到着
馬車は一度も停車することなく走り続けた。王都に着くまでの間に、今回の詳細は説明するとシェイスは言っていた気がするが、彼がやってくる気配がなかった。まあ、馬車が結構な速さで走っているので、ここに来るのは難しい相談なのだろうが。
すでに夜は更けてきていた。一体今が何時なのか、時計がないのでわからないが、体感的に深夜であることはわかる。村を出てから数時間が経つが、馬は止まることなく駆け続けている。こんな馬は初めてだ。大体これだけの速さで走れば、馬はすぐにバテてしまう。三十分も走ればいいところなのだが、この馬は車を曳きながら走り続けている。化け物と言う外はない。
外は真っ暗で何も見えないし、車内も明かりがないので、何も見えない。時おりゴンという音と共に車が跳ね上がって体が飛ばされそうになるので、正直言って少し怖い。常に気を張っていなければならない状態だ。
どのくらい走っただろうか。馬車が速度を緩めた。そのとき、馬車の隣を馬に乗った男たちが追い抜いていくのが見えた。きっとあれは、シェイスとクレストなのだろう。一体なんだろうか。この先で何か問題でも起こったのだろうか。
そんなことを考えながら進んでいると、馬車がさらに速度を落とした。どこかで停まるのかなと思っていると、その速度のままゆっくりと走り続ける。
「王太子殿下にぃ!」
突然男の大きな声が聞こえてきてビクッとなる。声は反対側の扉から聞こえてきた。そこにはほのかな光が見えていた。思わずその方向に体を進める。
見ると、馬車の外には松明を持った兵士たちが一列に並んでいた。
「敬礼!」
男の大きな声が再び聞こえてきた。並んだ兵士たちが一斉に頭を下げる。俺はどうすればいいのかがわからずに、その兵士たちをずっと眺め続けていた。
兵士たちは結構な数が並んでいた。どこかに戦いに行くのだろうか、とさえ思われるほどの規模だった。まさか俺を迎えに来た? バカな。村道場の若旦那を迎えに来るほど彼らも暇じゃないだろう。
……あ、俺は、王太子なんだっけ?
否が応でも現実を突きつけられる。これだけの兵士が、たかが俺のためだけに向かって頭を下げている。一体俺はどうなってしまうのだろう。恐怖感さえこみあげてきた。
兵士たちの隊列を抜けてしばらく走ると馬車が停まった。休憩かと思ったが、馬を繋ぎ替えたのだろう。すぐにまた走り出し、スピードを上げた。結局俺は馬車の中で一睡もすることができなかった。立ち上る朝日を見て、少し安心したくらいだった。
周囲が明るくなってくると、地平線の先に一本の線が見えた。あれは何だと思いながら目を凝らして見ていると、それは城壁だった。とんでもない長さだ。どうやらあれが王都らしい。それが徐々に近づいきていた。
再び馬に乗った男二人が馬車を追い抜いて行った。今度は明るいので青い服がしっかりと見えた。どうやら、あれはシェイスとクレストの二人に違いない。
また、兵士か何かの出迎えがあるのかと思っていたが、そうしたことは一切なかった。人の姿が見えてきて、徐々にそれが多くなってくる。馬車も速度を落としていく。道行く人は野菜を担いでいたり、冒険者風の格好をしていたりして、様々だった。そんな彼らは馬車を一顧だにしない。これが王族の馬車だと振れていないからだろう。
その馬車はあるところまで来ると、ぐるりと方向を変え、別の方角に向かって走り始めた。速度も早まっていく。一体どこをどう走っているのかが見当もつかない。さっきまでちらほら見えた道行く人の姿も見えなくなった。逆側の窓を見ると、壁が見える。どうやら城壁に沿って走っているようだ。
どのくらい走っただろうか。馬車が速度を落とし始めた。どこかで停まるのかなと思っていたら、再びぐるりと方向を変えた。その瞬間、車内が真っ暗になった。一体どうしたのだと思っていたら、ようやく馬車が停まった。一瞬の静寂のあと、扉が静かに開かれた。これは、降りてこいということなのだろう。俺はゆっくりと馬車の外に出た。
「王太子殿下、お待ち申し上げておりました」
突然そんな声が聞こえてきて、体が震える。見ると、美々しく着飾った男女数名が馬車の前に整列して、頭を下げていた。その前には、赤い絨毯が敷かれていた。これは、一体、なんだ?
「ささ、殿下、お進みください。国王陛下がお待ちでございます」
見ると、馬車に乗るためのステップのすぐそばに、シェイスとクレストの二人が片膝をついて控えていた。俺はどうしてよいのかがわからず、シェイスに視線を向けたままだ。そんな俺に向かって彼はスッと右手を挙げて、絨毯の上を進むように指示した。
戸惑いながら馬車から降りて、絨毯の上を進む。これもフカフカで足を取られそうになる。その左右には男女が控えており、男は手を当てたままで頭を下げている。女性はスカートをつまみ、足を少し折った状態で頭を下げている。これは一体、何だ。何なのだ……。
長時間馬車に揺られていたせいか、足が笑う。歩きにくい絨毯と相まって俺は、必死になって足を動かした……。




