ユアザライ一世
俺の故郷、ユアザライ村は、ハリオルフ石の産地だった。ハリオルフ石とは、魔法を無力化する効果をもった石のことだ。
なるほど、と俺は合点がいった。どうしてうちの村には魔法使いがいないのだろうかと思っていたが、それが原因だった。村では魔法が使えなくなるのだ。てっきり、田舎の村なので、そんなところにわざわざ魔法使いが来るわけはないのだと、思い込んでいた。
それに、魔法使いに治癒してもらうのはかなり高額の報酬を払わねばならず、親父などはよほどのケガならば話は別だが、大抵は薬草で治癒していたので、魔法使いの必要性もなかったことも影響している。親父は薬草の知識も実に豊富なのだ。
ちなみに、この王宮もハリオルフの石でできているのだと言う。そのために、魔法の攻撃は王宮では使えず、おのずと物質的攻撃のみとなる。王を守るという点では、よくできた城だ。ただ、それだけに膨大な費用と人員が費やされたのは容易に想像できる。俺たちはとんでもない城に住んでいることになる。
「トルデリアは、ユアザライ村の裏山で採れるハリオルフの石を狙っているのでございます」
シェイスは静かにそういった。ただ、わからないことがある。村でそんな採石をしている場面は見たことがなかった。そのことを彼に問うと、
「そこに、剣聖・ジサがいたからでございます」
という答えが返ってきた。親父もおふくろも、村に近づく不審者は容赦なく斬るという姿勢を貫いていたらしい。もっともそれは、俺が乳飲み子だったときで、親父は襲ってきた暗殺者に、そんな手紙を持たせて帰らせたらしい。以後、王室は俺を追うのをあきらめて、村に手出しすることはなくなったというのだから、偉いものだ。あの温厚な親父がそこまでするとは全く想像できないし、そこまでして俺を守ってくれたのかと思うと、胸が熱くなる。
一方で、この国では他にもハリオルフの石が産出する場所があったために、敢えて危険を冒してまで村にこだわる必要もなかったらしいのだが。
ただ、このハリオルフの石は我が国の特産品で、他ではほぼ、獲れない石らしい。そういえば、そんな石があったな、くらいの知識しかなかった俺だが、話を聞いているうちに、とんでもない国の王太子になってしまったと、今更ながら驚いてしまう。
トリデリア王国も、剣聖・ジサの名前くらいは知っているのだろうが、それほどヤバい剣士であるという認識はなかったのだろう。とはいえ、いかに親父と言えど、人海戦術で数を頼んで押し包まれてしまえば対処できない。ただ先王らは、それらも考慮したうえで、村人全員を避難させたというのだ。
……言っていることはわかる。ただ、やはり、その村に住んでいた俺としては、村を丸ごと無にすることはないだろうという思いがある。シェイスは、村人たちには避難生活で不便な生活を強いているが、近々、彼らに住む場所を用意すると言っている。だが、やはり、あそこが俺たちの住む場所だ。屁理屈を言えば、トリデリアは侵攻していない。その可能性はあったのかもしれないが、確実に侵攻がわかった地点で動いてもよかったはずだ。
ただ、現実として、村はなくなっている。村そのものがなくなっている。地図でも村は消されているのではないだろうか。それは、俺はどうしても納得がいかない。
メイルとフィリアに視線を向ける。二人とも少し青ざめた顔をしている。きっと、俺と同じことを考えているに違いない。言いたいことはあるだろうが、現実として村が消えてしまった以上、何を言ってもどうなるものでもないとわかっているのだろう。俺は静かに口を開いた。
「わかった」
全員の視線が俺に集まる。俺はさらに言葉を続ける。
「言いたいことはたくさんあるが、村が消えてしまった以上、どうなるものでもない。ただ俺は、いつか、いつの日か、村を復活させたいと思う」
メイルの顔がぱああっと明るくなった。フィリアもゆっくりと頷いている。
「それは、いつのことになりますか……」
シェイスが口を開く。彼はあくまで現実主義者なのだろう。
「そうだな。トリデリアの侵攻の可能性が消えていない今、村を復興させることは難しいだろう。だが、何年かかろうとも、俺は村を復興させたい。それは、今後の俺の目標とする」
俺の言葉に、シェイスはゆっくりと頷いた。
「そういえば、俺の王としての名前を決めなければいけなかったな。それをいま、決めよう。俺の王としての名前は、ユアザライ、としたい」
「な……なんですと?」
「俺はユアザライ一世を王として名乗る」
「おっ、お待ちください」
「なにか、不都合な点でもあるのか」
「しかし、それでは……」
「その名前を付けては悪いか」
「村の名前を冠した王は、前例がございません」
「ユアザライ村はもとからなかったんだろう? そう言っていたじゃないか」
「……ツ」
「ならば、問題ないな。シェイス、クレスト、そして、ヤエノス。貴様らには、今すぐではないが、ゆくゆくは村の復活を手伝ってもらうから、そのつもりでいてくれ」
指名された三人は、戸惑いながら頭を下げた。その隣で、妹・メイルは小さく手をたたいていた……。




