総攻撃の命令
「私は、このまま全軍で一気に総攻撃をかけるのが得策と思います」
一気に言い切ると、皇帝がギョッとした表情を浮かべた。
「婿殿、気は確かか。そんなことをすれば、わが軍は甚大な被害を受けることであろう。あたら兵を無駄死にさせてはならぬ」
「いいえ陛下。ここは力攻めです。それこそが最善の策でございます」
「……それで?」
大帝の顔が変わっている。以前に見た、何とも嫌な笑顔だ。人を値踏みするような顔だ。
「力攻めを、私は、提案します」
「それは聞いた。なぜ、力攻めを、そなたは選択したのだ。余は、理由が聞きたい」
「父上……」
「黙っておれ」
「……」
「よいぞ、ユアザライ。忌憚なく申せ。余は、そなたの策に興味がある。きっと、そなたの父、トルシルエであれば、迷うことなく総攻めを選択するだろう。単に親子であるということで、その作戦を思いついたわけではあるまい?」
……思いつきなんです、という言葉を飲み込む。あれ、何だか思っていたのと全く違う方向に話が進んでいないか?
そうは思って見ても、この場を逃げ切れるわけではない。さて、どうしようか……。
「敵も同じように考えているのではないかと思いました」
「同じように? よくわからぬな」
「先ほどの攻撃が失敗に終わりました。それから今までトリデリアの王都には一切攻撃は加えられておりません。それに、大帝陛下のそのお姿……。落馬して体に傷を負ったことは、敵も承知していることでしょう。となれば、我々は今、混乱している。ということは、本日の攻撃はないと考えているのではないか。そうなれば、守りは手薄になるのではないか。そう考えたからです」
ただ、思い付きでしゃべっている。喋りながら、そんなことも考えられるな、などと思っているので、何とも浅はかだなと自分でも思う。だが、大帝は小首をかしげながら、小さく頷いた。
「なるほどな。言われてみれば、その考えも当たらずとも遠からずであるかもしれぬな。ユアザライ、大義であった」
「ははっ」
よかった。何とか解放された。大帝父子の仲を取り持つことはできなかったが、この場から離れることはできるようだ。
そんなことを考えながら歩き始めると、大帝が口を開いた。
「待て」
「はっ」
「まだ話は終わっておらぬ」
「はぁ」
「まあ、ゆっくりしていけ」
できれば早くお暇をしたいのですけれど、という言葉を飲み込む。仕方なく元居た場所に戻る。サウズが鋭い視線を向けてくる。何だよ、勝手に持ち場を離れるなってか? 誰だってあんな風に言われたら、退室していいと思うだろうが。だって、大儀であるって言ったのだから。
そんなことを考えていると、大帝が力なく口を開く。
「余も、概ね、ユアザライの作戦に賛成だ」
皇帝が目を見開く。俺も少し驚いてしまった。
「よく見てみよ。いま、この都は、堀の役割を果たしていた川が干上がっている状態である。攻めるのはたやすい。全方向から一気に攻めれば、敵の防御が手薄になるところが必ず出てくる。そこに兵力を集中して一気に城壁を破る。それがこの都を落とす最も効率的な作戦であると余は見た」
そこまで言うと彼は皇帝に視線を向けた。
「そなたには悪いが、多くの兵を失う作戦であることは、認める」
皇帝はその言葉を受けて、少し俯いた。
「ただ、確かに、ユアザライの言う通り、敵は本日ただいまの攻撃はないと見ている可能性は高い。あの攻撃は、捨て身の攻撃は敵の本来の作戦ではないと余は見ている。うまくいけばよし、失敗すればまた別の作戦があるのだろう。まだまだ敵には余裕があると見た。それに、この度の攻撃で、わが軍の本陣深くまで攻め込まれた。きっと敵は、エルドライ弱し、と思っていることだろう。勝って兜の緒を締めよ、とは言うが、言うは易く行うは難しじゃ。どうしても兵士たちは、目先の勝利に酔いたがる。今がおそらくそのときだろう。逆に、わが軍はいま、緊張の状態にある。他の軍勢を見てみよ。ある者は陣を破られ、ある者は動くことすらできなんだ。何としても次の戦いで武功を上げて、汚名を雪ぎたいと考えているに違いない。そこに、いま、その機会を与えたらばどうじゃ。奴らは死に物狂いで戦うのではないか。どうじゃ?」
誰も言葉を発しない。というより、大帝の目が完全にキマっている。言葉に熱を帯びている。何とも言えぬ迫力が尋常ではない。これが、この男の本性というところか。
「ユアザライ」
「は、ははっ」
「そなたは、変わらず我らの前で備えよ」
「はっ」
「全軍に触れを出せ。三十分後、総攻撃を開始せよと。遅れた者は容赦なく討伐の対象とする。各隊にそう申し伝えよ」
サウズが一礼して足早にその場を去っていった。またしても、そこに残っているのは、皇帝と俺、そして大帝の三人だけになった。
「ユアザライ。倅と、仲良くしてやってくれ」
大帝はさも疲れたと言わんばかりの表情を浮かべて、その場を後にしていった。




