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暗殺者捕獲

その部屋はすぐに見つけることができた。何と、王太子の寝所のすぐ近くだ。ということは、あのメイドは王太子付きだろか。そんな考えがロウロの頭をよぎる。ただそれは大きな問題ではない。おそらく数人の者とベッドを並べて雑魚寝をしているだろうが、気配を完全に消して一瞬のうちに始末してしまえばいい。そんなことを考えながら、彼女は屋根から壁伝いに降りていき、窓から中をのぞくと、何とそこには、狙う相手が廊下を歩いていた。


こんな好機を逃す手はない。メイドの体からマジックアイテムを通して、自身の服に付けた香りが漂ってきている。間違いはない。


ロウロは窓を押し開けてみる。意外にカギはかかっていないと見えて、窓は易々と開いた。そこから素早く中に入り。壁に隠れながら相手の姿を確認する。


長い廊下を彼女は一人で歩いていた。周囲には誰もいない。まさに打ってつけの状況と言えた。


完全に気配を消して、足早に彼女の後ろを追う。手には細い針のようなものを持っていた。


一足一刀の間合いに入る。針を振り上げる。首の急所に打ち込もうとしたそのとき、メイドが飛び上がった。ちょうどロウロの頭上で一回転するようにして着地すると、トントントンとステップを踏むようにして距離を取った。彼女も振り返ってメイドを攻撃しようとしたそのとき、背後に冷たいものを感じた。気づくと、自分の頬に剣が添えられていた。


「おとーさん早い」


目の前のメイドが驚きの声を上げる。その彼女の後ろから、見覚えのある男が近づいてくるのが見えた。……王太子だ。さらに後ろには二人の男が控えている。


なおも頬には剣の切っ先が添えられている。少しでも動けは顔に傷がついてしまう。ロウロは持っていた針を静かに床に落とした。恐るべきは、この剣の使い手は、相当の重さのある剣を微動だにせずに構え続けている。並の腕力ではない。そのとき、体の後ろから声が聞こえた。


「剣は、力で持つものではありません。ただ、剣に手を添えてやるだけでよいのですよ」


「またぁ、始まったお父さんのお稽古が」


メイドはそう言って屈託なく笑う。いま、自分が殺されそうになっていたのにもかかわらず、これだけリラックスしているのはどういうことか。先ほどの襲撃などなかったかのようだ。


「お父さん、もういいですよ」


王太子がメイドを押しのけるようにして前に進み出て、ロウロの前に腰を下ろした。と同時に、頬に当てられていた剣が離れた。反射的に手を頬にやり、血が出ていないかを確認する。


「傷などつくわけはない」


「……まさか、刃びいた剣」


「ハハハ。面白いことを言うな。真剣だ。お前が少しでも動けば、その端整な顔に深い傷がついていた」


王太子は不敵な笑みを浮かべたまま、ロウロを眺めた。


「メイル。コイツはエルドライの侍女で間違いないな?」


「間違いないわ。私とロースマイさんを案内した侍女よ」


「そうか」


王太子はそう言うと同時に、ロウロの口の中に何かを押し込んだ。少し硬くて、柔らかいものだ。


……全く反応ができなかった。最悪の場合は舌を噛み切ろうと思っていたのだが、それを完全に見抜かれていた。王太子はなおも不敵な笑みを浮かべている。


「心配するな。餅だ。食ってみろ。美味いだろう? それを、タウマに食べさせてやりたいと俺は思っている。その旨、フウミに伝えてくれ」


そう言って王太子は立ち上がった。従者の一人が静かに声を上げた。


「このまま捕らえて、エルドライの狙いを吐かせましょう」


「シェイス、やめておけ」


「殿下」


「これほどの腕を持った女性だ。口は割らないだろう。どうかすると、舌を噛み切って死ぬくらいの覚悟はある。やるだけ無駄だ。やめておけ」


「……」


王太子はそう言うと、チラリとロウロの顔を見た。


「餅を食ったら帰るといい。舌を噛み切って死ぬのは勝手にすればいいが、廊下ではやめておけ。血で汚れるからな。フウミの前ならやっていいんじゃないかな」


人を食った男だ。ロウロは王太子にわずかな殺気を向けた。


「俺を殺したいならいつでも来るといい、と言ってやりたいが、もうお前は死んだも同然だ。お前がエルドライの斥候、しかも、もっとも腕の立つ者であることがここで露見してしまった。お前は斥候としてはもう、使えないだろう。そうなるとエルドライには帰れないな。フウミの下でも働けないだろう。これから先は、路頭に迷うことだろう。可哀そうではあるけれど」


まさに王太子の言う通りだった。エルドライの斥候であることが露見した今、フウミさまは自分を殺すか、自決を迫ることだろう。それだけならまだいいが、これを機会に、姫様のお立場が危うくなる可能性すらある。ならば今ここで、と思ったそのとき、王太子が口を開いた。


「シェイス」


「はっ」


「この者はなんだ?」


「何だと仰せられますと?」


「この者は、どこぞの姫か?」


「何を言われます。エルドライの侍女でございます」


「ほう、侍女か。この者、名は、何と申す?」

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