剣舞
領主・デルビッツ子爵から、他国から王族が訪れるので、そのもてなしに剣舞を披露してほしいと要請があった。親父はしばらく考えていたが、やがて、承知しましたと言って頭を下げた。
デルビッツ子爵は、飄々とした人物で、よくも悪くも何もしない領主であると言えた。別に我々に無理難題を言ってくることはない代わりに、特に特別な要請がない限りは何もしないという人だ。俺の記憶の中で唯一領主が動いたのは、五年前に領内が大洪水に見舞われたときだった。そのときは、子爵自ら道場にやって来て、弟子たちを復興作業に貸してくれと言ってきたくらいだ。
子爵の言う剣舞とは、ノジア流に伝わるもので、流派の型を流麗に踊って見せるというものだ。これは親父の専売特許のようなもので、現在の総帥、トラマはそれができない。父であるガンヤは、流派を継げなかった息子へのせめてもの詫びとして、このノジア流に伝わる剣舞をダンド流の許可なくして踊ることはできないものとした。
この踊り、二人で踊るのだが、これが実に難しい。振りはついているのだが、舞ってはいけない。という口伝がある。型を見せるもので、踊ってはいけないというのだ。
俺は十二歳のときに、子爵に請われて親父と二人でこれを踊った。そのときのことは、トラウマとして心に残っている。
親父は丁寧に教えてくれたが、何度やっても気に入らなかった。剣を持って踊るが、刃びいているとはいえ、鉄の剣だ。腕も足もパンパンに腫れ上がった。
「おい、腰だよ。腰だ」
親父はそう言って何度も拳で俺の腰を軽く叩いた。俺はわかっているつもりで踊りなおすが、それでも親父は気に入らない。とうとう、本番当日の朝を迎えてしまった。
子爵の屋敷に向かう直前、最後の稽古をしてもらった。俺はもう、死ぬ気で踊った。ここで死んでもいいというくらいの気持ちを込めて踊った。終わった後で、親父は静かに口を開いた。
「……いいでしょう。これでいきましょう」
やれ嬉しや、お許しが出たと、全身から力が抜けたことを覚えている。だが親父はそのあとで衝撃的な言葉を吐いた。
「きっと、ご領主さまも褒めてくださいます。お客様も褒めてくださることでしょう。……気に入らないのは、私だけです」
俺は号泣して親父に取り縋った。もう一度稽古してくださいと言って泣いた。他の誰に怒られても貶されてもいい。お父さんだけには褒められたいですと言って、声を上げて泣いた。
結局、稽古する時間などあるわけもなく、俺は親父と共に子爵の屋敷に行き、剣舞を披露した。子爵も、他国の王族も素晴らしいと言って手を叩いた。子爵からはよくやってくれたと言って、大層なご褒美までもいただいたのだった。だが俺はちっとも嬉しくはなかった。
親父は俺の剣舞に応とも否とも言わず、ただ、子爵の言葉に頭を下げているだけだった……。




