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少女との閨、二日目

その表情に俺はイラッとした。だが、何とか平静を装いながら口を開く。


「姫は少し疲れておった。従って、昨夜はそのまま眠ってもらったのだ。おそらくそう眠れてはおらぬだろうから、部屋に帰って少し休ませてやるとよい」


「まあ、これは殿下、ありがとうございます。やさしいお方で、姫様、よろしゅうございましたわね」


そう言って彼女は笑顔を見せる。のっぺりとした笑顔だ。化粧が濃いために、表情から読み取ることは難しく、腹の中では何を考えているのかわからない。何となく俺はこのフミイという女性が嫌いになった。


タウマ姫は促されるままベッドから降り、フミイに手を取られながら部屋を出ていこうとした。


「ああ、あまり濃い化粧はしない方がよいな。私は、化粧っ気の少ない女性が、好きだ」


俺はフミイに精いっぱいの皮肉を言ったつもりだったが、彼女はさも嬉しそうに、今度からそういたしますと言って、深々と頭を下げて部屋を出ていった。


それと入れ替わるようにロースマイがやってきた。彼女は朝食をお持ちしましょうと言ってきたが、それを断り、部屋に帰ると言って後宮を後にした。


「ただいま」


部屋の扉を開けると、フィリアがいた。ソファーに腰掛けながらこちらを見ていた。その姿を見て俺は思わず彼女を抱きしめた。


「殿下……」


「無理だ……無理だよぉ。俺には無理だぁ」


そういいながら俺はしばらくの間彼女を抱きしめていた。


◆ ◆ ◆


「そうですか。それは……お気の毒ですね」


昨夜の話を聞いたフィリアは、心底から心配しているという表情を浮かべた。もちろん俺にではない。タウマ姫にだ。最初こそ俺の話を半信半疑で聞いていたが、やがて彼女はそんな表情になった。まさか、年端もいかぬ少女に子供を作る行為をさせようとしたことに、怒りすら覚えているようだった。


ちなみに、シェイスには無理を言って、午前中の予定はすべてキャンセルとした。もちろん、彼にも同じことを報告したが、ヤツは、そうでしたか、と言っただけで眉一つ動かさなかった。少しは驚きなさいよ。


タウマ姫とは少なくとも三日間は同衾しなければならないそうで、これは俺にも姫にも拒否権はないらしい。この国のしきたりなのだとか。三日間チャレンジしてみてダメならまた他の方法を考えましょうということなのだろうが、何となく、無駄なしきたりだなと思う。


従って、今夜も俺はタウマ姫と寝なければならない。もちろん、手を出す気はないし、手は出せない。きっと、何もわからない状態で寝所に送り込まれているのだろうというフィリアの話から、この姫にはできるだけゆっくりしてもらおうと思ったが、いい考えは浮かばなかった。そんな俺に、フィリアは一緒に寝ている男性が安全かどうかがわからないので、姫は緊張しているのですと教えてくれた。まずは自分が安全であること、傷つける存在でないことを彼女に認識してもらう方が先だと言っていたが、そう言われても、俺はどうしてよいのかがわからなかった。


瞬く間に日が暮れ、後宮からロースマイが迎えにやって来た。別に迎えに来る必要はないと言ってやったが、これもしきたりでございますと一蹴されてしまった。迎えに来るのは明日まででございますと言って、早く来るように促してきた。


昨日と同様に風呂に入り、パジャマを着てベッドに入る。まるで俺がベッドに入るのを待っていたかのように扉がノックされ、フウミに連れられて、タウマ姫がやって来た。白だが昨日とは違う衣装だ。もう、背丈をごまかす必要はないと判断したのか、背は昨日見たときよりもグンと小さい。


ベッドの前まで来ると、フウミは恭しく一礼した。相変わらずのっぺりとした笑顔だ。化粧も濃い。今朝の話は無視されたようだ。彼女は踵を返すとそのまま静々と部屋を出て行った。と、タウマ姫を見ると、昨日施されていた化粧がなく、素顔になっている。なるほど、こっちの化粧を薄くしたのかい、と心の中でツッコミを入れる。改めて見ると、やはり幼い。子供だ……。


彼女はただ立ち尽くしている。俺の命令がなければ動かないつもりだろうか。そのままでは寒いだろうと、シーツをめくって中に入るように促す。だが、彼女は中には入ってこずに、立ち尽くしている。


どうしたと声をかけようとしたそのとき、タウマ姫が震えていることに気づいた。彼女はゆっくりと両手を肩にもって行き、そこから出ている紐を引っ張った。すると、パラパラと服がほどけた。上半身が露わになる。


……思わず息をのんだ。ガリガリに痩せている。あばら骨が浮き上がっている。この子はちゃんと食事を摂っているのだろうか。そんな心配が沸き上がるほどに細い体をしていた。下腹部は白いレースのようなものを巻いているだけで、下着らしきものは付けていないようだ。そんな状態で彼女は小刻みに震えている。俺は涙が出そうになった。


「寒く……ないかい?」


「ん……」


「イヤ寒いだろう。服を……着て中に入りな」


「……」


オロオロと周囲を見回している。服を脱いだはいいが、どうやって着たらいいのかがわからないらしい。俺はベッドから降りると、床に脱ぎ捨ててある衣装を拾い上げて、彼女に着せようとした。だが、元のように着せることができない。


「ああ、しょうがない。これで我慢してくれ」


結局俺は服を彼女の体に巻き付けていた。それでも胸も腹も肩も隠れている。ある程度の寒さは凌げるはずだ。そうしておいて、彼女をベッドに寝かせる。


「寝にくくないか? 寝にくかったら言ってくれ。何とかする。何とかならないかもしれないが、何となする。何とかなるように、何とかするから」


タウマ姫がゴロンと寝返りを打って俺に背中を向けた。肩が小刻みに震えている。もしかして泣いているのだろうかと思ったそのとき、姫の声が聞こえてきた。


「くくっ、くくくくく……」


タウマ姫は、必死で笑いをこらえていた……。

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