面接と採用
ロウロは王太子の言葉を待ったが、待てど暮らせど、彼からは何の言葉もなかった。ゆっくりと目を開けてみると、彼はガサゴソとタンスの中をあさっていた。
「……ったく、何にもねぇな」
彼はそう言って顔をしかめている。そうしておいて、手を二回鳴らした。
「お呼びでございましょうか」
メイドがそう言って入室してきた。彼はその女性に毛布を持ってきてくれと命令した。メイドは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの表情に戻ると、承知しましたと言って部屋を出て行った。ややあってメイドは大木は毛布を抱えて戻ってきた。彼はそれを受け取ると、ありがとうと丁寧礼を言ってそれを受け取った。
「……!」
王太子は手に持っていた毛布を、そのままロウロの肩にかけた。彼はそのまま元居たソファーに腰を下ろす。
「その恰好じゃ寒いだろう。それを羽織っておけ。しかし、タウマ姫といいお前さんといい、エルドライの者たちはどうしてそう、薄い衣装を着たがるかね。それは仕来りか何かなのか?」
彼の言葉にロウロは黙ったままだ。そんな彼女に彼は、まあ座れと言って、前に設えられてあるソファーに腰掛けるように促した。
「……うん?」
ロウロは黙ってフウミに持たされた推薦状を差し出した。彼は訝りながらもそれを受け取り、中を検めた。
「……ほう、そう来たか」
手紙を読み終わると、彼はそう呟いた。
「お前さんはロウロというのか。俺のために働く気はあるのか?」
「……このようになりましたからには、粉骨砕身お仕えさせていただきます」
「そうか。なら、採用だ」
彼はそう言うと手紙を置き、じっとロウロの目を見つめた。何とも言えぬ緩い緊張感が漂う。
「……では一つ、頼まれてもらいたい」
「はっ、何なりと」
「タウマ姫の様子を教えてほしい」
「姫様……の?」
「そうだ」
「理由をうかがっても、よろしいでしょうか」
「あの体だ。体が気になるのだ」
「どういうことでございましょうか」
「瘦せすぎていると思わないか」
「……」
「あの姫が日々、どのような暮らしをしているのかを知りたい。さらに言うと、姫の好みも知りたい。どんな好物があるか、逆に嫌いなものはなにか、といったことだ」
「……それを知って、どうなさるおつもりですか」
「少なくとも、後宮で俺と過ごしている間は、好きなものを食べさせてやりたいと思っているだけだ。あの体では、ひとたび病にかかると、重症化する可能性がある。俺はそれを心配している」
「承知しました」
ロウロの言葉を聞くと、彼は満足そうに微笑んだ。
「その話は明日また、ゆっくり聞くことにしよう。今日は疲れただろう。夕食は摂ったのか? そうか。それならば、今日はもう寝ろ。おいメイル!」
扉が開くと、そこにはつい先ほど命を奪おうとしていたメイドが立っていた。彼はそのメイドに向けて口を開く。
「このロウロを休ませてやってくれ。今日から俺たちの斥候を務めてくれるそうだ」
「……そうなんだ。ただ、ベッドがないんだよなぁ」
「クレストはどうしている」
「今日は帰ってこないってさ」
「じゃあ、今日だけはクレストのベッドを使わせてやれ。部屋は明日、シェイスに命じて用意させる」
「わかった」
「ついでに、ロウロに服を貸してやれ。この衣装では外に出るにも具合が悪いだろう」
そう言って彼は背伸びをすると、また別のドアを開けて部屋を出て行った。
「……じゃあ、案内するわ。ダンナのベッドだけど、ちょっと我慢して。明日はちゃんとした部屋を用意するから」
メイルと呼ばれた女性はそう言ってロウロについてくるように促した。
……何とも不思議な光景だった。つい先ほどまで命のやり取りをしていた二人なのだ。それが今、そんなことはなかったかのように気安く口を利かれている。彼女は少し混乱してきていた。
メイルの部屋はすぐ近くにあった。彼女はベッドを少し直すと、ここを使って、と言って指をさした。ロウロはそこに腰を下ろす。それを見届けたメイルは、クローゼットを開けると、何やら中を物色し始めた。
「あったあった、これだ」
彼女が持ってきたのは、シルクでできたパジャマだった。しかもそれは新品のようだった。
「お兄ちゃん……あ、王太子殿下ね。お兄ちゃんがウチのダンナ用にくれたんだけれど、どう考えてもダンナに合わないから、取っておいたのよ。着てみてくれる? 合わないなら別のものを探すけれど」
「……こんな高価なものを」
「別にいいんじゃない? 誰も着ないんだから。いいのいいの、着ちゃって着ちゃって」
「……変わった方だ」
「うん何が?」
「私は先ほどまであなたの命を狙っていたのだ。そんな者を自室に招き入れて、一緒に寝ようとしている。怖くは、ないのか? それとも、私の実力であれば制圧できると考えてのことか?」
メイルは一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに苦笑いを浮かべながら頭を左右に振った。
「ああ~いいや、実力でいえば、ロウロさん、あなたの方が上だと思うよ。まあ、こんなことくらいで驚いていたら、私の家族はやっていけないんだよね。だから、大丈夫よ」
「え?」
メイルの話に、今度はロウロがキョトンとした表情を浮かべた。




