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内祝い

両親にフィリアを紹介する。二人とも俺と彼女との件はメイルからの手紙で知っていたらしく、ただただ恐縮しながらぎこちない挨拶を交わした。お袋などは、俺にはもったいないと言って、仲良くしてやってくださいなどとお願いする始末で、少し恥ずかしかった。


フィリアはニコニコと笑いながら、大丈夫です、これからもよろしくお願いしますと言って頭を下げていた。普通だったらあり得ないことだ。貴族の娘が下々の者に頭を下げることはない。だが、彼女は両親を俺の育ての親として認め、頭を下げてくれたのだ。胸がジンと熱くなった。


ただ、明日中には王宮に帰らねばならないため、残された時間は少ない。これからデルビッツ子爵に挨拶に行くと伝えると、親父が私も行こうと言い出した。


「息子が嫁を貰うのだ。しかも、貴族様の娘さんだ。親たる私たちが行って、礼を言わねばなりません」


こんな状況下でずいぶん固いことを言うのだなと呆れたが、これが親父だ。何とも嬉しくなった。


モノは試しに、と両親を連れて馬車に向かう。兵士たちに咎められないかとヒヤヒヤしたが、意外にもそれはなく、易々と砦の外に出られた。両親と俺たち夫婦が一緒に馬車に乗り、子爵の屋敷を目指す。


到着は意外に早かった。三十分程度だっただろうか。俺たちの馬車を待ちかねたように門が開き、屋敷に入る。玄関では子爵が待っていて、フィリアを見るなり抱きしめて、オイオイと泣き出した。


「よう、無事で帰ってきた。よく無事で帰ってきてくれた」


子爵は何度もそう言って泣いた。


ようやく落ち着きを取り戻すと、彼は俺たちを応接室に通した。古いが、よく手入れをされていて、なかなか趣があった。そこで俺たち家族と、子爵、フィリアの五人がテーブルをはさんで対面した。


「この度、倅シェンに、フィリア様が縁をいただきまして、親として、これほどの嬉しいことはございません」


親父がそう言って頭を下げた。あくまで、俺の父親として振舞ってくれたことが、素直にうれしい。


「いや、私もこの度のことは、喜んでおるのです」


子爵はそう言って笑顔を見せた。


「娘は、フィリアは、シェン……殿下のことが子供のころから好きでおりました。私も、できることならばあなた様のようなお方に娶せたいと思っておりました。今回のお話は、まさしく我々が望んでおりましたこと。その、好いたお方の許に嫁ぐというのは、娘にとってこれほどの幸せはありますまい。いや、親として、本当に喜んでおります」


子爵はそう言うと俺に向き直った。


「フィリアは素直な娘です。いわば白絹のような娘です。どんな色にも染まると存じますので、どうぞ、あなた様の色に染めてください」


そう言って彼は一礼した。恐縮した俺は、


「いや、そんな、やめてください。俺の方こそ、礼を言わねばなりません。本当に、彼女のことは幸せにしますので、どうぞご安心ください」


と言って、頭を下げた。


「フィリアが手紙で我が家に帰ると連絡してきましてから、もう、この娘が戻って来るのを首を長くして待っておりましたのじゃ。元気そうで安心しました。せっかくです。二人が結ばれたのを祝いたいと思うのですが、いかがですかな」


子爵が目を輝かせながらそんなことを言ってきた。俺は大いに恐縮して、お構いなくと言ったのだが、彼は止まらなかった。メイドらにすぐに準備をしろと命じ、外で控えていたメイルとクレスト夫婦にも宴に参加するように言ってその場を後にしていった。親父もお袋も呆気に取られていた。一方のフィリアはクスクスと笑いながら、


「あんなに嬉しそうなお父様を見たのは、久しぶりですわ」


と言って笑っていた。


きっと、俺たちがこの屋敷に来るとわかってすぐに準備を始めたのだろうと思われるほどに豪華な食事がテーブルの上を埋め尽くしていた。親父もお袋も、こんなに食べられないと呆れるほどにいろいろな料理が並んでいた。そんな中、メイルは一人、モリモリと料理を食べていた。


宴は長く続いた。町に帰らねばという俺に子爵は屋敷に泊って行けと言ってきかなかった。しかたがないので、そのまま世話になることにし、俺はフィリアの部屋に通された。


彼女は初めて見るような寛いだ表情を浮かべていた。ああ、やっぱり慣れない王宮に来て、彼女なりに緊張した日々を送っていたのだろうと思うと少し申し訳なくなった。


風呂に入り、寝ることにする。せっかく自分の部屋で寝るのだから、ひとりで寝るといい、俺はソファーで眠ると言ったが彼女は承知せず、いつもと同じように二人一緒にベッドに入った。


「……父上様と母上様には、このまま王宮にいらしていただいてはいかがでしょう」


「え? 親父とおふくろを、か」


ベッドに入るなり、フィリアがそんなことを言い出した。二人を王宮に連れていくことは簡単だが、それをすると、同じように軟禁されている村人たちに迷惑がかからないか。そんな懸念が頭をもたげてくる。ただ、それはシェイスに命じれば、彼ならばなんとかするだろうという思いもある。とりあえず、明日また親父とおふくろに聞いてみるかと言って隣を見ると、フィリアはすでに静かに寝息を立てていた。その寝顔は、いつも以上に神々しく見えた……。

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