」


何となく、そうだったかと思ったらしい。彼女は少し笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。


そのとき、扉がノックされて、ドアが開いた。そこにはフウミが立っていた。彼女はいつもと同じようにのっぺりとした笑みを浮かべながら静々とこちらに向かってくる。それを見たタウマ姫が、ゆっくりとベッドから降りて彼女の許に向かう。


フウミは姫の前で座ると、上から下へと何度も彼女を見た。おそらく、というより確実に、昨晩彼女に俺の手が付いたかどうかを確認しているのだ。手など付けるわけはない。にもかかわらず彼女は観察をしている。


「それでは」


さも残念と言わんばかりの表情を浮かべながらフウミはタウマ姫を促して部屋を出て行った。部屋から出るとき、姫はこちらを振り返って一礼した。何となく、それで彼女が礼を言っていると感じた。


しばらくすると、二人と入れ替わるようにロースマイがやって来た。俺は彼女に無言で、昨日姫がもってきた薬を包んだ紙を彼女に手渡し、ゆっくりと首を左右に振った。それだけで彼女は俺の意向を察したようで、ただ黙って頭を下げた。


そのまま部屋で朝食を摂る。相変わらず毒見を経ているためにすべての料理が冷たい。ただ、どうしてだろうか、いつもの朝食よりも美味しく感じた。


「……あの姫の食事も、これと同じものなのかな」


思わずそんな言葉が口をついて出た。ロースマイが、


「左様でございます。おそらくあの姫様は、温かい食事というものをほとんどご存じないかと存じます」


「だから、か。あの餅を美味しそうに食べていた。まあ、餅本来の美味しさもあってのこともあるけれどな」


「ただ……次回からは、お上がりになりますかどうか……」


「そうだな。何か策を考えないとな。あの体で冷たいものしか口にしていないとあれば、おそらく病には弱いだろう。何とかしてやらねば」


俺の言葉にロースマイはゆっくりと頭を下げる。


「あ、そうだ。美味しい餅を提供してくれた大上妃に顔を見せておくか。きっとあれは大上妃に仕える者たちが拵えたのだろう。彼女たちにも、礼を言わねばならないだろう」


ロースマイの顔が、パッと明るくなった。

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