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シェイス、王太子の影武者を勤める

シェイス、という男は、頭の切れる男だ。下手に小細工をすると見抜かれる可能性が高い。こういう男は、正面からぶつかっていくことが最善の結果を生むことになる。なぜ、そんなことが言えるのか。この男のタイプは、親父と一緒だからだ。


忠誠心が高くて真面目。こういう男は敵に回すと面倒くさいが、味方にすると百人力になる。しかも剣の腕もたつので、側近としては最高に優秀な部類に入る。


俺は、この男は断らないという自信があった。心のうちは手に取るようにわかる。どうしてそんなこと今言い出すのか、いや、そんなことはできるわけがない。そう思う一方で、できませんという返答をしたくないという意識もある。それを言えば負けだという変なプライドを持っているからだ。特にヤエノス侍従長は彼の上司ではあるけれど、その彼に負けたくないと思っている節がある。それはヤエノスも同様で、こんな若造などに負けるものかと思っている。そうなると、負けたくない彼は、それを実現する可能性を探り始める。彼の頭脳は明晰だ。可能性のある方策を導き出すことだろう。


あれ? じっと遠くを見据えて固まったまま、返答しないな……。


「何が問題なのかな」


俺が尋ねると、彼は、


「いえ……」


とお茶を濁した。考えていることはわかる。どうやってこの王宮に入り込んでいる間者たちを欺こうかと考えているのだろう。


「そういえばシェイス。俺がこの王宮にやってきたときに身に着けていた服は、どこにしまってある。まさか燃やしたり、捨てたりしたんじゃないだろうな」


「いえ。殿下のお持物ですので、保存してございます」


「それを出してくれ」


「……何をなさるおつもりですか?」


「ジサの息子となって、親父に会いに行く」


「それは……」


「貴様の考えていることはよくわかる。他国の間者の目が気になるのだろう。俺がジサに会いに行ったとなると、王太子が不在になる。その隙を狙って他国が兵を動かしたり、下手をすると、俺自身が襲われる可能性すらある。そうならないために、どう欺こうかと考えている。違うか?」


「……そうは考えておりません」


「……いや、無理はするな。そう考えていると顔に書いてある。だから、さ。王宮内ではこの格好でいても違和感はないだろうけれど、外に出ると違和感がある。だから、外に出たら、以前俺が着ていた服を身に着ければいい。そうしておいて、親父に会い、デルビッツ子爵に会って帰ってくればいい。シェイス、貴様はリアネスを警備している兵士たちに、俺を通してくれるように手配してくれればいい。簡単だろう?」


「それはできぬことではありませんが、殿下の警備が……」


「必要ないだろう」


「それはなりません」


「どうして?」


「ならぬものはなりません。もしものことがございますから」


「そうだな……。表向きは、フィリアの里帰りということにしようか。そこに、俺、メイル、クレストの三人が従う。それでどうだ。違和感ないだろう?」


「……」


「馬車は二台で行くか。馬車の中で着替えるとしよう。それでどうだ?」


「それは……」


「妹メイルは、ダンド流を極めし者。クレストはその夫とにして、若年より我が一門に連なる者。弱かろうはずはない。警備としては、相当の手練れである」


「……」


「出発は明日としたい」


「承知……しました」


彼は不承不承ながら頭を下げた。


翌日からの二日間、俺の予定はすべてキャンセルして親父のいるリアネスに向かうこととした。ちなみに、二日間は講義が大半を占めていたのだが、講師たちは全員出勤してきて、いつもと同じように講義を行うのだという。誰もいない空間に向かって喋るのか、それはそれで、なかなかアレな場面だなと思っていると、何と俺の影武者にシェイスが立つのだという。ほう、そりゃ見ものだと、俺は楽しみにしながら寝た。


翌日、目の前に現れたシェイスを見て、驚愕した。俺とは似ても似つかぬ男が目の前に立っていたからだ。本当に、何の冗談かと思ったほどだ。だが、当のシェイスは俺にかなり似せたと言って胸を張っている。あれ? 俺は本当にこんないかがわしい男なのかと少しショックを受けた。恐る恐る隣のフィリアを見ると、明らかに怒っている。怖い。この女性は怒ると怖いのだ。


しかし、そんな光景を目の前にしても、シェイスは淡々としている。思わず俺はフィリアに、これって俺に似てないよな、と聞いてみたところ、大きく頷いていた。よかった。


遅れてやって来たメイルとクレスト夫婦も、シェイスの佇まいを見てドン引きしていた。ただ、メイルが小さな声で、いいセンスをしていると言ったのを俺は聞き逃さなかった。あとで聞いたら、見てくれは似ていないが、ちょっとしたしぐさが似ていたとのことで、あれはあれで見る人が見ればわかる仕上がりだったのだなと思うと、何とも言えない気持ちになった。


そんな中、あとのことはシェイスに任せて、俺たちは馬車に乗り込んだ。

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