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ひとりでできます

柔らかい絨毯に足を取られ、四苦八苦しながら歩を進める俺を追い抜いて、シェイスらは建物の入り口前で立ち止まり、俺の到着を待った。何だか、早く歩いて来いよと言わんばかりの顔をしているように見えるのは、気のせいだろうか。


「ご案内します」


そう言ってシェイスは歩き始めた。


意外と歩くのが早い。オイちょっと待ってくれよと言いたかったが、彼の雰囲気はそうしたことを言わせないだけの迫力があった。黙ってついて来い、さもないとブッ飛ばすぞと言わんばかりの気配が出ていた。


途中、王族なのか、この建物の職員なのかはわからないが、何人かの人にすれ違う。俺を見た人の反応は様々だ。何だコイツは、という視線を向けてくる者、特に興味を示さない者、どこか見覚えがありそうな顔をする者さえいた。俺は、アンタを知らないけれどね。


驚いたのが、白髪交じりの老人ともすれ違うのだが、彼らは一様に俺を見て驚いた表情を浮かべる。目を丸くして、立ち止まるのだ。俺にとっては、そんなに驚かれるような心当たりはない。ついこの間、子爵の屋敷で剣舞を披露したが、それを見た人かな、とも考えたが、まさかあんな田舎に来るような人でもあるまい。俺の顔がそんなにいい男なのかとも思ったが、その可能性が低いのは誰よりも俺が一番よくわかっている。


そんな俺には見向きもせず、シェイスはドンドンと歩いて行く。行けども行けども廊下が続いていて、一体どれほどこの建物が広いのだと驚きながら付いていく。いつしか弟のクレストは姿を消していた。アイツどこに行ったんだよと思ったが、はぐれたのかもしれない。それほど建物は広く、迷路のようになっていた。一瞬でもシェイスから目を離せば、俺が迷子になる可能性がある。


そのとき、シェイスが扉を開けて部屋の中に入っていった。俺も入っていいのかどうかがわからないので、おずおずと中を覗き込む。


「どうぞ、お入りください」


シェイスがそう言って頭を下げている。もう、体中から早くしろよお前、という空気が溢れているのがわかる。


「早速で恐縮でございますが、これから湯浴みをしていただきます」


部屋に入るなり、シェイスがそんなことを言い出した。その声が合図であったかのように、エプロン姿の女性が三人現れて、俺の前で並ぶとスッと頭を下げた。


「すぐに、後宮に参ります。まずは大上王陛下にお目通りをいただきまして、そのあとで国王陛下にお目通り。最後に、オーツ大上妃にお目通りをいただきます。その前に、殿下には湯浴みをいただき、汚れを落としていただきたく存じます」


そう言って彼はまた歩き出す。そういえば、昨日から湯浴みをしていなかったなと思いつつ、彼の後ろを追う。その俺の後ろから三人の女性も追いかけてきた。


シェイスが扉を開けて、中に入るよう促してきた。勧められるままに中に入るとそこは広い部屋だった。高級そうなタンスが置かれ、ソファーなどが並べられていた。


「失礼いたします」


女性の一人が、そう言って俺の背後に回り、着ているシャツを脱がそうとしてきた。え、いや、ちょっと、と言おうとしたそのときには、もう一人の女性が俺の前で跪き、ベルトに手をかけていた。


「ちょっと待って、待ってください」


俺の声に女性たちは驚いたような表情を浮かべ、さっと俺の前に集まると、ご無礼をと言って頭を下げた。よく見ると、三人とも目鼻顔立ちが整っている。大変な美女たちだ。


「いや、あの、何をなさるつもりで?」


「殿下のお召のものをお預かりするのでございます。その上で、私どもが僭越ながら、殿下のお背中をお流しするのでございます」


「いや、別に、ひとりでできますから。あの……バスルームは、どちらに?」


三人の女性は顔を見合わせていたが、やがて、手にタオルを持っていた女性が立ち上がり、部屋の奥に小走りに走っていくと、扉を開けた。


「こ、こちらでございます」


そこに行ってみると、これまた広いバスルームが現れた。大きな槽が二つあり、満々と水がたたえられている。


「わかりました。一人でできますから、取り敢えず、出ててもらえませんか?」


「あの……出る、と言われますと?」


「この部屋から出ててください」


「そ……それでは、私どもがお仕えできなくなります」


三人とも絶望したかのような顔になっている。なんで? なんでそんな顔になるんだ?


「わっ、わかりました。でしたら、後ろを向いていてください」


「後ろ……でございますか?」


「そうです。俺がいいと言うまで、後ろを向いていてください。あ、そのタオル、もらいます。その大きなやつも。それ、体を拭くやつですよね? 大丈夫です。一人でできます」


俺は二本のタオルを受け取ると、女性たちに目で後ろを向くように促した。彼女らは戸惑いながら俺に背を向けた。


「俺が、いいと言うまで、こちらを向くことは許しません。いいですね、決して、見ては、なりませんよ?」


そう言いながら俺は素早く服を脱ぎ、タオルを持ってバスルームに入った。


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