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タウマ視点――初夜を終えて――

悪い人ではない。それが、彼女が思った夫への素直な印象だった。


正直言ってこの三日間は緊張の連続だった。ほとんど食事も喉を通らなかったほどだ。


乳母のフウミから、夫と一緒の寝るのだと言われたのは、婚礼の前夜だった。お父様とお母さまが一緒に寝るのは知っていたし、夫と妻は一緒の寝るものだと言うのは知っていた。実際、幼いころには両親の間で一緒に寝たこともあるからだ。ただ、フウミから二日目の夜に、服を脱いで裸にならねばならないと聞かされたときは驚いたし、とてもいやな気持になった。どうして服を脱がなければならないのか、何をされるのかが不安でたまらなかった。


ただ、フウミの言うことは聞かねばならない。その夜は恥ずかしいのを我慢して、覚悟を決めて服を脱いだ。


だが、夫は、殿下は、驚いた表情を浮かべながら、その必要はないと言った。ホッとした。しかも彼は、脱いだ服を着せようとさえしてくれた。上手く着られはしなかったけれど、それでも、何とかしようとしてくれた様子に、この人はいい人なのだなと素直に思えた。それに、お父様と同じ口癖だったのも親近感を持った。


タウマは父が大好きだった。いつも膝に抱いて、美味しいものを食べさせてくれた父が大好きだった。その父から、たっての頼みということで、このブライアル王国にやって来た。婿が決まったと言った父の顔は悲しそうだったし、きっとお父様も本意ではないというのは察せられた。それはお爺様――先帝陛下のご命令だったのだろう。自分も本音を言えば行きたくはないし、いつまでもお父様やお母様の許にいたかった。そのうちどこかの殿方と結婚するのだと聞かされていたけれど、それでも、もう少し両親のもとで過ごしたかった。


周囲の者は祝福してくれたけれど、それから先は、不信感を覚えることの連続だった。


婿が決まったと知らされてからわずかひと月後にはブライアル王国に旅立たねばならなず、両親と別れを惜しむ暇もなかった。さよなら、ありがとうございました、という言葉もそこそこに、二人の許を離れねばならなかったのだ。


さらには、結婚する相手、お婿さんが、下様での暮らしが長いために、とても乱暴でお行儀が悪い人であると聞いていた。乳母のフウミからは相手にするには及ばない人物であると聞かされていたし、侍女たちも同じようなことを言っていた。しかし、着いてみれば、その相手にするに及ばない人物と一緒に寝なければならないと言う。さらには、年齢を十四歳と言えとまで言われた。彼女はまだ十歳になったばかりで、四つも年上の女性として振舞うことを強いられるのは、何としても不審だった。


わけもわからないまま結婚式を挙げさせられ、その夜はわざわざエルドライから持ってきた衣装を身に着け、身長を高く見せる靴を履かされて寝所に向かった。下着をつけることは許されなかった。身に着けているのは、肌が透ける程薄い布だった。正直、恥ずかしかった。しかも、夫の前では着ている服を脱いで、薄絹だけで過ごさねばならないと聞かされて、途方に暮れた。どうしてそんなことをしなければならないのか、彼女は泣きそうな気持を必死でこらえていた。


閨の中で夫と言葉を交わすことは基本的に禁じられており、ただ一言、何事も殿下のお心のままに、という言葉を言えばいい。あとは、服を脱いで、相手に任せておけばいいとだけ言い含められていた。


夫が乱暴で粗雑な人物と聞いていた彼女は、その後で何をされるのかがわからずに不安と恐怖でいっぱいだった。薄暗い部屋の中で言われた通りの言葉を言い、服を脱ぎ、恥ずかしさに耐えながら目を閉じて待ってはみたが、夫は、殿下は何もしなかった。それどころか、寒いだろうから早く中に入れと言い、長旅で疲れただろうとねぎらいの言葉もかけてくれた。


とても丁寧な言葉だった。まるで自分の従者であるかのような言葉遣いだった。それも、父とよく似ていた。ただ、やはりその夜は寝られずに、彼女は朝が来るのを指折り数えて待った。


ようようのことで部屋に帰ってくると、フウミから夜に何をされたのかを聞かれた。包み隠さずに答えると、彼女はさも残念と言わんばかりの表情を浮かべた。あんなに恥ずかしく、不安な思いをさせておいてどうしてそんな残念そうな顔をするのか。さらには、その夜は直接肌を見せろとまで言ってきた。どうしてそんなことをさせるのか、彼女はますますこの乳母に不信感を持った。


ただ、夫は、服を脱ぐ必要はない、姫が嫌なことをする必要はないと言ってくれた。安心した。この人は私の味方だと思った。その彼は、お父様に会いたいとも言ってくれた。フウミには内緒でお父様の似顔絵を描いて渡してみたら、とても喜んでくれたうえ、美味しいものを食べて寝ようとまで言ってくれた。なぜかはわからないけれど、とてもうれしかった。


その彼は自分の似顔絵を描いて父に送ってくれと言った。お父様に手紙が書ける。彼女は喜んでそれをするつもりだった。


そして今、その夫から使者が来たという連絡があった。彼女の胸は高鳴った。なにかまた、うれしい知らせがありそうな気がしていた……。

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