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少女との閨、三日目

とりあえずこの日が終われば解放されるのだ、俺は自分にそう言い聞かせて後宮に向かった。


正直言って二日間ほとんど寝ていないのはキツい。できれば一日ゆっくりと休息したいが、王太子としての予定が詰まっているので、そうわがままも言えない。仕方がないので眠い体をおして仕事に励んでいるが、俺にも限界というものがある。


これまで同様、部屋につくと風呂に入り、身支度を整える。ベッドに入ると、待っていたかのようにタウマ姫が入ってくる。むろん、女官たるフウミに連れられて、だ。


俺のすぐ近くまで来ると、二人は恭しく一礼する。これまではそれでフウミは踵を返して部屋を出ていくのだが、今日はその場にとどまっていた。


「恐れながら申し上げます」


フウミはそう言って俺を見た。相変わらずのっぺりとした笑顔を浮かべている。ちなみに、後宮では女官が王太子や国王に話しかけるのは禁じられている。ご下問があって答えるのは許されるが、そうでない場合は、下手をすると打ち首になる可能性すらある。彼女はそれを知ってか知らずか、堂々と俺に話しかけてきた。それだけの覚悟を持って、のことだろうか。


「今宵こそは、姫様に、お情けを……お願い申し上げます」


彼女はそう言って、笑顔のまま頭を深々と下げた。何ともわざとらしい。俺は一瞬、バカ野郎と怒鳴ってやろうかと思ったが、さすがに姫の手前それはイカンだろうという自制心が働いて、何も言えなかった。むしろ、何も言わない代わりに、彼女の言葉に反応を示さなかった。


しずしずとフウミはその場を去っていく。タウマ姫を見ると、昨日と同じ衣装を着ている。肩口のひもを引っ張れば脱げる衣装だ。その肩口に彼女は手を伸ばしている。思わず、ちょっと待ってと声をかける。


「別に、脱ぐ必要はありませんよ」


「ん……フウミが……」


「姫は、そうしたいのかな?」


「……でも」


「どうしても脱ぎたいというのなら脱いでもかまわないけれど、イヤなことを我慢してまですることではない。俺は、嫌なことを我慢しているのを見るのが、好きではないです」


「……フウミが」


「フウミがそうしなさい、と言ったのかな?」


俺の問いかけに、彼女はゆっくりと頷く。


「脱いでどうしろと言われていますか?」


「殿下の、おこころのままに、と言うように、と……」


「それからどうしろと?」


「……」


「そこから先は、何も言われていないのかな?」


「あとは、殿下のなさることですから、殿下の言われるとおりにすればいいと言われています」


「そうか……」


……やっぱりそうか。この女性は男と女が何をするのかを知らないようだ。そんな子供をよくも閨に送り込み、お情けをなどと言ったものだ。きっとまだ、子供を産む準備すらも整っていないのではないか。だとしたら、閨だのお情けだのは無駄なことだ。ただ単に俺と姫が男と女の関係になれば国同士のつながりが強化されるというのか。バカバカしい。だとしたら、すでに姫がこの国に嫁いできたという事実だけで充分だろう。


「では、姫にやってもらいたいことがある」


俺の言葉に、タウマは体を震わせる。


「私と色々とおしゃべりをして、美味しいものを食べて、よく寝ましょう」


彼女はキョトンとした表情を浮かべながら、本当にそれでいいのですか、と小さな声で聞いてきた。俺は無言のまま頷く。彼女もまた、無言のまま頷いた。


「あっ、あの……」


「うん?」


タウマ姫はゴソゴソと服の中をまさぐると、中から一枚の紙を取り出してきた。受け取って見ると、そこにはまだ子供の絵だが、堂々とした皇帝が描かれていた。


「父上様です」


「おお、これがエルドライ帝国皇帝か。なかなか強そうだな」


「いいえ、お父様は、とてもお優しいです」


「そうか、そういえばそう言っていたな。姫は絵が上手いな。絵を描くのは、好きかな?」


タウマはコクリと頷いた。


「では、今度は私の姿を描いて、御父上に送るといい」


俺の言葉に彼女は何か考える様子を見せていたが、やがて、少し時間がかかるかもしれませんと小さな声で言った。


「そうだな。まだ、私たちが会って三日目だからな。さすがにすぐには難しいか」


俺は腕を組んで天を仰ぐ。


「そうだな、これからしばらくは三日に一度、姫と一緒に居ることにしよう。そのときに、私の絵を描いてくれ。完成まで時間はいくらかかってもいい。その間に私は、姫のお土産を用意して持ってこよう」


「わかりました」


タウマははっきりとした口調でそう言った。俺は本気で彼女にお土産を持って行こうと考えていた。それだけ、この女性の体調が心配だった。あそこまで痩せているのは尋常ではない。何とかして、何らかの形で食べないと、体力がつかない。そうなると、病気になる可能性が上がるのだ。


「では、夜も遅いので、今夜は寝ましょう」


そう言って俺たちはベッドに横になった。

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