エルドライ対策
三日間のお勤め(?)を終えて、俺はようやく自室で寛ぐことができた。今日も今日とて、びっしり詰まったスケジュールをやり切って帰ってきたところだ。
基本的に夕食は家族で摂ることになっていた。つまりは、両親、メイル、フィリア、そして俺というメンバーだ。クレストは仕事だ何だとと言って、あまり一緒には食べない。まあ、それはそれでいい。夜はちゃんとメイルのもとに帰ってきているので、あまり心配はしていない。
食卓の話題はもっぱらタウマ姫のことだ。俺はあの姫は決して悪い人物ではないと考えているし、皆も同じ意見だ。ただ、彼女についているフウミが曲者で、あの女性が一番のポイントであると考えている。
親父は、あまり痩せすぎであるのはよくないと言う。何だったら、自分が滋養強壮の食べ物を作ろうとさえ言っている。ちなみに、親父が作るのは、小さく丸めた餅の上にハチミツをかけるというもので、これが実に美味しいのだ。
「ただ……これまでの話を聞いている限りでは、姫様の御身の上が心配ですね」
フィリアがそう言って口を開く。
「おそらく、フウミという女官は、この三日間の間で殿下のお手が付くように仕向けてきていました。それがなされていなとなると、今度はどんな手を使ってくるのか……。それに、うまくいかなかったことを、姫様の責任になされていないか、それも心配になります」
「そうだな。俺も、エルドライ帝国の狙いがよくわからないんだ。何だか、敢えてこの国とモメる火種を作ろうとさえしているようにも見える。我が国と戦いを起こしたのだろうか」
「その可能性はなきにしもあらずだけれど……」
メイルが口を開く。腕組みをしながら天を仰いでいる。
「どちらかというと、この国を吸収しようと考えているんじゃないかな」
「吸収?」
「そう。後宮をエルドライ流に染めて、お兄ちゃんをエルドライ風の王に染める。タウマ姫との間に子供が生まれてその子が即位すれば、エルドライと同じ国が出来上がるし、労せずこの国を吸収合併することができる。そんな目論見じゃないかな」
「……何とも、壮大な計画だな」
「そうでもないよ。大国と大国との結婚は得てして、いろんな策略が巡らされているものだよ。エルドライだって、皇帝の娘を嫁がせるからには、それなりの見返りを期待しているわよ」
「見返り、か」
「後宮に五十人の女官を送り込んできたことを見ても、エルドライは我が国の情報を取ろうという意図が見えます」
そう言って、フィリアはまじめな表情を浮かべる。
「我が国の情報を、か。あの五十人の女官全員が、エルドライの斥候ということかな」
「そんなわけないよ」
「どういうことだ、メイル」
「五十人のうちの四十五人はただの女官。後の五人が斥候。そのうちの一人が、とんでもなく腕の立つ斥候じゃないかな」
「なんでそんなことがお前にわかる」
「そりゃ、ダンナがクレストだからね。そんな話がちらほらと出るのよ」
……なんちゅう妹だ、という言葉を飲み込む。目端の利く女性だとは思っていたが、ここまで優秀だとは思わなかった。クレストから、と言っていたが、きっと、あの手この手を使って彼を吐かせたのに違いない。ある意味恐ろしい嫁さんだ。
そんなことを考えていると、メイルがよしっという言葉とともに立ち上がった。
「私が、その斥候を突き止める」
「お前が? どうするんだ」
「メイドの一人として、後宮に入り込むのよ。後宮は男子禁制だけれど、女性は割合に気軽に入ることができるって聞いたわ。メイドの格好をして後宮に入って、誰が斥候なのかを見つけてくるわ。あ、そうだ。ちょうどいい。お兄ちゃん、その、タウマ姫に手紙を書いてよ」
「手紙? 何を書くんだ」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいって……」
「なんでもいいよぉ。う~ん。そうだ、今度会うときに、滋養強壮にいい食べ物を持っていくから、楽しみにしていろ、くらいの内容でいいよ。それを持って私がお姫様のところに行ってくるわ。ついでに、姫様の様子も見てきてあげる」
「わっ、わかった」
俺は促されるままに、タウマ姫に宛てて手紙を書いた。同時に親父に、次に後宮に行くまでにハチミツ餅を拵えてくれとお願いしておいた。そうだ、餅と言えば、大上妃だ。あの人の部屋で食べた餅は飛び切り美味しかった。俺は手を鳴らして侍女を呼び、ロースマイに大上妃に餅を貰いたいと俺が行っていると伝えてくれと命じた。
すぐに返答があった。すぐさま用意するので、すぐさま取りに来い、という伝言だった。まさかそんな急な話になるとは思わず、俺は取るものもとりあえずに後宮に急いだ。
入り口の前には、ロースマイが待っていた。彼女は俺を見るなり、よくぞ大上妃さまの許にお出でくださいましたと言って、目に涙を浮かべた。その様子を見て俺は、何だかイヤな予感がした……。




