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策略的なお見合い

翌日、俺たちは王宮に帰還した。フィリアの言う通り、親父とお袋を伴って、だ。


馬車の中で、二人から俺を連れて村に逃亡したときのことを聞いた。二人は、乳飲み子である俺を抱えて一気にユアザライ村まで駆けていた。馬に乗っていたとはいえ、ほとんど不休不眠で駆けたそうで、よく俺は死ななかったと思うし、それだけ状況が逼迫していたことは、想像に難くない。


どうしてユアザライ村だったのかという問いに、親父が答えたのは、魔法が効きにくいからというもので、やはり地形を完全に把握したうえで、敵を迎撃しやすい場所を選んでいた。さすがは親父だ。


二人は、王宮から俺を連れ出してからもう、二十年近くにもなるために、俺が王太子に指名されることは全く予想していなかったらしい。さらに村人と共に村を追い出されることになり、さすがの両親も何が何だかわからずにパニックになったらしい。


二人は死を覚悟していた。それでも、俺と共に王宮に行ってくれるのは、どうせ死ぬなら息子を守って死にたいと思ったからだ、と俺は勝手に思うことにしている。そんなことを考えたら、涙が出そうになる。


王宮に到着すると、シェイスが迎えに出てきた。さぞや驚くだろうと思っていたが、意外にも彼は一切表情を変えなかった。そうして、お二人のお部屋も用意せねばなりませんねと言って、そのままどこかに去っていった。後で聞いたら、頭を抱えながら歩いていたらしい。


結局、親父の部屋はフィリアの部屋を使うことになった。で、フィリア自身はどうするかと言えば、俺の部屋で一緒に暮らすのだ。それは彼女自身が希望したことであり、それは俺も賛成だった。シェイスは難色を示したが、基本的に俺の部屋は広く、空き部屋になっているところもあるために、そこに入ればいいだろうということで、要求を通した形になった。


両親、妹夫婦が、それこそ部屋から出て数歩のところにいるし、部屋に帰ればフィリアがいる。俺は精神的にずいぶん楽になったし、剣聖・ジサが部屋を警備しているために、防御力は格段に上がっているはずだ。これで少しは王宮の暮らしも居心地のいいものになるかと思いきや、また新たな火種が持ち込まれた。お見合いだ。


宰相ガルデが俺の執務室に現れ、机の上に五枚の絵を並べていった。絵は大小さまざまで、要はこの中から正妃を選べということらしい。


絵は千差万別だった。精巧に描かれているものもあれば、なにやら、もやがかかったようなものまである。年齢もまちまちで、俺より年上の人もあれば、かなり年下と思われる人もいた。


「まずは、殿下のお好みでお決めいただければと存じます。なるべく、殿下の即位式の前にはお妃さまを決めたいと存じますので、早めにお決めいただきますよう。まずは、ご希望を承ります」


宰相のガルデがそんなことを言って急かしてくる。彼はそれぞれの姫の出自を語り、結婚すれば我が国にどれだけの利益があるのかを滔々と語った。正直言って、俺には興味がなかった。クレデリア王国の姫などは、実に精巧にその姿が描かれているが、何か高慢そうだ。デリフレス王国の姫に至っては、横顔が描かれている。これを見て、何をどう判断しろというのか。あ、胸が大きいのを強調しているのか。あいにく俺はそこにはあまり興味がない。


そんなことを考えながら絵を眺めていると、ガルデが一つの絵を指さしているのに気付いた。確かこれは……エルドライ帝国の姫だ。もやがかかったような描かれ方をしているので、顔を認識することはできない。何なんだ、これは。


ガルデを見る。彼は、どなたでもお好きな方をお選びくださいと言っているが、指先は、相変わらずエルドライ帝国の姫を指している。しかも、コンコンと指でそれを突いている。これに、決めてしまえってか?


……自分でも顔がゆがんでいるのがわかる。いや、それだったら、このお方にしてくださいと言えばいいのに、どうしてこんなに回りくどいことをするのか。理解に苦しむ。そんな俺の様子を察してか、ガルデが口を開く。


「エルドライ帝国皇帝のご息女、タウマさまは、当年十四歳におなり遊ばします。大変な美貌の持ち主で、傾国の美女と呼ばれていると承っております。エルドライ皇帝は、タウマさまを溺愛なされているそうですが、ブライアル王国の新国王の正妃になるのであれば、最愛の娘を嫁に出してもよいと仰せとのことでございます」


「いや……でも、まだ、十四歳であろう? 嫁入りには早すぎないか」


「そんなことはございません。むしろ、最もよろしいご年齢であろうと愚考します」


「ただ、なぁ……。この絵からは姫の様子がよくわからぬ。しばらく考える猶予をくれ」


「確かにそのとおりでございますね。承知しました。ただ殿下、こちらのお方のお名前だけは、忘れぬようにいただきたくお願い申し上げます」


「ああ。ええと……」


「エルドライ帝国の、タウマさまでございます」


「エルドライ帝国の、タウマ姫、ね」


そのとき、ガルデが周囲の者に向かって頷いた。数人の男が部屋に入ってきた。そこにはシェイスの姿もあった。俺の前には五人の男たちが並んだ。


「殿下、恐れ入りますが、こちらのお方の名を、今一度お願い申します」


「……エルドライ帝国の、タウマ姫」


「承知しました!」


ガルデが大声で叫ぶ。思わず体が震える。彼は周囲の者たちに目配せをしながら言葉を続ける。


「皆も聞かれました通り、殿下はエルドライ帝国のタウマ姫、と仰いました。このうえは一刻の猶予もなりません。すぐに、エルドライ帝国に早馬を!」


彼はそう言うと俺に向き直り、深々と頭を下げた。


「この度のご成婚、誠におめでとうございますっ!」


ガルデに続いて、他の四人も、おめでとうございますと言って一斉に頭を下げた。


……これは、一体、なんだ??

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