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少女との閨

……子どもじゃん。


そんな言葉が思わず口をついて出そうになる。十四歳と聞いていたが、確実にそれよりも下だ。厚めの化粧をしているが、どう見てもその顔立ちは十歳くらいの女の子だ。


衣装で体を大きく見せている。よくぞこんな衣装を作ったなと思うほどの出来栄えだ。


彼女は俯いたまま俺の顔を見ようとしない。この少女はこれから何が起こるのか、男と女が何をするのかを知っているのだろうか。いや、そうには見えない。よく見ると震えている。きっとこれは、これから何をされるのかがわからないので震えているのだ。


「なっ、何事も……」


突然彼女が口を開いた。小さな声で聞き取りにくいが何かを喋ろうとしている。耳に神経を集中させる。


「何事も、殿下の、お心の、ままに」


……きっとそう言えと言われてきたのだろう。こんな年端もいかない女の子が、親元から引き離されて全く知らない場所にやって来て、そんな言葉を言わされているのだ。俺は心底、このタウマという女性が気の毒に思えてきた。


「……姫」


俺の言葉に、少女はピクリと体を震わせる。


「すまないけれど、そこに立ってもらえるかな?」


言葉の意味がわからないらしい。一瞬、キョトンとした表情を浮かべるが、やがて、ゆっくりと立ち上がる。……やはり小さい。結婚式のときに見た背丈よりも一回り以上小さい感じがする。もしかして、靴に仕掛けをして、身長を高く見せていたのだろうか。そういえば、ここに歩いて来たときも小柄ではあるが、それなりの身長だった。まさか、ここでも細工された靴を履いていたのだろうか。


ベッドの下を見ると、靴らしきものはない。あ……これは俺のだ。


少女は立ったまま戸惑いの表情を浮かべている。俺はどうぞ坐ってくださいと言って、彼女を坐らせる。


「……結構歩きにくくなかったですか?」


「……いえ」


何とも薄い反応だ。まあ、今日始めて会ったので、こうなるのは仕方がないことかもしれない。


「姫が履いてきた靴が見当たりませんね」


「フウミが……」


「フウミ?」


どうやら、彼女の後ろから付いてきた侍女のことらしい。その侍女が靴を持って行ったということなのだろう。そこまでして、この少女の身長をごまかしたいのだろうか。何としてもこの少女に手を付けてもらいたいということなのだろうか。一体、エルドライ帝国の狙いは何なのだろうか。わけがわからなくなってくる。


そんなことを考えながら戸惑っていると、タウマ姫が何かを思い出したかのように体を震わせた。そして、着ている服を脱ぎだした。


……やはり、体を大きく見せるために相当分厚い服になっていた。中に空気でも詰めているのかと思うほどの厚さだった。中から現れたのは、薄い衣を身に纏った痩せた体躯だった。完全に、子供の体だ。


彼女はぎこちない動きで着ていた服をたたむと、それを枕元に置いた。そうして再び、


「何事も、殿下の、お心の、ままに」


と小さく呟いて俯いた。


とっさにどうしていいのかがわからなかった。何とも言えぬ沈黙が流れる。そのとき、彼女の体が少し震えた。


「あ、寒いかな。これは、すまないことをしました。とりあえず、寝ましょうか」


そう言って俺はシーツをめくる。彼女はゆっくりと中に入ってきた。目を固く閉じている。


「長旅をしてこられたので、さぞお疲れでしょう。どうぞこのままお眠りください」


そう言って俺はランプを消した。


寝てくださいとは言ったが、俺は全然眠れなかった。隣に寝ている姫は身じろぎもせずに体を横たえていた。きっと彼女も眠れないのだろう。ただ、そんな彼女に何か話しかけるのは、何となく違う気がして、俺はまんじりともせずに時間を過ごした。


どのくらいそうしていただろうか。気づけば俺は少し寝入ったらしい。隣に寝ていた姫が動いた瞬間に目を覚ました。彼女はゆっくりベッドから降りると、俺を起こさないようにしようとしているのか、静かに、注意深い足取りで歩いている。


てっきり手洗いにでも行くのかと思いきや、彼女はソファーの上に上り、窓に向かって祈るようなポーズをした。


「……おとうさま、おかあさま、おはよう、ございます」


彼女は小さな声でそう呟くと、しばらくの間祈るようのポーズのまま固まった。ややあって、ソファーから降りてきた彼女は再び注意深い足取りでベッドまで戻ってくると、ゆっくりと中に入ってきた。そして、体を横たえると、そのまま体を強張らせた。


……ああ、やっぱり、父と母が恋しいんだな。それはそうだ、無理もない。このくらいの年齢は誰でもそうだろう。俺だって子供の頃は両親に甘えていた。俺だったら、この年で他国に行けと言われたら、泣いて嫌がるだろうし、逃げることも考えるだろう。その寂しさを、悲しさを一人で背負っている彼女を、俺は少し尊敬した。


そんなことを考えていると、ようやく朝があけてきた。扉がノックされ、フウミと呼ばれている女性が入室してきた。それを見た姫は待ちかねたようにベッドから這い出して、まるで抱き着くかのようにその女性の許に駆け寄った。


「おや、まあ、姫様。これは……」


フウミは驚いた表情を見せていたが、やがて、さも残念、と言わんばかりの表情を俺に向けてきた……。

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