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夜伽の準備

タウマ姫の衣装を管理しているモンノは、突然フウミに呼ばれた。彼女は顔を近づけると何やらゴニョゴニョと耳打ちをする。


「まあ、それは……」


「そなたはただ、衣装を準備しやいのう」


「畏まりました。ヒッヒッヒ」


モンノは下卑た笑い声をあげると、スッと一礼してその場を辞した。


総白髪で、顔にはいくつもの皴が刻まれている。彼女は笑みを浮かべながら衣裳部屋に行き、今宵王太子の枕元に侍る衣装を選び始めた。彼女はこれから始まる儀式を想像してまた、下卑た笑みを浮かべるのだった。


そのモンノが衣装を持ってバスルームに到着すると、ロウロはまだ中にいた。彼女は控えている侍女の目もはばからずその場で服を脱いで一糸まとわぬ裸になって、バスルームに入っていった。侍女たちは止めようとしたが、


「いいんですよぉ。どうせ裸の体に服を着せるのはアタシの仕事なんだから。服を着る前に、アタシが清めてやるんだよぉ。ヒヒヒ」


と言って取り合わなかった。


中に入ると、湯気の中に美しい裸身が見えた。言うまでもなくロウロだ。


いま、浴槽から出たばかりだろう。シミひとつない白い肌がピンクに染まっている。


だがその表情には、悲し気な思いが見て取れた。俯いたままで、ぴったりと閉じた太股の上に、大粒の涙が一つ二つと音もなくこぼれている。


モンノは何の恥じらいもなく、堂々とした様子でロウロの前に進み出た。しなびた胸に張り付いている乳房や、まったく手入れされていない白髪の陰毛が垂れていて、見るも醜い裸体だった。そんな有様を見てもロウロは何の反応も示さなかった。彼女はその背中に回り込むと、濡れたタオルで背中を流しながら言った。


「何も泣くこたぁないじゃない。女として生まれ、キレイな女に育って、えらい人に抱かれる。女としてこれほどの幸せはありゃしないじゃないか。お前さんはまだ生娘かぇ? 斥候みたいな汚れ仕事しているから、てっきりアタシャ男を知っている、いや、知って知って、知りぬいていると思っていたけれど、どうだい、このきめ細やかな肌。ええ? これから抱かれるってのにしおらしく涙なんかみせてさ。生娘みたいだよぉ。かわいいじゃないか。こりゃ、姫様にも言ったんだけれどね、痛いのなんてなぁほんのひととき。天井見て十も数えていりゃ、すんじまうよ。それにしても、いいお肌だねぇ。かじりつきたいくらいだよぉ」


両手を前の乳房に回して、泡のついたタオルで揉みたてると、いくら悲しいとはいえ生身の体だ。くすぐったそうに身もだえする。そうしておいてロウロは、目を開けると、憎しみを込めた目でモンノを睨みつけた。


「おお、怖いこと怖いこと。でもお前、忘れちゃいけないよ。お前はその体で王太子を骨抜きにして、このブライアルの情報をつぶさに伝えるんだ。忘れるんじゃぁないよ」


そう言うとモンノはロウロの体に何度も湯を浴びせかけた。


「おい、もう出るよ」


モンノが外に声をかけると、タオルを持った女官たちが入ってきて、ロウロの体を拭いていく。モンノはタオルを受け取ると素早く自分の体を拭き上げて、衣服を身に着けた。


ロウロが脱衣所に出ると、籠の中には、一枚の白いワンピースがあるだけだった。彼女は不承不承ながらそれを身に着ける。


……少し小さめのワンピースだった。ボタンを胸の前で止めるものだが、モンノは少し苦労しながらそれを止めていた。あえてそうしたのだろうか、彼女の乳房の形が丸見えになっている。さらには、薄布で作られているためか、中が少し透けて見えていた。下着の類を付けていないので、彼女の陰毛がうっすらと見えていた。


さすがのロウロもこれには戸惑った。しかし、その様子を察したモンノは


「なにもつけず、その白い衣装一枚だけで伺うんだ。すべて、向こうさまのおっしゃるとおりにするんだよ」


と冷たく言い放った。


せめて上着の一つも着たかった。王太子の部屋は後宮ではなく、そこから出たところにあるという。ということは、廊下を歩く者たちに自分の裸体が見られるということだ。これまで必死に帝国に尽くしてきた自分が、どうしてこんな仕打ちを受けねばならないのか。そんなことを考えると、再びロウロの頬に涙が伝った。


王太子殿下は化粧の濃い女性は好まないとのお触れが出されているらしく、彼女は薄化粧すらも許されず、素顔のままで王太子の許に行くことを命じられた。一人の女性としてせめて、美しく着飾って欲しかった。そんなことを心の中で叫んでみたが、それをしたところで、せんのないことであった。


ただ、幸いにして彼女は、王太子の部屋に行くまでに誰にも会うことはなかった。部屋に入る直前に、部屋まで案内してきた女官が耳元で、


「寝首をかくばかりか、仇討ちではございませんよ」


と囁いてきた。彼女はその言葉に何の反応も示さなかった。


「……おお、本当に来たんだな」


部屋に入ると、あの王太子が部屋着に着替えて、ソファーにくつろいだ様子で座っていた。ロウロは思わず目を閉じた……。

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