攻城戦のはじまり
三十分後、大帝の命令通り、総攻撃は開始された。ただ、それは俺が想像していたよりも大人しい攻撃だった。
総攻撃と聞いて、てっきり大音声を上げ、鳴り物を鳴り響かせ、馬鉄のけたたましい音と共に突撃を開始するものと思っていたが、そんなことは一切なく、各部隊が粛々と城壁に向かって行進する、というものだった。
実に静かだった。ただ、兵士たちの大地を踏み鳴らす音だけが聞こえてきていた。
あっという間に、前衛を守っていた部隊が王都に向かっていった。俺たちも突撃しようと命令を出そうとしたそのとき、側に控えていた親父が口を開いた。
「シェンさん、何をする気です」
「突撃の命令を出そうと思います」
「およしなさい」
「え?」
「よく見てごらんなさい。前衛の部隊は進んでいきましたけれど、城壁の前で渋滞してます。ここで我々が動けば、味方は前と後ろに挟まれた形になります。そうなると、攻撃を受けた際に、退くことができなくなります。我々が動くのは、あの前衛部隊が壊滅に追い込まれるか、城壁を超えたときです」
「いや、でも、突撃を仕掛けないと、討伐の対象とする、と」
「バカ野郎」
オジキがそう言ってカッカッカと笑う。
「心配ぇするな。お前ぇはそこにデンと座っていりゃいいんだ」
「でも……」
「でももへちまもあるか。考えても見ねぇ。エルドライからの軍監さまも、お越しになってねぇじゃねぇか。この戦いにおける作戦は、軍監殿に相談をしなきゃならねぇんだろう? そのお頭がいやきゃ、どうにもならねぇじゃねぇか」
確かに、親父とオジキの言っていることは一理ある。いま、軍を動かしてしまえば、渋滞し、下手をすれば混乱してしまうだろう。そうなれば、敵に攻撃する隙を与えることになる。それは得策ではない。
それにしても、こんな状況下でどうしてこの二人はここまで平静でいられるのだろうか。きっと、潜ってきた修羅場の数が違うのだろう。
兵士たちは粛々と城壁の壁を登り始めていた。敵からの攻撃はなかった。まさか本当に、こちらからの攻撃を予測していなかったのだろうか。それとも、全方向から攻められていて、混乱しているのだろうか。ただ、事実として、敵からの攻撃が一切ないというのは、不気味以外の何物でもなかった。
と、東側の城壁で歓声が上がった。ついに戦いが始まったようだ。そこから煙も上がってきている。ふと前を見ると、前衛の部隊の半分以上が城壁に上っている。と、何と、城門が開いた。あれだけ強固に守られていた城門が開いた。そこに兵士たちが続々と向かっている。
「我々も攻撃を……」
「まだだ」
「……」
「考えても見ねぇ、アイツらが敵の攻撃を受けて撤退してきたらどうなるんでぇ。俺たちが攻撃を仕掛けりゃ、鉢合わせになるじゃねぇか。攻撃に移るなぁ、もうちっと後からだぁ」
「わかり、ました」
そんな会話を交わしていると、サウズがやって来た。彼はさも申し訳ないと言わんばかりの様子で、俺たちのすぐ近くに座った。
「すでに、前衛の部隊は攻撃に移っております。我らはいかがしましょうか」
シェイスが一切感情をこめずに口を開く。サウズは、
「しばらくはこのままでよろしいでしょう」
と言って涼しい顔をしていた。さらに彼は、
「お味方の攻撃は成功しております。さすがはユアザライ王様。陛下の作戦がまんまと当たりました。お見事でございました」
と言って頭を下げた。そんなことはおくびにも思っていないのはわかっていたが、ここは鷹揚に頷いておく。
「さて、問題はここからです」
サウズはそう言って俺たち全員に視線を向けた。
「我らの攻撃を予想していなかった敵は、防戦の態勢を取るのが遅れました。この外側の城壁は問題なく落とすことができましょう。ただ、敵は内側の城壁に兵力を集中させて防御態勢を取ることでしょう。ここを破るのは簡単なことではございません。おそらくご出陣の命令があるでしょうから、皆さま、緊張してお待ちいただきますように」
「その内側の城壁というのは、どのくらいの強度を誇るでしょう?」
「もともとは、王都を守るために作られておりますので、高く、強固なものとなっております。火なども強く、なかなか落とせるものではございますまい。ただ、四方を我らが包囲しておりますので、物資の流入は止められております。先の水断ちも効いているものと思いますので、再度敵が捨て身の攻撃を仕掛けてくる可能性もあります。油断なさいませんように」
そう言って、サウズは本陣に戻りますと言って、その場を去っていった。
彼が再び現れたのは、それから一時間たったころだった。
「大帝陛下から勅命が発せられました」
いやにいかめしい言い方をするなと思いつつ、彼に向き直る。今の彼は勅使であり、言わば大帝の名代だ。大帝と同じ態度を取らねばならないので、親父たちは片膝をついて畏まり、俺は頭を下げた。
「全軍に申し渡す。外の城壁の中にある建物に火をかけるべきこと。一木一草ことごとく焼き払え」
そう言って彼は胸を張った。
……すべてを、焼き払え? 無茶苦茶じゃないか?




