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エルドライ帝国の狙い

「お父様とおんなじ」


タウマ姫はそういって俺の顔を見た。


「姫の父上と同じ? そうかな?」


「何とかするのだ、がお父様の口癖です」


「ああ、ではきっと、姫のお父上は、とてもやさしい方なのでしょうね」


俺の言葉に、彼女はゆっくりと頷く。後ろで結ばれた黒い髪が揺れている。父親を思い出したのだろうか。彼女は遠い目をしている。


「そんなにやさしいお父上なら、私も一度会ってみたいものだ」


「とってもやさしいお父様です……」


「そうか……。さすがにお父様のもとに行くことはできませんけれど、また、気が向いたら、絵に描いて見せてください」


俺の言葉に、タウマ姫はゆっくりと頷いた。彼女はじっと俺を見ていた。初めて彼女と目が合った気がした。


「さ、もう夜も遅いですから、寝ましょう」


姫は無言のままゆっくりと頷いた。


◆ ◆ ◆


その夜はいつもよりも少しは眠れた気がした。だが、眠りは浅かったのだろう。隣で寝ていたタウマ姫がベッドを抜け出した際に俺も目が覚めた。


彼女は昨日と同様に、ソファーの上に上がると窓に向かって両親に祈りを捧げながら、おはようございますと挨拶をした。そうして、そのままベッドに戻ってきた。俺は何か言葉をかけようと思ったが、何と言ってよいのかがわからずに結局、朝までそのままでいた。


昨日と同じ時間きっちりにフウミが迎えに来た。彼女は姫の衣服が乱れているのを見て、満面の笑みを浮かべて、よろしゅうございましたわね、と言って手を叩いた。その姿を見て俺は怒りを覚えていた。こんな年端も行かない子供にこんなマネをさせて、よろしいも何もないだろう、と。そんな俺の雰囲気を察したのか、フウミは俺に向かって気味の悪い笑みを投げかけると、恭しく一礼した。そうして彼女は無言のまま姫を伴って部屋から去っていった。


それと入れ替わるようにしてロースマイがやって来る。彼女もまた、淡々と朝食はお召し上がりになりますか、それとも、お部屋で召し上がられますかと聞いてきたが、何だか少し怒っているような気がする。どうした、と聞いてみると、


「エルドライの者たちは礼儀を弁えませんので、見ていて心苦しゅうございます」


と言ってため息をついた。どういうことかと聞いてみると、


「大体、殿下のご寝所に女官ごときが入ることなど許されぬことでございます。それをあの者は、姫様をお迎えに上がるのだと言って聞きませぬ。そうして最後には決まって、エルドライではそのようにしておりました、の一点張り。ここはブライアル王国でございます。我が国には我が国の作法というものがございます」


と静かに怒りを燃やしていた。何となく、このままではいけない気がしたので、朝食はここで食べることにして、ロースマイの話を聞くことにした。


コトは思っていた以上に深刻だった。タウマ姫が連れてきた五十人の女官は、後宮のすべてをエルドライ風に改める勢いであるらしい。後宮に着いたその瞬間から、着るもの、食事、調度品に至るまで細かい注文を出し、変更するように要求してきたというのだ。彼女としても後宮総取締役としてできること、できないことを説明したそうだが、彼女らは耳を貸さない。それどころか、もっと部屋の調度品を豪華にしろとさえ言ってきている。今は喪中であるために、華美なことは控えるように言い、何とか抑え込んではいるらしいが、俺が国王に即位し、姫が正妃になれば、フウミらの要求はとんでもないことになるのは容易に想像できる。ロースマイとしては、俺の方からも何とか対策を立ててほしいと思っているようだ。


加えて、あの姫のことだが、やはり十四歳というのはウソで、実際は十歳くらいなのだという。年齢を若く言うことはないことではないらしいが、四つも偽るというのはさすがに相手に対して礼を失することなのだそうだ。ついでに、あんな年齢の子供を閨に送り込むというのは王族ではよくあることなのかと聞いてみたが、あり得ないことだと一蹴されてしまった。男と女の行為を行うことすら難しいだろうし、もし、無理にそんなことをしたら相当のダメージを女性側が負うことになると言っていた。


「察しますに、殿下はこの二日間、タウマ姫様にお手を付けてはおいででないご様子……。安心しております」


そう言って彼女は頭を下げたが、俺は当たり前だと言って首を左右に振った。


やはり俺には、そこまでしようとするエルドライ帝国の意図がわからない。確か、シェイスも正妃と仲良くして子供を拵えてくれと言っていたが、あんな年端も行かない子供にそれを求めているのか、だったら、とんでもないなと怒りをあらわにすると、ロースマイ曰く、シェイスも宰相らも、まさかあんなに幼い姫がやって来るとは思ってもいなかったと教えてくれた。彼女自身も、十四歳と言いながら、その実は十五六歳の姫が来るものとばかり思っていたそうだが、まさかあんな少女だとは思わず、驚いたのだと言う。


俺は朝食を済ませると、なんとも言えぬ感情を抱きながら部屋へと帰った。

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