妹・メイル
「お昼ができたよー」
そう言って現れたのは妹のメイルだ。彼女は毎日我が家の食事を作ってくれている。
ちなみに、料理は俺も好きだ。魚を釣ってきて焼いたり、山菜を採ってきて料理を作ったりする。自慢ではないが、腕はそれなりにいい方だと思う。最近では朝食は俺が作っているのだ。
母は長い間剣士をしていたためか、料理は苦手だ。苦手、というより、できない。子供の頃は、村のおばさんたちが入れ替わり立ち替わりして朝夕の食事を作ってくれていた。その中でオタケさんという老女が、俺たちを見かねて料理を教えてくれた。これからは男性も料理ができた方がいいと言って面倒を見てくれたのだ。
オタケさんの作る料理は美味かった。今では妹・メイルがその味を見事に受け継いでくれている。ありがたい限りだ。
ただ、メイルの本質は、料理ではなく剣にあると俺は思っている。
物心ついた頃から木刀を振り回していた俺だが、親父について剣の修行を始めたとき、妹も一緒にはじめたのだ。つまり彼女は二つ上の俺と同じ修行をしてきたし、それを難なくこなしてきた。親父が、
「こうするのですよ」
と見せてくれたお手本を、彼女は完璧に真似て見せる。どうかすると、自分の都合のいいように型を変えようとする俺とは雲泥の差で、剣の才能自体は、妹の方があるように思える。
だが、彼女は十五歳の誕生日になると、サッサと結婚して家を出て行ってしまった。相手は道場に習いに来ていたクレストという男で、一つ年上の男だった。剣の腕は悪くないが、どちらかと言えば無口で、目立たない男だった。そんな彼に妹はほぼ、無理矢理に近い形で結婚して、村のすぐ近くにあるヤマドの町に移ってしまった。彼女曰く、自分の言うことをハイ、ハイと聞いてくれるのがいいのだそうだ。それ以来彼女は毎日坂道を登って道場まで通い、昼と夜の食事を作ってくれる。夫であるクレストも一緒に通ってきて、道場で稽古をしている。さすがに弟子の身分で師匠と若旦那と一緒に食事とをるのは恐れ多いと言って、彼は別室で食事を摂っている。割合教養のある男で、昼からは手習いを教えるなどしていて、それなりに収入を稼いでいる。
メイルは自分には剣の才能はないと言って、結婚以来、稽古をするのを止めてしまった。ちゃっかりして目端の利く性格なので、奥様にはもってこいの女性なのだろうが、俺としては、このまま剣の修行を続けて、俺を超える剣士になって欲しいと思うのだが、今のところ、その可能性は低そうだ……。




