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……チキショウ。バカヤロウ。何なんだ。


そんなことを呟きながら、俺はバスルームの扉を閉めた。カギはかけられないのかと探したが、それはなかった。仕方がないとばかりに、水が湛えられている槽に向かう。


すぐ傍には大きな盥と小さな盥、そして、椅子が置かれてあった。さらにその隣には、ナイフや白い石のようなものが並べられている。手に取ると石だと思っていたのだが、それほどの堅さはない。しかもそこからはとてもいい香りがした。これは……。そうだ、子供の頃に子爵の屋敷で踊ったときに来客として来ていた貴族が纏っていた香りだ。男のくせにいい香りがするなと思ったのを、鮮やかに思い出した。どうやらこれで香りをつけるらしい。


近くに窓があり、そこから光が入ってきている。明り取り用の窓だろう。そこに大きなタオルを置いて二つの槽の前に戻る。水か湯か、ちょっとわからない。試しに、左側の槽に手を漬けてみた。


「あっちぃ!」


「殿下」


俺の声を聴いて先ほどの女性が入ってきた。俺は思わず、


「こっち見るなと言っただろうがぁ!」


と叫んだ。女性はご無礼を、と泣きそうな声で再び扉を閉めた。ゴメン、そんな乱暴な男じゃないんだ。ただ、恥ずかしいだけなんだ……。あ、今の女性に、オシリ見られちゃったかな……。


……それにしても、めちゃくちゃ熱い。火傷するんじゃないかと思うほどの熱さだ。ということは、隣は水だろう。そうだよな? そんなことを思いながら、恐る恐る手を入れてみた。


「……つめてぇ」


こちらは予想以上に冷たかった。要は、この盥の中で水と湯を混ぜていい感じにして、湯浴みしろということだ。家の風呂と同じだ。


早速、近くにあった小さな酌で湯を組み、水を汲みして大きな盥をいっぱいにする。そうしておいて、湯を体に浴び、濡らしたタオルで体を拭いていく。瞬く間にそれを終わらせる。


ふと見ると、白い塊が目に入った。これは使った方がいいのか迷う。外にいる女性たちに聞けばわかるのだろうが、なんだかそれは、イヤだ。試しにそれで腕を洗ってみる。みるみる白い泡が湧いてきた。いい香りがする。おおこれはいいなと思いながら、それをもう一方の手で落とそうとするが、擦れば擦るほど泡が出てくる。何だこれはと思いながら、それを湯で洗い流す。


「……うおっ、ツルツルだ」


汚れが落ち、今まで経験したこともないほどに肌がツルツルになっていた。俺はその白い塊を全身に塗りたくった。面倒くさいので、小さな盥で湯を掬い、そのまま隣の水を掬う。それを体に浴びていく。何度か繰り返していると、どのくらいでいい感じの温度になるのかという塩梅もわかってきた。


「……さっぱりした」


思った以上にさっぱりした。大きなタオルを手に取り、体を拭いていく。これも相当に高級なものなのだろう。驚くような速さで水分を吸収していく。


「よしっ」


湯浴みは終わった。バスルームを出ようとしたそのとき、外で女性たちが控えていることを思い出した。後ろを向いてくれていればいいが、そうでなかった場合、俺のすべてを見られてしまうことになる。それは、イヤだ。


大きなタオルを腰に巻く。これで、最悪の状態は避けられる。


扉を開ける。女性たちと目が合った。


「うわっ!」


「ひゃっ!」


四人が同時に声を上げた。こっちを見るなと言っただろうがぁ。こっち見てるじゃん。


見ると三人はそれぞれ何やら服のようなものを持っていた。何だと思っていると、女性の一人が申し訳なさそうに口を開いた。


「申し訳ございません。ただ、殿下のお召し物を用意せねばなりませんでしたので……」


残る二人も、口々に申し訳ございませんと言ってその場に跪いて頭を下げた。まあ、確かに国王に会うのに、あのシャツ一枚ではいけないことは俺にもわかる。彼女らは着替えの服を用意していてくれたのだろう。そう思うと、何だか申し訳なくなった。


「……ああ、いいです。その……お召し物というのは?」


俺の声に、ひとりの女性が顔を上げ、近づいてきた。見ると、白くて短いズボンのようなものを持っている。彼女はそれを自分の膝の上に乗せると、失礼しますと言って、腰に巻いているタオルに手を伸ばしてきた。


「ちょ、ちょっと待って。ええと、それ、その、膝にのせているヤツ。それは、下着ですよね? だったら貸してください。いえ、大丈夫。自分で履きます。貸してください」


俺は女性から下着をひったくると、後ろを向いてそれを身に着けた。ちょっと、キツイかな……。


振り返ると、先の女性が両手を差し出している。ああ、バスタオルを取ってくれるのかと、彼女に差し出す。女性はそれをきれいに折りたたみながら、別室に消えていった。


「失礼いたします」


残りの二人の女性が服とズボンを持って近くにやって来た。ズボンも服も、色々と紐が飛び出ていて、複雑そうだ。面倒くさいので、彼女らに任せることにする。


下着、シャツ、服、ズボン、次々と着せられていく。金や銀で刺しゅうされた派手な衣装だ。いかにも王族といういで立ちになった。


「殿下、恐れ入りますが、こちらにお掛けくださいませ」


言われるがままに椅子に腰かける。そのとき、女性が失礼しますと言って、両手を俺の顔に添え、そのまま自身の顔を近づけてきた。よく見ると、とてもきれいな、お姉さんだ。


一体、何をする気だ? ……心臓の鼓動が、速くなってきた……。

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