メイル、無双する
ひとしきり泣くと、何だかスッキリした気分になった。ふとシェイスの顔を見ると、雰囲気で、何としているのだと腹の中で言っているように察した。俺はそんな彼に口を開く。
「シェイス、この二人に部屋は用意しているのかな」
「もちろんでございます。殿下の隣の部屋を用意しました」
「うん。それでいい。浴室や手洗いはついているのかな」
「もちろんでございます。洗濯……いや、お妃さまたちにつきましては、殿下がお召しになろうとも、お部屋に赴かれようとも、自由でございます」
「私の身分は、お妃ではなくて、王太子殿下の侍女扱いで結構です」
突然口を開いたのは、妹のメイルだ。
「いえ、殿下の侍女はすでに決められた者たちがお世話をしております。これ以上の増員は無用と存じます」
「では、フィリア様の侍女で結構です」
「いっ、いえ、それでは……」
珍しくシェイスが狼狽えている。何が問題なのだとは思うが、メイルはさらに言葉を続ける。
「部屋は……ウチの旦那の、クレストの部屋はどちらに? ……それはどのくらいの距離が? ……ここから十分もかかる? 遠いな。では、クレストの部屋を私と同じ部屋にしてもらえませんか。だって夫婦なんですもの」
「いえ……お妃さまとクレストとは身分が違いますので、同じ部屋というのは……」
「フィリア様の侍女なのですから、クレストと同じ部屋でも問題ないでしょ?」
「まあ、それは、そうですが……。ただ、そうなりますと、フィリアさまと同じ部屋というわけにはまいりません。それでもよろしいのでしたら……。ただ、侍女は侍女用の部屋がありますので、規則に照らし合わせますと、そこに住んでいただくことになりますが、それでもよろしゅうございますか」
「ああ、そうなのですね。ところで、フィリア様の侍女はもう、決まっていますか?」
「それは、まだでございます」
「じゃあ、私で決まりでいいでしょ。フィリア様は、いかがですか? 私じゃない方がいいですか?」
「いいえ。私は、メイルさんに側にいてもらいたいです」
「じゃあ、決まりじゃーん」
「いえ、そうなりますと……」
「表向きは、お妃ということにしておいて、そこに私とクレストが住むということでいいじゃないですか。それは、お義兄さまのお力でしたら、何とでもなるのではないですか? 最悪の場合、王太子殿下にお頼み申し上げますけれど。それに、こう見えても私は、兄と同じダンド流を習っていました。兄ほどではないですけれど、クレストよりは上手に剣を扱えます。そうした者が一人よりも二人いた方が、警備上もよろしいと思いますけれど、どう思われますか?」
メイルはそう言ってウインクをした。シェイスはやれやれという表情を浮かべながら首を左右に振った。ただそれは、拒否の態度ではないことは明らかで、何とかしようという様子だった。やっぱりメイルは頼もしいな。ただ、俺たちは血が繋がっていないんだな……。そんなことを心の中で呟いたそのとき、メイルは俺に向き直って口を開いた。
「お兄ちゃん。もしかしたら、私と血が繋がっていないことを気にしてない? あのね、もう、十五年以上兄妹をしてきたのよ、私たち。血が繋がっていないからと言って、メイル、王太子殿下、みたいな関係性にしたい? 面倒くさいよ。私たちは兄妹。それでいいじゃない」
「……そうだな。俺もお前に王太子殿下、何て呼ばれるのは、何か恥ずかしいよ。今まで通りでいいな。その方が、俺も気が楽だ」
そう言って俺たちは笑いあった。その様子を見たシェイスは、オホンと咳払いをした。どうやら、次の予定の時間らしい。俺はすぐに戻ると言って部屋を後にした。
「どういうつもりだ、シェイス」
廊下を歩きながら俺は前を歩くシェイスに問いかける。彼はちらりと俺を見て、
「これは、弟・クレストの案でございます。殿下のお気持ちが晴れると申しましたので……」
「そうか。クレストには感謝しなければならないな。後で、部屋に来るように言ってくれ。ところで、そろそろ教えてもらえないかな」
「教える……何をお教えすればよろしいのでしょう」
「ユアザライ村が消えた理由を、だ」
「……」
シェイスはぴたりと足を止め、フッと息を吐きだした。彼は俺に向き直ると、小さく頷いた。
「そうですね。そろそろお伝えしてもよろしいでしょう。殿下、お部屋でお待ち申し上げます。お戻りになりましたら、お伝えいたします」
「次は何だっけ? ……ああ、この国の歴史だったな。それは外すことはできないのかな? ……だったらいい。黙って言うことを聞きましょう。その代わり、そこにはフィリアとメイル、そして、クレストも同席させてもらいたい」
「クレストを、でございますか? 理由をうかがっても?」
「それは、村が消えた理由によるかな」
「左様ですか。承知しました」
俺は、頼んだぞと言いおいて、廊下を歩きだした……。




