村が消えた理由
部屋に戻ってくると、皆が勢ぞろいしていた。シェイスとクレスト兄弟もちょうど今来たばかりのようだった。
フィリアとメイルは、一体何が始まるのか、不安そうな表情を浮かべているが、つい今しがた、ヤエノスがある程度の説明をしたと言っている。そんな彼女らに俺は、
「すまない、待たせてしまった。これから、ユアザライ村が消えた理由を聞かせてもらおうと思ってね」
と言って、シェイス兄弟に視線を向けた。相変わらずシェイスの表情に変化はない。彼はおもむろに口を開く。
「ユアザライ村が、隣国・トルデリア王国と国境を接していることはご存じかと思います」
トルデリア王国とは、エルドライ帝国と比肩するほどの領土を持った強国だ。先代王の息女が、亡き国王の許に輿入れしたが、初夜を失敗してそのまま国に帰ってしまったという気の毒な歴史のある国だ。
ちなみに、大上王と先代トルデリア王、そして、先代のエルドライ皇帝――現在は息子に代を譲って大帝と呼ばれている――は、若いころに何度も矛を交えた関係であり、三人とも群雄割拠する中で、小国から身を起こし、周囲を統一して現在の領土を築いた。今のところ、エルドライ帝国が世界最大の版図を抱えており、トルデリアはそれに次ぐ勢力を誇っている。我がブライアル王国はそれに次ぐ、世界第三位の版図を誇っている。
昔はそれぞれ戦いあった三国だが、さすがに三つ巴の戦いは互いに消耗が激しかったようで、今では互いの領土を虎視眈々と狙いながら、表向きはそれぞれの家同士で婚を通じて誼を深めているのだと教えてもらった。
俺のいたユアザライ村はトルデリアと国境を接しているが、とはいえ、険峻な山を越えねばならないので、あまり俺たちは隣国に関して意識はしてはいなかった。
「そのトルデリア王国がユアザライ村を襲う可能性が高まったのでございます。そのため、村人全員を避難させたのでございます」
シェイスは静かにそう言った。
「どうしてユアザライ村を襲う必要がある? トルデリアが攻め込もうとすると、険峻な山を越えねばならない。相当の労力を必要とするはずだが、そこまでする意味があるのか?」
俺の言葉に、シェイスはゆっくりと首を振る。
「トルデリアの立場で申し上げますと、千載一遇の好機であると言えるかと存じます」
「そうなのか」
「恐れながら、殿下は王太子殿下にして、ブライアル王国の次期国王にあらせられます。その次期国王様が幼少時代を過ごされた場所を、里を陥落させれば、自ずと殿下の御心を乱すことになりましょう」
「ううーん」
俺は思わず唸ってしまった。そんなことまで考えるのかという呆れと、確かにそんなことをされた日には、俺は平静でいられなくなる。俺が狼狽えている隙に、ユアザライ村一帯を支配下におさめるというのは、理に適った戦法だなと感心もしていた。
「しかし、だ。別に村人全員を追い出す必要はなかったんじゃないのか。それに、村全体を消す必要もなかったんじゃないか」
「そう思われるのも道理です。ただ、すでにトルデリアでは軍が編成されたとの情報を得ておりました。むろん、我が方も軍勢を差し向けましたが、ユアザライ村が戦場になる可能性が極めて高くございました。そのため、村人を避難させたのでございます」
「村の家々を完全に消し去ったのは?」
「そこに砦を作る計画だったからです」
「砦……」
「実を申せば、あの村に大上王陛下のご落胤がいることは把握はしておりましたが、まさか亡き国王陛下がそのお方を王太子にご指名遊ばすとは、我々も予想しておりませんでした。しかも、それを決定した数日後には、トルデリアでは侵攻部隊の編成を終えて、いつでも出陣できる態勢を整えておりました。この王宮内には、相当数のトルデリアの間者が入り込んでいると思われます」
「まあ、トルデリアにも、我が国の間者が入り込んでいるのだろう?」
「否定はいたしません」
「で、その砦はどのくらい出来上がっているんだ?」
「今のところはそのままでございます。トルデリアは軍勢を引き上げており、今のところ我が国に侵攻して来る様子も見受けられません。ここで我らが砦を築きますと、徒にトルデリアを刺激することになります」
「侵攻しようとしてきたのは向こうだろう? その防衛として、砦を築くのがなぜ悪い」
「あくまで侵攻は内密に行われる予定でした。それが行われていない今、さらに、大上王陛下と国王陛下がお隠れ遊ばし、現在は喪に服している期間に砦などを築けば、相手側に侵攻の口実を与えることになります」
「……なるほど、な。そういう意味では、敵は上手く戦略を立てたわけだ」
「左様ございます」
「この先、ユアザライ村はどうなるのだ?」
「大変申し上げにくいことでございますが、もう、村として蘇ることはないと存じます。王国は、宰相様はこれを機会に、あの村に王国軍を駐屯させるおつもりです」
「なぜ、そこまでする?」
「それは……」
シェイスの言葉に、俺は驚愕した……。




